第30話 派遣先その3
やれやれやっと休憩かと田沼耕作は思った。とりあえず一時間ぐらいは休めるようである。重たい体を引きずるように足取りもふらつきながら休憩室へと向かう。途中何人かの派遣社員たちとすれ違ったが特に気にすることもなく簡素なテーブルとパイプ椅子が置かれている部屋へと入ってゆく。さて、何処に座ったものかと思うがこの場合は奥の壁際に近い場所が無難だと判断する。ちょうど近くに自動販売機も置かれていた。缶コーヒーを一本買いテーブルの上に置いて座る。
すると、目の前に長髪でやたら目をギラギラと輝かせている二十代かと思われる男が座って来た。
「いや~疲れましたね。昼飯はそれだけですか?カップ麺ぐらいは食べたほうがいいですよ。最近は有名なラーメン屋とコラボしていてうまいカップ麺もありますね」
ラーメン屋がカップ麵を販売しているのか?と思ったがそんな疑問を相手にぶつけて変な詮索を起こしても面倒なので適当に返事をする。
「そうですね。今日は朝急いでいたもので買う時間がなかったものですから」
「そうですか。まあ、体力勝負なので食べたほうがいいですよ」
こちらのことを気遣ってくれるのは有り難いと思うがいやに慣れ慣れしい感じがする。しかしながら、今後のことを思うとまた違う派遣先でこの人物に合う可能性も否定出来ないので穏便にこの時間が過ぎていくのを願うばかりである。そんなことを思っていると相手は弁当箱をカバンから出して机の上に置いた。その弁当箱に入っていたのはご飯と何かを混ぜたような物だった。全体に茶色っぽい感じがする。それだけならいいが悪臭が漂っている。ずいぶんと前に炊いたご飯だろうか?それともこの暑さで半ば腐りかけているのか?まあ、確かにちゃんとご飯は食べたほうがいいが腐った物を食べて腹を壊したり体調が悪くなったりするほうがよほど問題である。それとも食費代に困っているのであろうか?いろいろと疑問がわいてきたがこの際質問するのもためらわれた。
「次からはちゃんと弁当でも持ってくるようにしたいと思います」
そう返事を返すと相手は急に態度を変えた。
「そんなん知らんがな。あんたの勝手だろうが」
なんでそんなことで怒ってくるのか?これまた不可解な現象である。この世界では些細なことでも怒る人が大勢いるのだろうか?こう思うと東上のほうがよっぽどましである。彼は確かに変なところもあったがこちらの質問に対しては真摯に受け答えしてくれていた。なぜか急に東上に会いたくなってきた。この世界で心の拠り所としては今のところ彼が唯一である。しかし、もう一人いたこともこの瞬間思い出した。この世界にいるかどうかは今のところ分からないがその名前ははっきりと覚えている。
そう、「留美」ちゃんである。
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