第27話 引きこもり
田沼耕作は派遣会社からの電話を待っていた。(もしもし、田沼耕作さんはいらっしゃいますか?仕事の依頼が入りましたよ!)
そう、簡単に仕事に着けてそれなりの収入が見込まれるに違いないと。しかしながら、一向にそんな気配がないようである。一応、働く気はあるがたまに外出して生活に必要な食料品とか生活用品を買う以外は東上の部屋に一日中居るのも悪くはないと思うようになっていた。
そんな田沼耕作の態度に当の東上もさすがにそろそろ業を煮やしていた。
「ちょっと~田沼さん~、話がありますよ~」
「なんですか?いまユーチューブが面白いところなんですが」
東上は田沼耕作について前の世界では夜遅くまで仕事をしている社畜の見本みたいな人物であると思っていたがこの世界に来てからは人が変わってしまったのかと思った。それともあの実験の影響で遺伝子に何かの影響を与えてしまったのか?まさか生きている人間を解剖するわけにもいかないが遺伝子検査ぐらいならしてもいいとも思う一方でそんなことを言えばなぜ遺伝子検査をするのかと質問されこの世界に来た原因が自分とアヴドゥルにあると追及されるかも知れないという危惧も抱いた。そこでここは穏便にごく一般的な社会人の常識に訴えることにした。
「そろそろ仕事をしてはどうですかな~生活費は私が出していますけど~これでは将来困りますよ~」
「まあ、それはそうですが。派遣会社から仕事が来ないもので」
これはしまった!と東上は思った。肝心なことを言うのを忘れていた。
「自分で派遣会社のウェブサイトにアクセスして仕事を探さないといけませんよ~」
「そうなんですか?ちっとも知らなかったですね。それではファイトスッタフのウェブサイトを見せて頂けないでしょうか?」
「お安い御用だよ~まずはスッポトから始めてみてはどうでかな~」
スッポト?スッポトライトという言葉は聞いたことがあるが何だろうか?
「スッポトって何ですか?」
「一日だけの簡単な仕事だよ~」
呼称を変えただけでそれでは日雇い労働のことではないだろうか?思えば借金のこともキャッシングと言ったりほかにも浮浪者のことをホームレスと言ったり英語らしい名前に変えてイメージを変えているつもりだろうが本質は何ら変わっていない気がする。まあ、しばらく仕事をしていなかったのでリハビリがてらにそれもこの世界に慣れるためにいいかも知れないが。
「それではそのスッポトでお願いします」
すると東上は僕が見ていたユーチューブから派遣会社のウェブサイトに切り替えた。
「ちょうど倉庫での簡単な軽作業がありますよ~これでいいですね~」
倉庫の軽作業なら軽い作業に違いないと思ったのでそれに行くことにした。
「持ち物はカッターと筆記用具ぐらいですよ~あと弁当もあればいいですね~まあ~近くのコンビニで買ってもいいですよ~」
「そうですか。ありがとうございます。場所は港南みたいですね」
「そうだよ~電車賃は貸してあげますよ~現場に着いたら守衛室の人にファイトスッタフから来ましたと言えば案内してくれるみたいだよ~他にもファイトスッタフから来ている人が何人かいると思うよ~頑張ってくださいね~」
かくして田沼耕作はこの世界で初の派遣労働に向かうのであった。
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