第二十三話 悪魔じみてる

「ええい、このっ!」


 弾幕を隠れ蓑にして飛び掛ってくる敵に、ビームセイバーを振るって応戦する。


 ズキューン! ズキューン!

 ズドドドドドドドッドドドドド!


 そこへすかさず打ち込まれるビームライフルとマシンガンの嵐。

 左手の盾で受け止めつつ、右手のビームセイバーを振りぬいて襲ってきた敵を退けた。

 

 ズキューン!


 と、すかさず今度はそのビームセイバーを持つ右手を狙ってきやがるので、俺はデバイスの中の手をセイバーを持つ形から盾を構える姿勢へと瞬時に切り替える。

 

 ガンッ!


 間一髪間に合って盾にビームが当たる振動が伝わってきた。


 ズキューン! ズキューン!


 すると今度は俺の近くからビームライフルの音が鳴り響く。


「まったくしつこい連中ですね」


 黛さんが新たに近づいてくる二体に向けて、ビームライフルを連射したのだ。

 が、その攻撃も接近は止めることは出来ても当たることはなく、敵は再度こちらを切り崩す隙を伺うように、距離を保ちながら俺たちの周りを飛び始めた。


「ったく、一体いつまでこんなことが続くんだよ!?」


 レンが忌々しそうに吐き捨てる。

 レンは俺の反対方向に陣取っているから様子は分からないが、きっとこっちと状況は同じだろう。


「もうちょっとですよ。頑張りましょう」


 そんなレンを励ましつつ、香住はエンジェリックバスターで敵を近づけさせないよう威嚇射撃を続けた。


 そう、威嚇射撃、である。


 香住に当てるつもりはない。

 それは俺や黛さん、レンも同じ。

 やろうと思えばさっき斬りかかって来たヤツを逆に返り討ちにすることも出来たし、黛さんだって攻撃を外すような距離ではない。


 すべては美織の「撃墜はしちゃダメよ。私がいいと言うまで防戦に徹しなさい」という指示のせいだった。


「でも、もうちょっともうちょっとでかれこれ三十分以上こんな調子だからなぁ」


「二体、三体ぐらいならどうってことありませんが、さすがに十体以上から常に攻撃されると精神的にキツイですね」


「おまけに美織のヤツ、あれからだんまりを決め込みやがって。おい、聞こえてんだろ!? なんか返事ぐらいしろ!」


「店長―、まだなんですかぁ!?」


 とは言え、さすがにこの状況がいつ終わるのか分からないともなるとこっちのストレスも溜まっていく一方だ。


 敵さんたちはこっちの攻撃が当たらないのを俺たちの実力だと勘違いして、やりたい放題やってきてくれるし。

 そんな隙を見せまくりの敵に当てちゃいけないってのもイライラするし。

 そしてなにより美織が何を考えてこんなことをさせるのかが分からないってのが一番頭にくるっ!


「なぁ、一体ぐらいぶっ飛ばしてもいいんじゃねぇか?」


 我がチーム一番の武闘派・レンがそんなことを言ってきた。

 

「……」


「……」


 いつもならすかさず「我慢してください」と諫める黛さんも、「もうちょっとの我慢ですよー」と宥める香住も何も言わない。


 どうやらふたりもさすがにストレスが限界らしい。

 ふぅ、仕方ないな。ここはプロゲーマーである俺がひとつがつんと言ってやるか。


「そうだな、一体ぐらいなら別に」


「止めなさいよ、このバカっ!」


 俺のボケにすかさずツッコミを入れるヤツ――それは。


「「「「美織(店長)!」」」」


 これまで黙り込んでいた美織からの応答レスにみんなが一斉に声を上げた。



 

 みんな嬉しそうだった。

 それはもちろん、美織からのGOサインを待っていたというのもある。

 が、やっぱり俺たちには美織が……。


「美織、一体いつまで待たせるつもりだったのですか?」


「店長―、呼びかけてるんですから返事ぐらいしてくださいよー」


「美織、てめぇ無視を決め込むとはいい根性をしてるじゃねぇか!?」


 ……必要、というわけでもないのか?


「うっさいわねー。ようやくその時が来たから戻ってきてあげたと言うのに」


「戻ってきた? おい、それってどういう意味だよ?」


「どういう意味もなにも、そのまんまよ。今までゲームからログアウトして外でアイス食べながら戦況を見てたの」


「「「「ハァ?」」」」


 美織の思いもしなかった言葉にみんなが驚きの声をあげた。


「戦闘中にログアウトって一体何考えてやがんだよ、お前はっ!?」


「だって私、旗と一緒にあんたらに守られてるじゃない。別にゲームを抜けても問題ないでしょ?」


「それはそうですけど、だったら例の旗の件は……?」


「そんなのとっくに終わってるに決まってるじゃない」


「おいおい、それなら俺たちが今まで必死に旗を守っていたのは一体なんだったんだよ?」


 レンの嘆きも分かる。

 俺たちは後ろに旗があるから敵の攻撃を躱すことも出来ず、ひたすら盾で踏ん張ってきたんだ。

 それなのに既に作戦が完了していたなんて。


「無駄、じゃないわよ? あんたらが必死になって守っていたからこそ、この試合に生き残っている攻撃部隊の連中が全員、ここに今集まってるんだから」


「全員集まってる? なんでそんなことが分か……あっ!」


 問い質そうとした俺はさっき美織が言ったことを思い出した。


「そう。ログインした状態では旗の位置は分かっても、他のチームの連中がどこにいるかは視界に入らないと分からない。だけどログアウトして、外の世界でこの試合を中継しているテレビを見たら話は別よ」


「なるほど。それを確かめる為にログアウトしたのですね。そして各チームの攻撃部隊が今ここに全員集まっているってことは」


 黛さんが俺たちを代表して、ようやく美織の意図が分かったとばかりに口を開く。


「そう! ここの奴らを全部撃墜すれば、他のチームは防衛部隊だけ。そうなればもう簡単に動けなくなる!」


 何故なら攻撃部隊が全滅すれば、他のチームの旗を攻撃するには自分の旗の守りを放棄せざる得なくなるからだ。


「そうか。だからこの状態を作るために敵を一箇所に集めなきゃいけなかったんだ」


「それが要所となるこの中央部分。そしてそんな重要な部分を必死に守るだけで、撃退できるだけの力を持ってないように見える俺たちは、奴らを引き寄せる恰好の餌だったってわけか」


 なんて奴だ。

 最初からこれを計算してフィールドの中央に旗を設置し、俺たちに敵を迎撃をしないように指示を出して、外で悠々とアイスを食べて観戦してたと言うのか。


 ったく、考え方が悪魔じみてやがる。

 特にアイスを食べてたってところが!


「さぁ、舞台は整ったわ。今から全員蹴散らすわよ」


 美織の号令に俺たちは「応!」と答えると、それぞれ一斉に跳び立った。

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