告白ゲーム

@nekonigiri

青春

第1話 あの桜の樹の下で

美しく咲き誇る花たちは、文句も言わずに春が来るのをずっと待っている。

それが、自分達の役目だと知って。

そんな季節に僕達は、入学式という大切な日を迎えた。

特に、緊張と楽しいという感情はなく今日を迎えたけど、嬉しさという感情が一番多かった。



昨日の夜に明日は遅刻しないまいと、朝六時三十分に目覚まし時計をセットしたけど電池切れで時計は動かず僕は結局八時に起きてしまった―。


時計の音は部屋に響き渡ることは、なく静かに休んでいた。

十分睡眠をとった僕は小学生並の小さな手をグーにし、腕を十分のばして体を起こした。

でも、まだ眠いからと言って、横になりそっと目を閉じた。

五分程経つと、しっかり瞼を開けて今日も一日頑張るぞ。と、強い気持ちを胸に抱いてリビングに向かうと―。



お母さんが大慌てで料理を作っており、僕は理解を把握できないままお母さんに質問をした。

「お母さん、そんなに慌てなくてもまだ六時三十五分ですよ。慌てずに落ち着いて、料理をなさって下さい」

すると、お母さんは料理をしながら「何言ってるの皐月さつき!! とっくに、六時は過ぎてるのよ!」


お母さんの言葉を聞いた僕は全てを悟った。

悟った僕はすぐさま支度に取り掛かる。

新品の制服に急いで着替えて、寝癖をなおす。



その間に、お母さんが料理を済ますと、何も言わないままご飯を食べ、お母さんと外に出てドアの鍵をしめた。

「ガチャ」っと、いう音を聞いて鍵がかかったことを把握した。


次は、車に向けてボタンを押し「ピッピッピー」という音を聞き車の鍵が開いたことを確認すると車に乗りこんだ。


こんな、慌てている時にでも、いつも聴いてる音楽を流す。


少しでも、心を落ち着かせるためでもあるが大好きな曲を少しでも聞きたいという気持ちが多い。


自然と曲は、いや、音は人間にとって必要な物である。


音は毎日聞こえてくる。


人が居なくたって、小鳥の響き渡る声、風が吹いて葉同士が重なり合って音色を噛み出している。


だから、世界は音で満ちている、成り立っている。



草木が芽生えているところに、足を踏み入れてみると

、音が出る。


お店に入ると、入店音が必ず聞こえてくる。


ペットボトルに入った水を飲みきった後、ペットボトルを握るとほらまた、音が出る。


本を読んでいる時もそう。

そっと、ページをめくると音が出る。


必ず日常生活の中で、毎日音は聞こえてくるはず。


だから、音を大切にしていきたい気持ちが皐月は人以上あるのかもしれない。


大好きな曲が終わると、徐々に学校が近くなっているのに気がついた。


「ごめんね、皐月。お母さんもすっかり寝坊してしまって」


いつも陽気なお母さんの表情に雲がかかったように暗くなっていた。


非常に久しぶりな気がした。


「大丈夫ですよ、お母さん。僕もすっかり寝坊してしまいましたから」


そう言うと、陽気に笑い、気持ちを落ち着かせた。


「入学式に遅刻したら、皐月は一生の笑いものね」


軽い会話を始めるほど、気持ちが落ち着き、車を走らせる。

窓から、景色を覗いてみると外は、もうすぐ春らしく桜の並木道が綺麗に立派に、自分を見せている。


「あら、綺麗な桜なこと 小学校の入学式が終わった後に、お父さんと、お姉ちゃんと桜の木の下で写真を撮ったわね」


「昔なことなので、よく思い出せません」


と、くすくす笑うとお母さんは昔の話を長々と話し始めた。


「皐月、あなたは小学生の入学式の時も遅刻しそうだったのよ」


「その度たんびに、私は毎回寝坊してたのも今にはいい思い出よ」


昔から、僕はおっちょこちょいだったらしく、よく大切な日には遅刻しそうになっていたそうで自分でも、飽きれて笑ってしまった。


「そしてね、入学式後に記念にあの大きな桜の木の下で撮ろうってなってね、でも、お父さんすっかりカメラを忘れてしまったの」


「そしたら、お父さんは「少し待っててくれ」だなんて言って、電気屋さんに走っていったのよ」


「そこの、電気屋さんの一番安いデジタルカメラを自分のお小遣いから差し引いて買ってくれるまでして、写真を撮ったことを最近のように思えてくるわ」


そこまでして、買わなくても良かったのに、家うちのお父さんはどうしてそこまでしてデジタルカメラを買って写真を撮りたかったんだろう。

と、疑問が時速30㌔ぐらいの速さで僕の頭の中を走っていく。


「そこまでして、買いたかったのは〇〇〇〇〇〇〇〇ですって」


肝心なところを喋った瞬間にバイクのエンジン音など、車から音楽を流している音で打ち消されてしまった―。


「お母さん、聞き取れなかったのでもう一度言ってもらえますか?」


「さぁ、皐月もう学校に着くわよ」


「あっ、はい!」


お腹から声を出したから、車内にこの声が響き渡ったと共に、皐月の緊張感が無くなったのも感じ取れた。


登校時間の八分前に学校に着いたけど、友達や見知らぬ先生には特に何も言われなくてホットした。


一、二時間で入学式が終わり次は始業式という大事な式に変わった。


右を見ても、左を見ても、知らない人ばかりで、自己紹介すら出来ない僕のところに小さいから大の仲良しの匠たくみに出会った。


「お前も、結局この高校に入ることにしたんだな!」


「俺は、お前がここに入るって聞いたから、入ることにしたんだ」


「本当は、一番の志望高校に落ちたんでしょ」


硬い雰囲気を少しでも和らげてくれる友が居て良かったと、心底思った。


始業式の最中に喋ると怒られてしまうのは、承知な上で喋っているけど、いつ気付かれるか分からない緊張と楽しさでワクワク感が溢れ出て止まらない。


ついに、僕も高校生になったんだ。

という自覚と共に、大きな責任、将来への道を一歩前進した気分でいた。



「なぁ、なぁ今度告白ゲームしようぜ」


「ん?なにそれ?」


「告白ゲームだよ!知らないの? 結構最近流行ってるぜ」


告白をゲームにすると言う考えが僕には、あまり分からなかった。


そもそも、告白をゲームにしていいのかという、考えまでも頭に浮かんだ。


でも、せっかく親友が誘ってくれてるし、皆が楽しんでやれるゲームなら僕も参加してみよう。という気持ちは多々あった。


ろくに、校長先生の話を聞かない僕らは、告白ゲームのことについて夢中だった。


「あっ、皐月面白いこと教えてあげるよ」


まだ、何も言ってないのに匠はクスクスと笑い始め、周囲の人が匠を一斉いっせいに見た。


「校長先生の髪の毛って、ズラなんだよ」


笑いを堪えきれないまま、校長先生の方を見た。


「まじ?!そうには、見えないけど」


「本当さ!皆言ってるぜ」


匠はよく噂話を真に受けて皆に広めるのが、あるけど今回もそうなのか。

僕の頭に疑問が走った。

校長先生を侮辱してるのは、心底から謝ってるけど、先生がズラだなんて誰も予測できなかったと思う。


校長先生の話を一言も聞かなかったが、無事始業式が終わった―。




すごく硬いパイプ椅子に腰を掛け、五分ほどの休憩を終えると、自分の名前が入ったクラスを探し始めた。


でも、この高校は人数が多いので、紙に書いてある人の苗字、名前が小さく。

とてもじゃないが見る気にはなれなかったので、匠に頼んで探すことにしてもらった。


匠は自分の名前と皐月の名前を探すこと、二分。

匠の顔を見ると、白地あからさまに嬉しい顔をしていたので、声を掛けてみた。


「どう?見つかった?」


「あったよ!! あれ?」


「どうしたの?」


「俺とお前クラスが同じだよ!」


その言葉を聞いた瞬間、叫びたくなるほど嬉しかった。

でも、神聖な場所だから叫べないので、小声のままだけどその一言に全身全霊を注いだ。

匠と僕が分かるぐらいの大きさで。

大袈裟かもしれないけど、皐月にとってはとてつもなく嬉しいことなのだ。



入学式、始業式が終わると家まで歩いて帰るのが基本だが、皐月の家はあの大きな桜の木の下で写真を撮るため車で帰る。


「あっ。お母さん!!」


自分の家の車を見つけると、細長い腕を上にあげ小さい手をグーからパーに変え遠くからでも見えるよう大きく横に手を振った。


すると、お母さんは僕を見つけてくれて僕のそばまで車を移動させてくれた。


車に乗り込むと、お母さん、お父さん、お姉ちゃん、弟が座っていて全てを悟った。


何となく撮るのは分かっていたが

やっぱり、大きな桜の木の下で写真を撮るのだと。


高級椅子と似たような、クッション性がある家うちの車は一度座るともう動きたくないという謎の中毒性のある椅子だ。


そんな、椅子に座り大きく深呼吸。

スー。ハー。

二、三回深呼吸をすると今日の出来事を家族に話した。


「お姉ちゃん、聞いてよ! 匠と一緒のクラスになれたんだよ!」


「それは、良かったね。それより、何組だったの?」


「1年B組だよ!」


「何組まであるの?」


「E組までだよ!」


「とにかく、家の学校は人が多いからね」


「他の学校と比べたら多いよね」


いつもの様に、会話を弾ませるとあの桜の木の下にもう着いてしまった。


何年ぶりに見たのだろうか。

見てない内に、木は横に太く縦に長くなっている。


これでは、桜の木ではなく、桜の樹になってしまった。


「立派になったもんだな」


お父さんは樹を、ニコッとした笑い顔で触る。

すると、お母さんも「本当ね。立派になったわね」

と、語る。


でも、お母さんの場合ニコッした笑い顔、笑い声ではな、泣き顔。

次第に泣いてしまった。

「お母さん。どうしたの?」


「昔の事を思い出してしまってね」


「皐月がこの樹のように育ってくれたことが嬉しくて、嬉しくて」


そう言うと、また泪を流す。

なんて、優しいお母さんなんだ。

僕は自分のお母さんを誇りに思う。

対して目立った特技はないけれど、一生懸命僕を産んでくれたこと、いつも家事を欠かさずやってくれてること。

それだけで、幸せだった。

それだけで、嬉しかった。


お父さんはお母さんに言った。

「写真をとる前に泪を流してどうするんだ、笑顔で写真に写ってくれよ」


お父さんなりの、優しい言い方だった。

お父さんは、いつも朝早くに家を出て、いつも遅くまで家族を養うために働いている。

昔はそんなこと、当たり前のように思っていたけど今はこんなお父さんを誇りに思う。

僕が心を折れた時父は優しく寄り添ってくれて、声を掛けてくれた

「小さな幸せに気づかないのは、もう幸せだからなんだよ。それ以上の幸せが今ここにあるからなんだよ。でも、小さな幸せが身近にある事をいつまでも忘れないでね」


僕のお父さんとお母さんは優しい。

とてつもなく優しく、面白い。

なんて、いい家庭に恵まれたんだろう。


そう思うと僕も泣けてきた。

泪を流してしまった。

人生で一番多く泪を流した。

すると、お父さんも、お姉ちゃんも、弟も。


結局この記念写真は泪を流したまま写真を撮ることにした。

それも、一つの思い出として心の奥底にしまっておくために。


皐月の青春はここから始まる。

苦く、甘く、切ない青春の道を逸れずに無事渡る事が出来るのか皐月は心配だった。

けど、お父さんやお母さんのように、人に優しく接していきたいと言う気持ちが多かった。



「告白」と言う文字は皐月にとってはまだ程遠い存在なのである。

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