第8話 半年経たないというのに二本目

 仕方ないのだ。

 そう、仕方ない。だって見つけちゃったんだもん。


 ボディは赤、ピックガードが黒くて、ピックアップはHSH(ハムバッカー・シングル・ハムバッカー)でしかも黒。ネックはローズウッドで濃い色をしている。

 Squierというフェンダー社のセカンドブランドで、80年代前半製。

それなりのブランドのギターにはシリアルナンバーが入っているので、いつどこで作られたかわかるようになっている。細かくいうと、フジゲンというギター工房(今でも存続している名工房)がライセンス生産したもので、当時は今よりも機械化が進んでいないこともあって、日本の職人によるハンドメイドギターなのだ。

30年以上前の、ギターなんて買う余裕がなかった頃の、ROCKに憧れを抱いたあの頃のギター。


 ギターのほとんどは木製だ。

 木材は割れなどを起こさないように乾燥してから加工するのだけど、馴染んでいる水分は残っているもので、製品になってからも乾燥し続けるし、湿度が高ければ吸収もする。

 そうすると当然、膨張したり収縮したりするわけで、テーブル天板が割れたり、カウンターが反ったりする。

 木材は乾燥しているほうが、より“鳴る”。

 好みの問題もあるかも知れないけど、深みのある響きになる。スピーカーや楽器全般に言えることで、古いオーディオ機材や楽器が高値で取引されるのは、そういった側面もあるのだ。

 こと木材に関しては“古い”ということに価値があり、樹齢だけでなく、切り出してからの時間がその品質を高めていく。

 だから古い楽器は高い。クラッシックを演ってらっしゃる方はよくわかるのではないだろうか。

 ギターも同じで、古い時代の乾燥したボディはよく“鳴る”。

 ただし木製であるが故に、保存状態や手入れが悪いと当然反ったり割れたりするわけで、古ければ良いというわけではない。


 話はそれたが、赤いストラトである。

 日本の職人の技術は海外でも評価されていて、日本製の古いギターはジャパンビンテージといって人気がある。

 そんな一品が某オークションには溢れているのだけれど、日本で古いギターを評価している人は思ったよりも少ないようだ。

 まあ、新しいものが安く手に入るし、木製部分はともかく電子機器や金属部分は劣化しているものが多いから、見た目でいえばそうなるかも知れないけど。

 勿体ない。


 そんなわけで入札。

 状態に関してのリスクも承知でポチっと入札。


 二万円で落札…。


 …。


 マジかっ!


 北海道の方、ありがとうございました。

 気候の変化が気になるところではあるけど、フルメンテナンス前提だし、木製部分以外はパーツ交換も視野に入れているので、ネックの反りが酷くなければOKなのだ。


 数日後、宅急便でストラトちゃんがやって来た。

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