第5話 爪を切ろう
僕はピカピカのレスポールを膝に抱きながら、パソコンのモニターと睨めっこをしている。
情報収集、またマーケティングである。
検索ワードは単純にして明解。
『ギター コード』
まずコードの押さえ方をざっと調べて、押さえてみる。そして、押さえやすいコードは何かを確認していく。
同時にコード譜を集めたサイトをチェックしながら、自分が知っている曲で、自分が押さえられそうなコードで構成されている曲を探す。
よく“F”のコードは押さえるのが難しいと聞いていたので、これを含んだ曲にしようとは思っていたのだが、探すまでもなくかなりの確率で“F”が登場する。
くっ…“F”を乗り越えないと先には進めないということか…。
そんなことを思いながら検索しているうちに、ギターを弾く上で重要なことを発見する。
思ってもみなかったが、言われてみれば納得の“爪切り”。
色々なコードを押さえてみて、爪を綺麗に切っていないと押さえられるもんも押さえられないということに気づいたのだ。
ギタリストの手は綺麗だと思っていたが、なるほど、弾けるコンディションを整えていたからなのだと、今更ながらわかったのだった。
そういうことなので、ヤスリまで掛けて爪を整える。
コードの押さえ方にも秘密があった。
まず、大雑把に二種類の押さえ方というか、ポジションがあった。ローポジションとハイポジションといわれるものだ。
ローポジションとはネックの先によったポジションで、ハイポジションとは1フレットから9フレットまでを使ったポジション。
ローポジションがコードによって複雑に押さえる場所が変わるのに対して、ハイポジションは二種類の押さえ方を覚えてしまえば弾けてしまう。
なんだと…。
それでは、ハイポジションならすぐにギターが弾けるようになってしまうじゃないかっ!
…。
そんなわけあるかっ!
ハイポジションの罠は“バレー”だった。
そのバレーこそが、Fコードを難しいものにしている原因だったのだ。
バレーとは一本の指で複数の弦を押さえる奏法で、ハイポジションでは全てのコードでバレーしなければならない。
更にFコードに関していえば、ローポジションもハイポジションも同じ押さえ方だった。
Fの形のまま2フレット上るとGコード、更に2フレット上がってAコード、同じように2フレット上がってBコードとなる。
とにかくFさえマスターすれば、この四つのコードが弾けるようになるっ!
だがしかし…本当の敵はFでは無かったのだ。
あなたの一番器用な指はどの指ですか?
そ、そりゃ…
はい、中指って答えた人はアウトです、アウト。オッサンです。
右手だろうと左手だろうと、万能なのは人差し指。つまり器用なのは人差し指なわけで、この指にできないことは他の指にできるわけがない。
Fは人差し指で1フレットをバレーして、3弦2フレットを中指で、5弦と4弦の3フレットを薬指と小指で其々押さえるわけだが、難しいのは人差し指のバレー。
6弦、2弦、1弦の1フレットが実際に押さえなきゃいけないところなので、実は真ん中辺りは浮いていても問題ない。
特に鳴りにくいのは2弦と1弦で、指の根本に近い部分で押さえなければならない。
逆に考えればいいのだ。根本さえしっかり鳴るように意識していれば、指先の6弦は何とかなる。最悪6弦は鳴らなくてもいい。だって弦はあと5本もあるんだもの。
ということで、Fはあっさりクリア…したことにした。
ハイポジションでの真の敵はCとDとEだった。
強敵の後に更なる強敵って、なんて少年誌的な展開なんでしょう…。
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