迷路の午前一時
甘い夜、眠くなっても思い出すのは彼女のこと。
ノイズのように毎日ふと瞬間思い出す自分に嫌気がさして死ねよって心の中で呟く度に無力になっていく感覚。
酩酊気分を味わいたいと思うだけで留まってしまう臆病者だおれは。
「今日は何をしたの?」
彼女じゃない彼女、恋人が電話ごしにそう尋ねる声に我にかえる。
「どうしたの?」
心配してくれる声色がおれを不安させる彼女のことがバレたらと。
「なんでもないよ」
けれどおれの声は不安を感じさせるものでは微塵もない。
「今日はホラー映画を見てたよ。B級のカッパと殴り合うやつ」
おれの口は適当なこと言っている。
「なにそれ面白いの?」
「面白いに決まってんじゃん。腹よじれるよ」
「それじゃホラーって言わないでしょ」
恋人の笑い声、おれまで楽しくなる。さっきまでの不安はどこだろう
そう考えた瞬間にまた彼女を思い出す。ノイズだ。死ねって今度は口にだしかけたのをかき消すように咳き込む。
「今度一緒に見ようよ。絶対面白いから」
おれは我にかえりたくてそんなことを言う。バカなおれはこんな映画を見てもさほど盛り上がらないことを知っているのに。
「えーやだよーそれよりCMでやってるアレ観に行こうよアレアレ」
「どれよどれ」
そんなやりとりにすらおれを自傷しだす。自分に自信を持てないおれを彼女は怒りもしないだろう。きっと彼女はおれに何も言わない。ただ、軽蔑するだけ。だけど今まさに話している彼女の方ならおれに何て言うだろうか?こんなおれを怒ってくれるだろうか。
怒られないのだろうか?おれは今まで誰にも言っていない彼女のこと、おれがいつでも見捨て続けてきた彼女に対しての矛盾した気持ち。面倒だと切り捨てられるだろうか? 受け入れてくれるか……
「ねぇ?聞いてる?」
そこでまた我にかえれた。
「ごめん。ちょっとウトウトしてた」
「もう一時過ぎてるもんね。私もちょっと眠たくなってきたな」
きっとそれは嘘だろう。気遣う優しさを持っている人だからそんな風に言ってくれる。
「また明日電話するね」
「うんまた明日」
「ありがとう。おやすみ」
「それじゃおやすみ」
電話切ってすぐにベットへと飛び込んだ。ほしてもう一度考える。
おれ自身がどうしたいのかを。
まずは彼女のこと、おれが引きこもりをやめることができたのは彼女のおかげだ。彼女はきっと否定するけど、変な話だけど、おれにとっては画面の向こうで泣くばかりの彼女がいてくれたからこうやって今はちゃんと学校にも行けて、おれを好きだと言ってくれる人にも会えた。
けれど、おれは彼女に対して何もできていない。きっと、これからも何もできない。おれはたった今、彼女が何をしているのかそれを知るすべを持っていない。泣いているのか、笑っているのか。生きているのか、死んでいるのかさえも。
こんなことならアカウントをフォローしておけばと後悔しない日はない。そんな後悔は無為に終わるのに。
それでもおれは今でも彼女のことが頭から離れない。何か、できることがあればしたいと思う。
この感情はきっと恋ではない。恋にはできなかった。理由は色々あるけれど、本当のところはおれじゃ彼女を幸せになどできないと強くおもってしまうからだ。
今までずっと自分に自身がなかった。彼女のおかげで少しはマシになったけど、それでも無理だと思う。そのくせ諦めがつかないのだから始末に置けない。
次におれの恋人のこと。おれなんかと付き合ってくれている彼女に対しておれはどうして欲しいのか。そしてどうしたいのか。
さっき思っていたように怒られたいのだろうか? いやちがう。おれは不安なんだ。こんな屈折した思いを抱くおれをいつに嫌いになるのか。怖くて仕方ないのだと思う。
だからこそ、怒ってそのまま本音でも話してくれればと願ってしまわずにはいられない。
どうしてこんなおれがと思ってしまう弱いおれを変えて欲しくて仕方ない。
だけど、ここまで考えてこれは正しくないと自分に言い聞かせる。おれは色んなことを言い訳にしている。自覚している。
本当は引きこもりをやめたことほんの少し後悔しているんだ。だから、あの時に出会った彼女をいつまでも忘れられずにいる。そしてそのこと誰にも秘密にして優越感に浸りたい。それがきっと本心。引きこもりという負けをなかったことにしたいがための嘘。もちろん、彼女への色々な気持ちは本当だけど、それと一緒にこの気持ちもあるんだおれには。矛盾している。けれど、この矛盾をどうしたらいいのかわからない。
明かすべきか、秘密すべきか。
明かせばどうなるか、秘密していればどうなるか。
答えは一向に見つからない。
何かを変えたいのなら明かすべきなのかもしれない。何を変えたいのか?不安か?
このままが良いのなら秘密にすべきかもしれない。何を変えたくないのか?関係性?
そうやって発散していく思考に酔いながらいつしか意識はなくなっていた。
気づいた時にはもう朝で、答えは未だ決まらな
い
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます