第16話 再びのマカロニ荘

 カプセルホテルに泊まりシャワーを浴びたことで少しではあるが気分が爽快になりその日の朝は早く目が覚めた。服装はスーツのままであるがそう毎日着替えるものではないのでいいとしてもカッターシャツの汚れが気になった。出来れば下着だけでも替えたかったがあいにくと持ち合わせがない。鞄とかに下着を入れて持ち歩いている人はそうそういない。不倫とかをして妻にばれないために持ち歩いている人はいるかも知れないが田沼耕作は独身である。まあ、結婚していたなら真っ先に妻のもとを訪ねたかもしれないし収入がしばらくはなくても生活ができたかもしれないという仮定の希望的観測も心に浮かんだりした。しかし世の中の妻はできた妻だけではなくて夫の収入がないとなると相手を非難したりそれが原因で離婚したりもするようである。


 前回マカロニ荘を訪ねた時は大家さんの所にいったが今回は今でも住んでいるかも知れない住人を探すことが目的である。一階に五部屋と同じく二階にも五部屋あり合計十部屋のマカロニ荘であるがこの異世界では何人住んでいるのやら?まずは留美ちゃんが住んでいた部屋である田沼耕作の隣の部屋から訪ねてみることにした。期待と不安な気持ちを抱きながら心なしかどこか高揚感も感じながらマカロニ荘の表に面している階段を登る。ちょうど階段を上がって最初の部屋に留美ちゃん母娘が住んでいた筈である。前回は自分の部屋だけを目指していた上に夜でよく見えなかったが今回は昼なのではっきりと分かる。すると、扉には留美ちゃんの名前が記されている表札が掛かっていた。扉をノックするのに少し間があり最初は軽く叩いたがだんだんと強くノックする手に力がこもっていった。


 ところが何回ノックしても中からは返事が聞こえて来なかった。外出しているのであろうか?しかし、よくよく思うに今日は平日である。この異世界でも中学生だとしても学校に行っている時間帯であるし、成人していたとしても会社に出勤している筈である。まあ、小説家とかイラストレーターなどの自由業であるならば平日の昼間でも家にいるが、そんな人はそう多くはない。そんな事を思っていると田沼耕作は昔に小説家になりたいという希望を抱いていたこともあったけと、今さらながら自嘲気味に薄ら笑いを浮かべたりした。そこまで思うと失業する?までに趣味でもいいから何らかの小説とか創作作品を書いておくべきだったかも知れない。しかし、会社に就職してある程度の生活ができるようになりしかも毎日疲れて帰って来るとそんなそれこそ夢か雲を掴むようなことは時間と労力の無駄だとどこかで言い訳をしていたのも事実である。


 それはそれとして、留美ちゃんの部屋にはまた夜にでも改めて訪ねてみることにしよう。他の部屋で住んでいた人は誰かいないかと思い浮かべてみる。謎の外国人はリストから除外するとしてそう言えば頭がボーボーの白衣を着ている科学者みたいな人もいたかと。あの人なら平日の昼間でもいるかも知れないし今の田沼耕作が置かれている状況について何かアドバイスを与えてもらえるかも知れない。

 


 


 

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