第二十九話 マジかよ!?

「凄いな、まるでカンフー映画を見ているみたいだ」


 スーパー銭湯のテレビ画面に映し出される中国チームの戦闘を見て、レンが感極まったように呟く。


 リーダーを除く四人が赤、青、黒、白という色違いの同じ機体で戦う中国チームは、レンが空手を『AOA』に持ち込んだように、カンフーの動きを完全に再現してみせた。


 まるで舞うかの如く、飛んだり、跳ねたり。上体を信じられないぐらい仰け反らせて敵の攻撃を躱したかと思えば、その姿勢から強烈な横回転でコマのように回り、相手に蹴りを食らわすなど、生身の体のように自由自在の動きを見せる機体。

 そこに素手の打撃やビームセイバー、槍などの得物を使って、回転数の高い攻撃が嵐のように繰り出される。

 

 ホント、マジでカンフー映画。

 この脅威な動きに相手はまるで対応できない。

 次々と激しい連撃を喰らって大破していく。

 

「レン、こいつらの動きをあんたも真似ることは出来る?」


「無理だな。俺の機体操作の裏には空手があるように、こいつらのも実際の長い年月で培った武芸経験が生かされている。見よう見まねで出来るもんじゃないさ」


 具体的にはここまでの回転力をレンの空手で実現するのは難しいらしい。

 こと武術に関しては並外れたセンスを持つレンに、そこまで言わせるとは。

 しかもこいつらリーダーの黄龍以外は全員無名のノーランカー。

 大会が始まる前に美織が「プロリーグに所属していなくても強い連中がこの大会には出てくる」と言っていた。

 が、その美織すらもこの中国チーム四人組は知らなかったらしい。

 まさに隠し玉ってヤツだ。

 しかも。


「ひとりひとりの手数がハンパないのに、さらにこんなエゲつないコンビネーションまでばっちり決められたらとても逃げられないわね」


 美織の言う通り、中国チームは選手ひとりひとりがカンフーの達人である上に、連携まで恐ろしいほどに完璧だった。


 普通、連携とはひとりが攻撃を仕掛けたり、あるいは敵の攻撃を躱したりして隙を作り、そこを仲間が突くものだ。

 俺がカームと手を組んだ時もそうだったし、それとはレベルが違うものの、海原アキラのチームも基本的には変わらない。


 だけど中国チームのそれは全く異なる。

 奴らの連携はユニットを組んでいる四体が一斉に攻撃を仕掛けるのだ。

 

 ひとりが真正面から突きの連撃を繰り出し。

 ひとりが側面から斬りかかり。

 ひとりが背後から槍で首を狙って。

 ひとりが仲間の股間から滑り込んで足を掬う。

 

 こんなことをすれば同士討ちも必至なはずだが、信じられないことに中国チームはお互いキズひとつ付けない完璧な連携でやってのける。

 奴らが動けば、誰かがやられる――。

 その恐怖がじわりじわりと戦場に広がり、敵を飲み込んでいくのが画面越しでも分かった。


「さすがは準決勝にもなると少しは骨のあるヤツが出てくるわねぇ」


「ありすぎますよ。あんな同時攻撃、店長たちはともかく僕ではとても捌ききれませんよ?」


「こちらの対策としてはふたつ。ひとつは自分たちも中国チームと同じように連携プレイで戦うか。もうひとつはなんとか分断して個人戦に持っていくか、ですね」


「準決勝は明後日だぞ? 今更練習したところで、あんな連携に対抗できねぇだろ?」


「だったら分断作戦で行きますか?」


「でも、そう簡単に分断させてくれる連中かしら?」


 あーでもない、こーでもないと、早速対中国戦の作戦会議に熱が入る。

 そこへ突然、テレビ画面が轟音とともに眩い光を放ち、食堂にいる人たち全員の度肝を抜いた。


「これって……」


「ああ、これがプロゲーマーランク世界3位・黄龍のメガキャノンだ」


 香住が一番に反応したのも無理はない。

 黄龍のメガキャノンは、香住のエンジェリックバスターと同じく高出力のレーザー遠距離攻撃だ。

 機体の胴体に取り付けられた大口径レーザー砲から放出されるそれは、とにかくでかい。

 当たらなければどうということはないが、当てられたらどんな機体さえも一発で撃沈させる威力を持つ。

 どんなに有利に試合を進めても、黄龍にはこの一撃がある――その見えない威圧感が多くの相手を萎縮させ、まるで最初から決まっていたかのようにメガキャノンによる大逆転を決めてみせるのが黄龍の十八番だった。


「あれ、でも変だぞ、これ!」


 黄龍がメガキャノンで敵を粉砕するのはいつもの光景。

 しかし今、テレビ画面に映し出される映像は違和感があった。

 レーザーの放出時間がいつもより長い。

 そして、レーザーを放ちながら黄龍が方向を変えると、それに合わせてレーザーの軌道も変わる。

 それはまるで国内予選の最後に香住が放った、カームたちを全滅させたあの攻撃をもっと強烈にした感じだった。


「馬鹿な! 黄龍のメガキャノンはそんな攻撃が出来ない筈だぞ!」


 少なくともこれまで俺は見たことがない。

 ただでさえどでかいレーザー攻撃のメガキャノン。これが放出しながら方向を変えられるとなっては、ますます避けるのが厳しくなる。

 新型メガキャノンの前に、次々と撃墜されるライバルたちと、その拠点の旗。

 リプレイ映像で真上からのロングショットが公開されたが、マップのほぼ中央から放たれたメガキャノンは東から北経由で西にまで約180度回転し、マップの上半分を焦土に変えていた。


「すごい。これ、僕のエンジェリックバスターよりも威力がありますよ」


「ああ。でも、何故こんなムチャクチャな攻撃が出来るんだ? いくらなんでもこれはバランスブレイカーにもほどが……ああっ!」


 ようやくレーザーの放出が収まり、黄龍の様子が顕わになる。

 その姿に驚愕した。


「マジかよ!?」


「まさか、これは、合体ですか?」


 レンが信じられないと唖然とし、黛さんも息を飲む。


 そう、黄龍の胴体に仲間の四人が合体し、まるで大砲の銃身のような形に変形していた。


「なるほど。五人が合体してエネルギーを共有することで、あの威力と攻撃範囲を作り出していたのね」


 皆が驚く中、美織だけが冷静に状況を見極めて呟いた。

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