第23話 居候
派遣会社からの帰り道のついでに大型書店でも寄ろうかと思っていたが今後のことを考えるとどうもそんな気分にはなれなかった。こういう感情を繰り返しているうちに若いころに持っている情熱とか夢を忘れ去りくたびれた中年男性が出来上がっていくのかも知れないと思った。しかしながら、今は生活が大事なのも事実である。
そうこうしている内に気が付くと目の前にマカロニ荘が見えてきた。少し気おくれしたがここは勇気を出してまた東上の部屋を訪ねることにする。扉をノックするとすぐに開いた。
「いや~。これはこれは田沼さんではないですか!どうでしたか、派遣会社の登録は済みましたでしょうかね?」
「はい。おしゃっていましたように簡単にできました。しかし、すぐには仕事はないみたいですが」と社交辞令ぽっく言ってみる。
「なあに~。そんなに心配することはないですよ~」と答えが返ってきた。
なんだか昔観たことがあるアニメの登場人物みたいである。剣とか魔法が出てくるアニメだったかと思うがタイトルは忘れてしまった。まあ、どうでもいいが。
「ところで度々申し訳ございませんが折り入って頼みがあります。仕事が入ってきてある程度収入のめどが立つまでこの部屋に置いて頂けないでしょうか?」
「そんな水臭いことは言わなくてもいいですよ~あなたとわたしの中ではないですか!」と返事がこれまた帰ってきたが何だか動物を見るような視線を感じたのは気のせいだろうか。
「あと日常生活に必要なものは持っていないのでそれは買いに行くことにしますが、食費とかは一か月分ぐらいしか持ち合わせがないです」
「料理を私のぶんまで作ってもらえれば材料費は出して差し上げますよ~それから洗濯は自分でなさってくださいね~💗」
なぜそこでウィンックをして僕を見てくるのか?そんな趣味を持っているかと疑問に思ってしまう。ジェンダーに関しては寛容なほうだがそれもお互いの同意があったうえでの話である。しかし、万が一そんなことになってもそこは我慢するしかないとも思うし、なにか自分でも知らない性癖が目覚めるのかもしれない。そう、人生はどこでどうなるか分かったものではないからである。
かくして東上との奇妙な同居(同棲)生活が始まった。
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