Round8 準決勝

第三十話 行くぞ?

「大変なヤツらと戦う事になったな」


 中国チームの厄介な連携プレイと、脅威の秘密兵器を見せ付けられてから二日後。

 この難敵と戦うべく会場入りした俺たちは、通路でばったり海原アキラたちと出くわした。


 むこうはむこうで今日はプロゲーマーランク1位アルベルト率いるアメリカチームとの激戦を控えている。

 にもかかわらずみんなどこかリラックスした様子で、その自信の程が窺い知れた。


「ああ、まったくあのカンフー戦法だけでも厄介なのに、合体とは恐れ入ったよ」


 対して俺たちはと言うと、作戦こそ立てたものの、やはり不安はある。

 時間がない中での付け焼刃的な練習で、果たして本当に上手く行くのか?

 考えれば考えるほど落ち着かない気持ちになる。


「まぁでも何とかなるさ」


 でも、その不安をぐっと抑えて、俺もまた自信があるような振る舞いで海原アキラに応じて見せた。

 不安なのは俺だけじゃない。きっとみんなだって同じ。

 チームのキャプテンである俺が弱気なところを見せては、みんなの不安感はもっと強くなる。ここはウソでも強気な態度を取らないとな。


「へぇ。その様子だと中国チームに勝つ秘策があるみたいじゃん?」


 そんな俺にさも感心したようなことを言いながらも、どこかからかうようにしてサロが顔を覗き込んでくる。

 その表情はまるで「お前の虚勢なんかお見通しだぞ」と嘲り笑うかのようだ。

 相変わらず性格が悪い……こいつ、苦手だな。


「秘策なんてないわ」


 そこへ美織がダルそうにぽりぽりと頭をかきながら、俺の代わりに答えた。

 

「ただ実力的に勝つべくして勝つ。それだけのことよ」


 そして堂々とそんなことを言ってのける。

 そこに余計な力みや見栄などはない。

 まさに勝って当然と言わんばかりだ。


 サロもサロだけど、美織の売られた喧嘩は倍返しにしなきゃ気がすまないこの性格もなんとかならないものか。

 ホント、対中国戦にむけてあんな一か八かな作戦を考えておいて、よくもまぁここまで自信満々でいてられるもんだよ。呆れを通り越して感心するわ。


「……あ、そう。んじゃまぁ頑張って」


 予想に反して自信たっぷりな様子を見せる美織に、サロがつまらなそうに言い捨てて、ひとりで勝手に歩き去って行ってしまった。


「サロはホントにお子様。どうしようもない」


「そうだな、まるでうちの誰かさんにそっくりだ」


 そんなサロを見ながら、お互いに似たような溜息をつくのはヒョードーとレンだ。


「ちょっと、うちの誰かさんって誰のことよ!?」


「さぁて、誰だろうな」


「あんなのと一緒にすんなー!」と両手を上にあげてジタバタ抗議する美織の頭を軽々と片手で押さえながら、レンが楽しそうに笑う。

 その光景に黛さんもくすりと表情を緩めた。


「ふむ。中国チームを相手に緊張しているかと心配していたようだが、どうやら杞憂だったようだな。これなら決勝は日本勢同士で戦えそうだ」


「ああ。楽しみにしてる」


 海原アキラが右手を差し出してきたので握り返した。

 その様子を見て、レンはヒョードーと、美織はガッチャン、黛さんはエイジと同じように握手を交わす。


「……」


 ただ、香住だけは誰とも握手するわけでもなく立ちすくんでいた。

 サロがとっとと一人で言ってしまったので、握手を交わす相手がいなかったということもある。

 だけどやはり一番の要因は、海原アキラたちと話している間も心ここにあらずと言わんばかりの表情をしていた香住自身だ。


「……香住、行くぞ?」


「……え? あ、うん」


 そして海原アキラたちと分かれ、俺たちに用意された部屋へ再度歩き始めても、香住は一人ぼうと立っていた。

 多分俺が声をかけなかったら、きっとそのまま立ちぼうけだったことだろう。


(やっぱりかなり緊張してるな)


 実を言うと、朝から香住はずっとこんな調子だ。

 だが、それも無理はない。

 今日の戦いは、まさに香住の女の子みたいな華奢な肩にかかっているのだから。

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