第29話脱獄会議

「そもそも、収容者全員洗脳済みじゃないですか。わざわざこんな所で会議する必要あるんですかね」

「レギンの魔術って完璧じゃないんだよ。全員じゃねーが、この棟に居た奴らは終わってるはずだけど……まぁ、念には念を入れてってね」

 人気の無い倉庫裏。積み上げられたダンボールに腰掛け、光太はぶつくさと文句を言っていた。同様に積み上がっていたダンボールを一つ取り、光太の前に置いて椅子代わりに座る男、ゲル。壁に背中を預けて腕組をしたレギンレイヴは傍観でも決め込んでいるらしい。倉庫の屋根が日除けとなり、常夏の日差しの暑さは大分和らいでいる。和らいでいるとはいえ暑さの苦手な光太はしっとりと汗ばむ手にイライラを募らせていた。

「それで、なんで僕をわざわざここへ連れてきたんですか? というか、貴方達はどうしてここへ?」

「なんだよ盗み聞きしてたんじゃないのか? レギンとイリスの会話を聞いたからここに来たんだろう?」

「酩酊状態だったんでうろ覚えなんですよ。はっきりとは覚えてないです。ただ、ハネムーンって単語は覚えてたんで……」

 嘘は言っていない。事実、あの時の光太はあの大量の酒のせいで意識などあってないようなものだった。ただ、酒に溺れるのだけは嫌で何が何でも意識を手放すまいと必死だった気がする。

「結構、結構。お陰で君をここに連れてくることが出来た。それだけでこちとら御の字だよ」

「あの……何なんですか?」

「言ったろ? オレたちは君に脱獄して欲しいんだ。高名な大妖怪ならそのくらい余裕だろ?」

「訳がわかりません。なんだって僕に脱獄をそんなに勧めるんですか? そもそも、それなら最初からここに連れてくる必要なんて無いじゃないですか」

「何言ってんだ。君には『ここから脱獄した』という事実を作ってもらいたいだけだよ。それも、普通の人間では到底考えられない方法で」

「……何が狙いなんですか」

 明らかに訝しんだ様子の光太に、ゲルは苦笑している。レギンレイヴの表情に変化は見られない。ただ黙って話を聞いているだけのようだ。

「そうだなぁ……何だと思う?」

「まず間違いなく僕に利益は無いでしょうね」

「ご明察」

 ゲルは笑ってそう言った。光太は不思議そうな表情でゲルを見た。断言されたのが不思議で仕方ないらしい。

「ただ、オレと君とじゃ利益の考え方が違うだろう? オレにとっては利益なんて感じなくても君には利益かもしれない」

「……策士ってそういう所まで計算して人を計画に引き込むんじゃないんですか?」

「相手が人間ならいざしらず、異国の妖怪の考えなんてオレに分かるかよ」

 拍子抜けしたように光太が肩を落とした。ゲルはそれでも笑っている。光太は不審そうにゲルを見る。随分と舐められているようである。

「だが一つだけ分かっていることはあるんだ」

 ゲルが自信ありげにそう言った。光太は最早話半分に聞き流すつもりで先を促した。

「君、可愛い女の子とか好きだろ?」

「………………なんだ」

 ゲルの言葉に、光太は気が変わったように改めてゲルを見た。その口元には笑みすら浮かんでいる。

「解ってるんじゃないですか」

 その話乗った、とばかりに不敵に笑い身を乗り出した光太。ゲルは待ってましたとばかりににしし、と笑う。その光景にレギンレイヴは静かに、呆れたように肩を落とした。

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