第二十八話 無双王者

『さて、続いては日本の二チームのライバルとなるチームを紹介していきましょう。次の準決勝からは5vs5のチーム戦となりますが、まず海原アキラ率いるチームと当たることになったのがBグループを勝ちあがってきたアメリカチーム。その戦いぶりをご覧戴きましょう』


 続いて画面に流れたアメリカチームは、ある意味、先ほどの海原アキラのチームとは真逆だった。


 プロゲーマー世界ランク1位、『無双王者』との呼び名を持つアルベルトが驚異的な戦闘力で次々と敵の旗を撃ち落していく。

 その姿はまさに王者そのもの。襲い掛かってくる者をまるでまとわりつくゴミのように振り払い、逃げ惑う者も無慈悲に撃墜する。あたかもこの地に自分以外の者が存在するのを許さないとばかりの傲慢さだ。


 結果、わずか十分足らずでBグループを制圧。しかもチームの中で攻撃に出ていたのはアルベルトただひとりだった。

 チームワークで勝負する海原アキラとは対照的な、究極のワンマンチーム。

 それがアメリカ代表、アルベルトのチームであった。


『世界ランク1位のアルベルト選手はやはり脅威ですね』


『このチームに日本チームは勝てるでしょうか? 日本の絶対的エース・海原アキラ選手もこのアルベルト選手には近年苦杯を舐めさせられることが多いみたいですが?』


『そうですね。個人戦においてアルベルト選手は他の選手よりも一歩抜きん出たところがあると思います。が、今回は団体戦。先に見ていただいたように日本チームはとても連携が取れています。チームとしての総合力なら日本チームの方が断然優位。準決勝で勝つのは日本チームだと私は思いますね』


 日本人なんだから日本チームの勝利を願うのは当然のこと。

 俺だって海原アキラたちに勝って欲しいと思う。


 とは言え、この解説者ほど楽観的にもなれなかった。

 理由は簡単。アルベルトは強い。強すぎるのだ。



 かつて海原アキラはプロゲーマー界において『神』と称されていた。


 まだ『AOA』の姿形すら無かった頃から格闘ゲームやFPSで圧倒的な強さを誇り、数々の伝説を打ち立ててきた海原アキラ。ゲーム史上最高のプレイヤーと言われていて、世界中のゲーマーの憧れであった。


 だからその海原アキラが『AOA』のプロリーグに参戦するという話が流れた時も、誰一人として彼の成功を信じて止まなかった。

 

 その予想を覆したのが、他でもないアルベルトだ。

 

 今でも覚えている。

 激闘の末、アルベルトが海原アキラを破って初代『AOA』王者に君臨した試合のことを。

 海原アキラだって人間だから、負けることもある。だけど大きな大会の、大きな試合では無類の強さを誇っていた海原アキラが負けたのは、おそらくそれが初めてのことだ。


 そしてそこから海原アキラ伝説の終焉と、アルベルトによる新しい伝説が始まった。


 初顔合わせ以降、何度も激突するふたり。

 しかし、海原アキラは一回たりともアルベルトに勝てなかった。

 そんな世代交代劇に、世間が海原アキラにつけた新たな通り名が『古神エンシェントゴッド』。

 代わりにアルベルトには誰も寄せ付けない全戦全勝の功績を讃え、『無双王者』の通り名が付けられるようになった。


 そんなアルベルトだが『AOA』のプロリーグは一対一デュエルなので、今回のようなチーム戦でも従来の強さを発揮出来るかどうかは疑問視されていた。

 でも、この予選ブロックでの戦いぶりを見る限り、全く問題ないようだ。

 一対複数でもお構いなく『無双王者』の名に相応しい、他を圧倒する戦いを見せている。

 

 このアルベルトに、海原アキラたちが五人がかりとは言え、本当に勝てるのだろうか?


「なぁ、美織。どっちが勝つと思う?」


 ふと思い立って美織に尋ねてみる。

 いくら美織でも先の映像を見ただけで分かるはずがないとは思うが、このくわせものがどう見るか純粋に興味があったのだ。


「そんなのチーム力が強い方が勝つに決まってるじゃない」


「……」


 意外なまでにあっさりと答えてきたので面食らった。

 チーム力が強い方が勝つ……つまり美織は海原アキラの勝利を確信している、ってことか。


「そうか……そうだよな、一対一じゃなくてチーム戦だもんな。チーム力が強い方が勝つに決まってるよな!?」


「当たり前よ」


 美織が何を決まりきったことをとばかりに呆れつつも、俺が痛く感動したような反応を見せたので自慢げにその平たい胸を張る。


「ん? でも待てよ。となると、ろくにチームプレイらしいものをやらない俺たちは一体……」


 が、逆に美織の返答で新たな疑問と不安が俄かに立ちのぼってきた時のことだった。


『しかし、チームとしての連携力と言えば、次に紹介するグループCを突破してきた中国チームが今大会一番かもしれません』


 アナウンサーの言葉にはっとなって、テレビ画面へと意識を戻す。

 次に俺たちが当たるのは中国チーム。

 世界ランク三位・黄龍が率いるこのチームのことを俺たちは全く知らない。

 このニュースで映される映像が初めての情報収集となる。


 先ほど以上に集中し、隙ひとつ見逃さないぞとばかりに画面を凝視する俺たち。


「うわ……」


 その映像を見ている最中、香住が思わず驚嘆の声を零した。


 そう、海原アキラたちも、アルベルトも凄かったが、中国チームもまたこれらに負けず劣らずとんでもないチームだった。

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