第15話 田沼耕作と留美

 その晩田沼耕作はカプセルホテルで寝転びながら天上を見つめて思った。そういえばマカロニ荘には母子家庭の親子が住んでいたことがあったと記憶している。ちょうど隣の部屋に住んでいてよく朝とかに顔を見かけたことがありいつも向こうから挨拶をにこやかにかけてくれていたと。確か子供のほうはまだ中学生ぐらいでツインテールが特徴的な子だった。家庭環境としてはどちらかと言うと裕福なほうではない感じだったがその当時?としては素直ないい子で自分の部屋にもよく遊びに来ていた。スーパーファミコンを自分は持っていたので一緒にゲームをしたものである。今の状況からすればたぶん彼女は若い大家さんと同じぐらいの年代になっているかも知れない。


 そうだとすれば恐らく彼女はもうあの部屋には住んでいないとも思える。しかし、成人になり就職してからでもまだあの部屋に住んでいる可能性は否定できない。その可能性があるとして今の自分を見て彼女はどう思うだろうか?死んだと思った人物が目の前に現れたら幽霊か何か良くない物の怪と思うのが普通の取るべき態度に違いない。それとも懐かしい感情を抱いてよくぞ生き返ったと思ってくれるだろうか?この場合、その喜んでくれる感情に期待したほうがダメ元でいいかも知れない。そういうわけで、田沼耕作は留美が住んでいる(いた)部屋を訪ねてみることにした。


 その時留美は周りからは見えない魔法を行使していた。それに加えて時間に干渉することは出来ないので直接田沼耕作に話しかけることは出来なかった。しかし、何とかしてあの優しいお兄ちゃんが困っているので協力してあげたいと思った。死霊魔術師のアブドゥルとマッドサイエンティストの東上から魔術と科学を学んだ留美ではあったがある日いつものごとく田沼耕作の部屋に遊びに行くと扉には魔法陣が描かれておりその上何か怪しげな装置も扉に取り付けられていた。その魔法陣を見たとき留美はそれが何を意味するかおぼろげながらに分かった。死者を生き返らす魔術だけは教えてもらえなかったが魔術に関するものであるとは予想がついた。そして何度も扉をノックしたが中からは返事がなかった。その日は田沼耕作が休みの日だったので外出していることも考えれたがあくる日になりいつもの出勤時間になっても部屋からは出てこなかったのでこれはおかしいと思い大家さんに通報した。すると、中で遺体となっている田沼耕作が発見された。立ち会ったのは留美と死霊魔術師のアブドゥル、そしてマッドサイエンティストの東上だった。


 直接その死因について死霊魔術師のアブドゥルに尋ねてみることも思ったが問い詰めるのはどしても躊躇われた。師匠でありこれまでにいろいろとお世話になっている恩があったのでどうしても切り出せなかった。しかし、顔には何か満足している表情と少し落ち込んでいる様子も窺えたのでやはり死因は死霊魔術だということがうすうす分かった。それならば今は死んでいるがその内に生き返ることもあるだろうと思われた。その時期がいつなのかは現段階では分からないが教えてもらった魔術の知識に照らし合わせてみるとおそらく黒い霧が関係しているかも知れないと思われた。

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