第12話 ごぼう茶
コンビニエンスストアを出てからこれからどうするか思案しながら田沼耕作はうつむきながら歩いていた。就職情報誌に頼れないとするとコネとかに頼るしかなさそうであるがマカロニ荘の大家さんはあてにはならないことは分かった。そこでふと気が付いたが今でも住んでいる住人はいないだろうか?あのクレームを付けに行った謎の外国人は論外だとしても。
よく思い出してみるというのも変であるがこの世界では田沼耕作が生きている(生きていた)世界とは微妙に違っている。時間だけが違っているとしたらまだ他にも知っている人がいるかも知れないが可能性としてパラレルワールドということも考えられる。人生の分岐点が無数と言ってもいいほど枝分かれしており選択が違っている世界が存在していると。そんなことをつらつらと考えていたので前から来る人には気が付かなかった。
「おっと!危ないじゃないですか!ちゃんと前を見て歩かないと」
「あ、どうも、す、すいません。考え事をしていたものですから」
「いや、それほど恐縮することもないですよ。最近の若者にしては謙虚ですな。おや、そう言えばどこかでお見掛けしたことがあるような感じですなあ」
ぶつかりそうになった相手の顔を改めてよく見てみるとどこかで見たことがあったような感じだった。年齢はおそらく四十代の後半ぐらいだと思われ短く刈り上げている髪にはところどころ白いものがまじっていた。カジュアルスーツを着こなして人当たりが良さそうな雰囲気である。
「あ!思い出しましたよ。私が学生時代にアルバイトをしていた時によく深夜に近い時間帯で買い物に来ていたサラリーマンに似ているとは思いますが、違っていますかな?」
田沼耕作が顔馴染みのコンビニ店員だと思っていたのは間違っていなかった。しかし随分と老けたものである。やはり、一晩で何十年もたってしまったのか?浦島太郎にもそんな話があったがこの場合はその玉手箱を開けた後の話になり、その後浦島太郎がどんな生活を送ったのかまでは書かれていなかった。もしも書かれていたとすれば大いに参考にはなったかも知れないが。
「ええ!よく覚えていますよ。内緒でよく唐揚げとかサービスしてもらいましたからね」
「いや、あれは賞味期限が切れそうだったのでどうせ廃棄にするしかなかったもんですからね。それにしても、あなたはあの頃のままで齢を取らないですなあ!ひょっとして、ごぼう茶でもずっと飲んでいたとか。
ごぼう茶は飲んでいないがそんなに健康にいいのなら早速今日からでも飲んでみることにしようかと思ったがそんなことよりも今はもう一つの疑問を解決したかった。
「実は昨晩もあのコンビニに行ったのですが、あなたに似ている人から知りませんと言われましたね」
「なあに、それは私の息子ですよ。家に帰ったらもうちょっと接客態度に気をつけるように行っておきますから」
「そうなんですか。いや、それほど失礼なことはなかったですよ」
これで疑問は解決した。しかし、この世界がどうなっているかはまだまだ調査しなければならない。どうやら今までの経験とか常識では生きて行けないようである。
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