第11話
「すまん、待たせた」
シュウとエルがまったりくつろいでいるとアレクセンたちが入ってきたようだ。
「ん~気にしないで~」
シュウはエルに膝枕されたまま返事した。そして、アレクセンたちのほうを頭だけ動かし見てみるとリリアも一緒に入ってきていた。
「もう動いて大丈夫なの姫様?」
「リリアとおよびください」
「じゃあ、リリア動いて大丈夫?」
「はい、大丈夫です。むしろ、シュウ様に治療していただいてから病気になる前より体が楽なのです」
確かにリリアは顔色もよく無理をしている風には見えなかった。
「それは魔力が安定しているからです。もともと魔力暴走が起こる前からちゃんとした指導を受けいていなかったので体内の魔力をきちんと操作できていなかったため体に悪影響を及ぼしていたのでしょう。それがシュウ様の行なった魔管の修正により魔力が安定したため身体能力が上がった、いえ元に戻ったという表現が正しいでしょう」
エルがリリアの体調について説明した。そして、アレクセンはソファーに腰を落とした。レリアとリリアもソファーに座ったがリリシアはアレクセンたちの後ろに控えた。なお、シュウはエルに膝枕された状態のまま動かない。
「そうか、ならリリアはもう大丈夫なのか?」
「はい」
エルの言葉を聞いたアレクセンたちは安堵したように息を吐いた。
「ただ、魔力操作を覚えませんとまた魔力暴走を引き起こしてしまう可能性があります」
「そうか・・・」
エルの言葉を聞いたアレクセンは考えるそぶりを見せた。そして、考えがまとまったのかシュウに向かって頭を下げた。
「シュウ、いやシュウ殿そしてガブリエル殿、今回娘を救ってくれて感謝する。ありがとう」
アレクセンと一緒にレリア、リリア、そして後ろに控えているリリシアも
「いや~、気にしないでください。リリシアさんのお願いでもあったからやったまでだから」
シュウはリリシアに目を向けそういった。リリシアはシュウの言葉をどう受け取ったかはわからないが照れたような顔をしていた。それを見たエルがリリシアに鋭い視線を投げかける。それに気が付いたリリシアは照れたような表情からシュウに助けを求める視線を送った。シュウはリリシアの視線に気が付き自分の頭に置かれているエルの手を撫でた。エルは驚いたがすぐにリリシアから視線をはずし膝に乗るシュウに微笑みかけた。
そんなどこか甘い雰囲気を出す二人をリリアがうらやましそうに見ていたが、甘い雰囲気をかもし出す二人は気づかなかった。唯一気が付いたのはリリアの隣に座っていたレリアであった。レリアは娘の顔を見て、そしてシュウの方を見て納得した。娘が女の顔をしていることに。そして、レリアは娘の恋路を応援することにした。
「おっほん、それでシュウ殿「シュウでいいですよ~」、そうかならシュウ、リリアを治すという頼みを聞いてくれたばかりで悪いのだがもう一つ頼みを聞いてくれないだろうか」
アレクセンの言う頼みとは何だろうと不思議に感じたシュウは続きを聞くことにした。
「先程、ガブリエル殿が言っていた魔力操作なのだが、シュウお前が教えてやってくれないか。もちろん報酬は出す。これはリリアを救ってくれた報酬と別で出す。どうだ引き受けてくれないか?」
「ん~、ここまでやったんだから教えるのはいいけど、別に報酬とかいらないですよ」
シュウは今回そういう報酬などのためにリリアを救ったのではなく、少し不謹慎であるがただ魔管の修正などおもしろそうだなっと考えてしたまでだ。なので、あまりそういうものをもらうのは気が引けたのだ。
「いや、報酬は俺達ができるせめてもの御礼だと思って受け取ってくれ」
「・・・わかりました」
アレクセンの言葉に気は引けるものの報酬を受け取ることにした。
「それでリリアに教えてくれるということでいいんだな?」
「はい、いいですよ」
シュウの返答に安堵したアレクセンとリリアは嬉しそうにしていた。
「リリアに関することはこれでいいとして後はガブリエル殿のことだが、これは特にない」
「・・・特にないんですか?」
リリシアから聞かされた天使の力はすさまじいものだったので何かしら国から制約のようなものが出されると思っていたシュウは拍子抜けした。
「ああ、これはシュウお前が主ということもあるんだ」
「?」
アレクセンの言葉にやはり納得できずにいるシュウである。
「シュウ、お前はプレイヤーだろ」
断言するように言うアレクセンの言葉に若干焦るシュウであるが表情にはほとんど出さない。唯一エルだけがシュウが焦ったことがわかったが何も言わなかった。
「・・・なぜ?」
「それは私が説明するわ」
今まで後ろに控えていたリリシアが前に出た。
「今から500年ほど前にこの世界で初めてプレイヤーという人たちが確認されたのよ。そのプレイヤーたちは最初はそれほど強くはないのだけど異常な早さで成長していってすぐに国の騎士達を圧倒できる強さになるわ。そして、プレイヤーたちはいろいろなダンジョンを制覇したり危険な魔物を討伐したりと様々な偉業を成し遂げているの。そんなプレイヤーたちが絶対に装備しているのが『プレイヤーリング』なの。だから、あなたがプレイヤーなのはわかるのよ」
「・・・プレイヤーだからエルがいても大丈夫っていうのは?」
「言ったでしょ、プレイヤーは様々な偉業をなすほどの力があるわ。それなら、天使を服従させることも出来ると思うの。・・・ぶっちゃけちゃうと私たちじゃああなた達を止められないからどうしようもないのもあるのよ」
リリシアの説明を聞いたシュウは納得したが、一つの疑問が浮かんだ。
――500年前のプレイヤーたちって誰だ?
このゲームは5倍の時間経過があるとはいえ500年前、つまり現実世界では100年前の話になる。100年前というのはまだVRゲームどころかVR技術すら開発されていなかった。たとえ500年前のプレイヤーがベータテスターの人たちの事を指すならプレイヤーがいない空白期間があるはずなのだがリリシアの口ぶりからプレイヤーがいなくなった期間はない感じであった。
――ならいったい何者なんだ?
「まあそんな感じでガブリエル殿とシュウのことは大丈夫だ」
アレクセンの言葉にシュウは思考をもどした。
「わかりました。それじゃあ俺達は自由にしてもいいんですね」
「ああ、大丈夫だ」
それを聞いたシュウはエルの膝から頭を上げた。エルは少し残念そうな顔をしたがシュウが頭を上げると自分は立ち上がりシュウの後ろに控えた。
「なら、リリアのお勉強は明日からってことで今日は帰りますね」
シュウはそう言うと立ち上がりドアのほうに行こうとしたがアレクセンが待ったをかける。
「待て、せっかくだから泊まっていけ。王城にはプレイヤー専用の部屋もあることだしな」
「プレイヤー専用?」
「ああ、どうせ元の世界に帰るんだろ?なら専用の場所からじゃないと帰れないからな」
「・・・そうなんですか?」
アレクセンの言葉に首をかしげながらそう返すとアレクセンはどこかあきれた表情をした。
「・・・今までのプレイヤーはそうだったが、確認してみろ」
シュウはウィンドウを開きログアウトボタンを見ると灰色になっていて押せなかった。そして、そこには
――ここではログアウトできません。指定のフィールドまたはアイテムでログアウトできます。
と出ていた。
「本当だ」
「だろ、だから泊まっていけよ。それに、そのほうがリリアに教えやすいだろ」
「・・・そうですね。ならお世話になります」
シュウはアレクセンの提案を了承するとぺこりと頭を下げた。
「おう。おい、こいつを部屋に案内してやれ」
「かしこまりました。こちらです」
部屋のドアの前に待機していたメイドに言うとメイドはドアを開けシュウ達についてくるように言った。
「あ、あの!」
シュウ達が行こうとするとリリアが声をかけてきた。
「助けていただきありがとうございました!」
そう言って頭を下げてきたリリアにシュウは
「言ったろ治すって、だから気にしないで」
そう言って下げられた頭をぽんっと撫でた。それに驚いたリリアは真っ赤な顔をしてシュウを見たがすでにシュウはメイドを追ってドアから出るところだった。
そんなリリアの反応を見た親達は「あらあら」といったり「娘はやらんぞ!」と言っていた。そしてリリシアも「私ももう一度・・・」などつぶやいていた。
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「こちらがシュウ様がたの部屋になります」
つれてこられた部屋を見るが、確かに大きなベットがあり豪華なのだが別段へんなところがないのでシュウはここがプレイヤー専用の部屋なのかっと思ってしまった。
「こちらの部屋にはプレイヤー様が元の世界に戻れるよう術式が書かれているのです。その術式も見えないようにされているので普通の部屋と変わりありません」
シュウが思っていることをメイドが説明してくれた。
「それでは私はこれで、御用の際はそこのベルでおよびください」
そう言って机の上にあるベルをさしたメイドは部屋から出て行った。
「さて、俺はいったんログアウトするけどエルはどうするの?」
「私はこちらでシュウ様がお帰りになるのをお待ちしています」
「・・・寂しくない?」
「いえ、何百年と待ち続けるよりはぜんぜん寂しくありません。それに主様は帰ってきてくださいますよね」
「・・・うん」
エルの言葉にこめられた感情がどのようなもので何があったかは聞きたい気持ちもあったが、シュウはエルが自分から話してくれるのを待つことにした。
「ならできるだけ早く帰ってくるから待ってて」
「はい、お待ちしてます」
そうしてシュウはウィンドウを開きログアウトボタンを押した。
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