宮澤美郷(中)


  鳴神克樹なるかみかつきは幼い頃、いつも兄に遊んでもらっていた。


 克樹のお気に入りの遊びは「隠れ鬼」だった。広い屋敷の片隅に息を潜める克樹を、兄は必ず見つけだしてくれる。


「みーつけた」


 まだ声変わりしていない高く優しい声とともに、兄の美郷が克樹に手を伸ばす。きゃーっと歓声を上げて逃げる克樹を腕の中に閉じこめ、五つ歳の離れた兄が笑う。


「克樹、とーった」


 その瞬間が、克樹は一番好きだった。


 たった一度だけ、美郷が「鬼を逆にしてみよう」と言ったことがある。隠れた美郷を克樹が探す。幼い克樹には兄の隠れる場所など見当もつかず、大して探さないまま大泣きしてしまった。


 慌てて出てきた兄にしがみついて泣きじゃくると、兄は優しく克樹の頭を撫でて約束してくれた。


「ごめんね、もう二度としないよ」








 ――約束から十年もしないうちに、美郷は黙って姿を消した。

 ――あの日から、克樹はずっと「鬼」のままだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る