第四十九話 パートナーにしたい
国内予選から始まった長い戦いも、ついに終わりの時を迎えようとしている。
東京ゴリンピックGスポーツ決勝。
それも残り一試合となった。
まさかそんな大事な試合に立てるとは……数ヶ月前までは願ってはいても、リアルな想像は出来なかった。
なんとしてでも優勝したい。
プロゲーマーといってもまだまだ駆け出しの俺を、ここまで連れてきてくれたみんなの為にも。
ゲーム大国と言われながらも、偏見が酷くてプロゲーマーやGスポーツという文化がなかなか根付かないこの国の認識を変えるためにも。
そして――。
『ついに迎えた最終試合、しかし、日本チームで残っているのは疾風怒涛のナインテールこと、世界ランク31位のQB選手のみ! 対して相手は世界ランク1位、無双王者のアルベルト選手。日本チーム、ここに来て痛恨のミスが出た!』
「おい、ちょっと待て! 痛恨のミスってどういう意味だ、こら!」
そう、なにより俺のプライドに賭けて決して負けられない!
てか、観客からも『なんでここでQBなんだよっ!』『香住君が出ればいいのに!』『そうだ、準決勝で活躍した香住を出せ!』ってブーイングが聞こえてくるし……。
なんだ、この絶対的アウェー感、海外の大会でも感じたことがねぇぞ!
「ふっふっふ、なかなかいい雰囲気じゃないの」
「美織ぃ、お前はこのブーイングが聞こえないのか?」
「何言ってんの。そのブーイングを歓声に変えるのが最高なんじゃない」
通信で美織が「くっくっく」と、たまらないとばかりに笑い声をあげる。
お前、ホント、『逆境』とか大好きだよな。
「美織の言うことは極端ではありますが、まぁしかし、この時の為にQB君のこれまでの苦悩はあったのです。頑張ってください」
美織と違って、純粋な励ましの声をかけてくれるのは黛さんだ。
うっす、頑張るっす。
「QB、いいか、勝負ってのは最後まで諦めなかったヤツが勝つんだ。どんなにやられても心だけは折られるな。精神的に強くなったところを見せてくれ」
そう言えば「プロゲーマーになる」って話をした時に、俺のメンタルの弱さを真っ先に指摘してくれたのもレンだったな。ああ、見ていてくれ。お前たちのおかげでどこまで俺が強くなったのかをな。
「QB君は子供の頃から負けず嫌いじゃったのぉ。今でもワシに負かされて泣いて帰ったくせに、翌日には意気揚々とリベンジを申し込んできたあの頃を思い出すわい」
「爺さん、あんた、俺のことを覚えてるのか?」
「ああ。歳がどれだけ離れておっても一緒にゲームをした者は皆、かけがえのない友人じゃ。忘れるわけなかろう」
ごめん、俺は今の今まで爺さんとの激闘の日々なんて忘れてたぞ。
でも、確かにそうだった。子供の頃、爺さんにはいつもこてんぱんにされてた。その度に家で猛特訓して翌日リベンジを申し込んだんだ。
そして高校生の頃には、引退した爺さんの代わりに『ぱらいそ』の店長になった美織相手に同じことをしていたという……うわっ、そう考えると急に恥ずかしくなってきたぞ。
「と、とにかく、ここまで来たらやるしかねぇ! 俺自身の力を信じて、そして――」
この決勝戦、爺さんの代わりにリザーバーへと回り、ギリギリまで俺の秘策に付き合ってくれた、かけがえのない親友……
「香住の努力を無駄にしないためにも、絶対アルベルトを倒してみせる!」
会場のブーイングを吹き飛ばすように。
仲間たちの声援に応えるように。
俺は目の前に対峙するアルベルトの機体に向かって宣戦布告する。
分かってるさ、たかが世界ランク31位の俺が、無双王者のアルベルトに勝利宣言するのがどれだけ大それたことなのかぐらい。
だけど今の俺にはきっとジャイアントキリングを実現させる力がある。
無かったのはそれがどれだけ困難であったとしても、必ず実現してみせるという揺るぎない覚悟だけ。
それを今、俺は言葉にして周りに、そして自分自身に言い聞かせた。
有言実行の英雄となれるか、それともただのビッグマウスに成り果てるかは全て俺次第。
この宣戦布告で自分自身を追い込んだ……つもりだった。
「はっはっは、素敵な宣戦布告をどうもありがとう、QB君」
そんな俺の覚悟とは裏腹に、アルベルトがいつものように余裕たっぷりな様子で軽くお辞儀をしてみせる。
見せかけではない。圧倒的な自信に裏づけされた、王者の振る舞いだ。
「でもね、私としてはまだまだ刺激が足りない。そこでどうだろう、ひとつ賭けをしようじゃないか?」
「賭け?」
「そう。私は子供の頃から欲しいと思ったものは必ず手に入れる主義でね。君が持っているものも前から欲しいと思ってたんだ」
「はぁ?」
はて、アルベルトが欲しがるようなものと言われても咄嗟にはぴんと来ない。
なんせ貧乏プロゲーマーだからな。世間でプレミアがついている様なレアソフトなんか持ってないし、香住の特別仕様の武器みたいなものもない。
こんな俺の一体何を……ま、まさか!?
「そう言えばお前、前に自分はバイだって言ってたよな! まさか俺の体が欲しいとか言うつもりじゃ……」
あ、自分で言ってて鳥肌が立った。
やめてくれ。俺にその気は一切ないぞ!
「はっはっは。安心したまえ、幾ら私がバイでも手当たり次第何でもオッケーというわけではないからね」
そ、そうなのか? 本当に安心していいのか?
てか、誰でもいいというわけではないと言われてちょっとムッとした俺よ、一体何を考えているっ!?
「私が欲しいのは君じゃない。君の親友である香住司クンだよ」
しかし、少しホッとしたのも束の間、アルベルトがとんでもないことを言ってきた。
「香住司、彼を私のパートナーにしたい。だからこの勝負に彼を賭けようじゃないか、疾風怒濤のナインテールよ」
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