第14話 マッドサイエンティスト

 その白衣を着ている総白髪の男は見たところ年齢はかなり上だと思われた。あまり身なりには気を遣う風ではなくただ自分の関心・興味があることのみに時間を使うのが信条だといった感じである。


「ふむ~。変態野郎のアブドゥルから話を聞いてマカロニ荘から後を付けてきたが間違いなく例の実験を施したサラリーマンだ」


 科学の発展の為だという美辞麗句に隠れてこれまで人類はさまざまな実験を主に動物を使って試してきた。その実験は薬の効能を試すために主に医学の分野が多かったがその他の物理学とかの分野ではこれまで人体実験は行われていなかった。しかし、「シュレディンガーの猫」の実験で猫を使わずに実際の人間で行えばどうなるかということは科学者たちのあいだでも非常に関心があることであった。そういう実験を国とか大学が運営している機関で行えばマスコミに知れ渡りおそらく非難の的になるのは論を待たないところである。


 マッドサイエンティストの東上もかなり有名な研究機関に所属していたがその当時の上司に最初は論文の形でその実験を提案したが速攻で却下された。しかもそれだけでは済まなくて危険な思想を持っていると見なされその研究機関から追い出された。そして、しばらく失意に沈んでいたがある時転機が訪れた。それは同じマカロニ荘に住んでいる死霊魔術師のアブドゥルとの出会いである。どうしても科学だけでは分からない部分があり、量子力学において素粒子が存在していると思って観察すると存在しているが存在していないと思って観察すると存在していなかったりした。また、超能力としてSF小説などにもよく登場するテレポーテーションも量子力学の分野では確かめられている。しかもその速さはそれ以上の速さはないとされている光の速さを超えることができるのである。


 光の速さを超えることが出来るならこの二次元世界を支配している空間と時間のはざまにある世界を垣間見ることも出来るのではないかとマッドサイエンティストの東上は考えた。そう思うと実際の人間で確かめたくなり日に日にその思いは強くなった。


 そんなことを思索していると部屋に死霊魔術師のアブドゥルが乱暴にドアをノックしてやってきた。


「おう!東上よ!いるか。ちょうど手頃な実験材料が見つかったぞ!!喜べ!そして、我に感謝せよ」


「いったいなんですか?こんな夜の時間に」


「我とそなたが兼ねてから熱望していた実験ができるかも知れないぞ」


「え~!それは本当ですか。しかし、そんな都合のいい人間がいますか?」


「それがおったのじゃ。202号室にいるサラリーマンは知っておるかな」


「ああ、知っていますよ。毎晩夜遅くまで飲んで酔っぱらって帰って来る人ですね。一度、僕もからまれたことがありますよ」


「そうそう。そいつじゃ。やつなら毎晩酔っているのでどうせ生きていても死んでいても本人も気が付かないじゃろう」


 しかしながら、随分と身勝手な論理である。田沼耕作がこの世界にやって来た時に毎晩飲んでるのでこんな目にあったのかも知れないと思ったのは当たらずとも遠からずだったかも知れない。さらにクレームを言いに行った相手が死霊魔術師のアブドゥルだったのが不運だった。


 

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