第二十七話 全て私の計算通り
『続きましてもう一方の日本代表チームが出場したグループDを見てみましょう』
周りの関心が完全にテレビに集まっている中、今度は俺たちの映像が流れ始めた。
むぅ、さっきは「ゴリンピック選手がこんなスーパー銭湯にいるわけがない」と美織は言ったが、改めて考えたらよく似た人物がが五人も集まっていたらさすがにバレるんじゃないか?
これはニュースが終わった後にサイン攻めにあう覚悟をしておいた方が良さそうだな。
えっと、確か俺のサインはこう……べ、べつにサインをねだられることなんて滅多にないから書き方を忘れてたわけじゃないんだからねっ!
「……」
が、俺たちの戦いが映し出された後、そんなのはまったくの杞憂だったと思い知らされた。
『いや、なんというか、海原アキラ選手率いるチームとはまた別の意味で凄まじいですね』
『ええ、120のチーム、合計600人が参加した東京ゴリンピックGスポーツ予選ですが、チームフラッグを引き抜いて自分の機体にくくりつけるなんてことを考えたのは、このチームだけです』
『まさに頭脳戦での勝利……と言いたいところですが、その戦いぶりもまた目を見張るものがありました』
『チャクラムをヨーヨーのように操るとは、改めてAOAのカスタムの自由度を感じさせてくれましたね。もっとも同時に倫理面の整備の必要性も浮き彫りとなる形になりました』
『勝利を求めて武器の開発が進んだ結果、あまりの非人道的ぶりに開発に規制がかかる……そんな現実世界と同じようなことが今回の件でAOAでも起きるかもしれませんね』
アナウンサーの言葉に食堂で見ていた人たちもしきりに頷いている。
うん、やはりアレはないよな。
いくらVRで実際にロボットの中に乗ってはいないとは言え、複数の機体が空中でガツンガツンぶつかりながら振り回され、しまいに地面に叩きつけられるんだから。
そのあまりのショッキングな映像に、この食堂でもお年寄りたちはドン引きだわ、子供は泣き出すわで大変な状況だ。
アレをそのまんま流したテレビ局の判断は英断だと思うが、きっと今頃は抗議の電話がじゃんじゃん鳴っていることであろう。
「ふっふっふ、全て私の計算通りね」
が、そんな惨状を招いた当の本人である美織が満足そうに言葉を紡ぐ。
「どこがだよ!? 今頃、世界中がお前のやったことにドン引きしてるわ!」
「そう。それでいい。それが目的よ」
「はぁ?」
「考えてもみなさい。私たちは
「でも、何も自ら進んで悪役にならなくてもいいんじゃないか?」
「そんなことないわ。最初は悪役でもなんでもいいから、まず知ってもらうことが大切なの。注目さえ集めればこちらのもの。印象なんてのはその後でいくらでも変えることが出来るわ」
不敵に笑う美織。
そう言えばぱらいそを今のメイドゲームショップに変更した時も、それを告知するため、ライバル店の開店セール待ちのお客さんたちに自分ちのチラシを配るってムチャクチャをやってやがったな、こいつ。
注目を集める為にはなんでもやるその姿勢、プロゲーマーとして見習うべきなんだろうか……。
「それよりも問題はあんたよ。ほら、テレビでも言ってるわよ」
「うん?」
言われて再度テレビに注目する。
『なるほど。準決勝では連携力と、プロゲーマー・九尾選手の調子がポイントですか?』
『はい。このチームは無名な選手が多いながらも実力は確かです。ただ、やはりここからさらに勝ちあがるにはプレイの連携をもっと意識しなければなりません。それからチーム唯一のプロゲーマーである九尾選手。今日は調子が悪く、動きにキレがありませんでした。彼は疾風怒濤という通り名を持つように、勢いのいい攻撃力に定評のある選手です。その本来の持ち味を出せないと次は厳しいですね』
『まさに「生き返れ九尾」と言ったところでしょうか』
アナウンサーが某WBCの名言で話を締めた。
分不相応な名文句をいただいて恐縮だが、たった一回の戦闘しか見てないのに死人扱いされるって何気に酷いよな?
「だけどマジで今日のは酷かったぞ? 下手したらお前、撃ち落されててもおかしくなかったじゃねーか」
「いくらまだ馴れていないとは言え、あのままでは使い物になりませんね」
「健太、本当に大丈夫?」
そしてテレビ同様、みんなも今日の俺の出来には不満だったらしい。
ううっ、ここでの飯代やらエステ代やら払わされるうえに、さらに厳しいお言葉まで頂戴するとは。我ながら情けない。
だが、俺もプロゲーマーだ。
「言い訳はしない。確かに今日のは酷かった。が、それでも必ず最後にはお前たちの期待に応えてみせる!」
失敗の回復は言葉では出来ない。
結果でしか信頼は勝ち取れないのだ。
もっとも普通は実際に結果を出すまで周りからは疑心暗鬼の目で見られる。
誰も未来なんて分からない。
自分を信じることすら簡単じゃないのに、ましてや他人を心から信頼するなんてよほどのことがない限り難しいだろう。
だけど。
「よし、九尾、私たちはあんたを信じるわ。言ったからにはその言葉を絶対叶えなさい。そうすれば今はダメダメでも、たちまち英雄になれる。なんせあんたは」
美織が拳を握ると俺の胸を軽く叩いて言った。
「私たちのチームが優勝する為の秘密兵器を背負ってるんだから」
「ああ! 任せろ!」
その言葉に俺は力強く頷く。
ああ、いつだってこいつらはその難しいことをやってのけるんだ。
思えば俺が「将来はプロゲーマーになろうかな」なんて冗談を言った時も真に受けて、当時まだまだひよっこだった俺がプロゲーマーになれると信じて手を貸してくれた。
誰かに信じてもらうこと。
それ以上に心強いことなんてない。
信じてもらえれば、不可能も可能になる!
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