第二十六話 やるわね
「おっと、そうこうしてるうちに始まるわよ」
降りかかった災難に所持金の計算をしていたら、美織が唐揚げを突き刺した箸をテレビに向けた。
見ると先ほどとキャスターが変わっている。
どうやらスポーツコーナーが始まるらしい。
この時期はプロ野球もサッカーもやっているが、一番最初に取り上げるのは勿論、東京ゴリンピックだ。
『さて、連日熱戦が繰り広げられている東京ゴリンピック、今日は新種目のGスポーツで日本代表の二チームがやってくれました!』
お、しかも俺らのGスポーツを真っ先に取り上げてくれるらしい。
これはちゃんと見なくちゃな。
『Gスポーツは「エース・オブ・エース」というVRゲームを使い、120の参加チームが四つのグループに分かれて予選を行いました。日本チームはAグループとDグループに登場。ではまずAグループからご紹介しましょう』
画面にAグループに振り分けられたチームが映し出され、解説者が有力チームや選手を紹介していく。
中でもやはり一番評価が高かったのは海原アキラと、日本チームだ。
ただし、同じグループのイギリスチームは世界ランク9位の選手を筆頭に高ランカーで固めているし、インドのチームには香住同様『AOA』の開発に携わったメンバーもいる。
他にも決して侮れないチームが多数存在し、四つのグループの中でも一番厳しい『死のグループ』と解説者が言うのも納得だった。
『この難敵たちを相手に海原アキラ率いる日本チームはどう戦うのか? では早速見てみましょう』
映し出される戦闘映像を俺たちは食い入るように見つめた。
実のところ、他の予選グループでどんな戦いが繰り広げられたのかを知るのはこれが初めてだ。
普通なら有り得ない。
幾ら何度も対戦して知り尽くした相手であったとしても、調子や戦術といった情報を得る為に戦闘の録画データはすぐにでも確認する。
その上でどう戦うのかイメージを固めるのだ。
だけど美織の考え方は少し違っていた。
「凡人ならそれでも構わないと思うわ。でも九尾、覚えておきなさい。一流ってのはね、ただ勝つだけじゃダメなの。相手の何が世間で評価されているのかを知り、それを超える力を見せ付けてこそ人々を魅了できるのよ」
だからただ漠然と戦闘そのものを録画したものではなく、視聴者に凄さを知らしめるべく編集されたテレビ番組の映像こそが役立つのだとか。
言いたいことはなんとなく分かる。
が、プロゲーマーではあるものの、まだまだ凡人の域から抜け出ることの出来ない俺にはどうにも理解しがたい話だ。
事実、今もテレビを見ながら、どれほどの練習を積み重ねたのか想像もつかないほど完成度の高い様々なコンビネーションを前に、ただただ圧倒されていた。
トリッキーな動きで敵を攪乱するサロ。
相手が翻弄されているところへ、一撃必殺な噛みつき攻撃で次々撃破するガッチャン。
逃げようにも、エイジのブーメランが旗を襲い。
そして自身は前線から少し引いた場所で戦いながら攻撃の三人だけでなく、旗を守るヒョードーにも的確に指示を出し続ける海原アキラ。
結局、あの猛者ぞろいのグループを、海原アキラとヒョードーが前線に出ることなく勝ち抜いてしまった。
まったく、なんて強さだ。
ああ、テレビ局が編集したものじゃなくて、普通の戦闘動画が見たい。
そっちではきっとコンビネーションが上手くいかなかったシーンがあったり、こちらが付け込む隙となる幾つかのミスだって見つかるはずだ……多分。
「ふん。あの個性的なメンバーで、ここまでチームとして纏め上げてくるとはやるわね、海原アキラ」
さすがの美織も唸った。
『普段のプロリーグでは個人戦が多いのですが、団体戦のこの大会に向けてチームとしての戦い方を徹底的に鍛え上げてきたのが伺える勝利でしたね』
テレビの中で解説者も「素晴らしい」を連呼し、食堂で見ていた人たちからも「ほお」と感心したような声が上がる。
予選を勝ち抜いたら、次はもう準決勝。
そこで敗れても三位決定戦は行われないから、すでにメダル確定だ。
だけどこの番組を見た人たちは、海原アキラたちのチームには優勝という最高の色のメダルを期待せずにはいられない内容だった。
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