Round6 ゴリンピック予選

第二十話 ぽちっとな

 ついに東京ゴリンピックが開催された。

 開催前は色々と不安視されていたが、いざ開催されてみれば何の問題もなく、毎日大盛況のまま過ぎて行く。

 我が日本選手団もこの日の為の努力が実り、メダルラッシュに沸いていた。


「さて、じゃあ蹴散らしてやりますか」


 そんな中、ついに迎えた俺たちの本番。東京ゴリンピックGスポーツ予選グループDの試合がまさに今、始まろうとしていた。



 ☆ ☆ ☆


「なるほど、バトルロイヤルのフラッグ戦かぁ」


 機体に乗り込んでの予選グループを決める抽選が終わった直後。発表になった戦闘形式は、少し意外なものだった。


 100国以上の参加国、120チームのエントリーで、予選を四つのグループに分けることからてっきりまたバトルロイヤル形式の殲滅戦だとばかり思っていた。

 が、チームの旗を掲げた棒を破壊されたら何機生き残っていても即終了なフラッグ戦は、普通のバトルロイヤルと比べて短期間で終わる可能性が高い。

 今回みたいな大勢のチームが参加する場合はこっちの方が適しているか。

 

 もっとも、運が悪ければあっという間に終わってしまうのは俺たちも同じ。

 特に最初にフラッグを設置し、プレイを始める場所を選択するのだけれど、ここで他のチームと重複するようなことがあればいきなり大混戦、即ゲームオーバーも有り得る。

 それだけは回避しないとな。


 俺はじっと戦闘マップを観察した。

 真四角の広大な戦場、その四隅には大きな山が配置されていて、ここにはフラッグの設置はおろか機体の侵入も出来ない。

 つまりは中央に大きな平原が広がり東西南北にそれぞれエリアがある、大雑把に説明するならばジグソーパズルで四方にでっぱりがあるパーツ、あれのでっぱりをもっと大きくしたような感じだ。


 単純な形ながら、実に性質の悪いフィールドと言えるだろう。


 フラッグを守る為には、出来る限り攻撃を受けにくいところに設置したい。

 例えば袋小路みたいなところに設置すれば、前方に注意するだけでいいから楽だ。

 が、今回の場合、その条件を満たしているのは東西南北エリアの最奥だけ。わずか四箇所しかない。

 守りやすいと思って安易に選択したら、戦闘開始と同時に周りも同じことを考えた連中ばかりで、いきなり修羅場になってしまう確率がかなり高そうだ。

 

「んー、やっぱりエリアの入り口付近に設置するべきかな?」

 

 となると次に良さそうなのがここ。

 ここに旗を置いてエリアを制圧してしまえば、結局は袋小路に設置したのと同じ条件になる。

 もちろんこちらも人気があるだろうから最初から戦闘は免れない。それでも袋小路と比べたら全然マシで……。


「九尾、あんたバカでしょ? そんなの、他の連中も同じように考えるに決まってるじゃない」


 美織の呆れた声が聞こえてきた。


「んなこと言っても、じゃあどこにすればいいって言うんだよ? こんな単純なフィールドならどこもその可能性があるじゃねーか!」


「かもね。だけど、だからこそある可能性を考えなきゃいけないのよ」


「ある可能性?」


「そう。ルールでは『フラッグは機体が進行可能なフィールド上のどこかに設置すること』とあるの。そしてフラッグは文字通り棒にくくり付けられた旗。おまけに四つのグループが同時戦闘開始ってことから導き出せる最良のスタート地点はずばりココよ!」


 美織がずばっとフィールドのある箇所にマーカーを灯す。


「え? ちょ、おまえ、そこは!?」


「大丈夫だって。私を信じなさいよ。て、ことでここで決定ー! ぽちっとな」


 そして俺が止めるまもなく、スタート地点を本部に提出しやがった!


「おい、なんでそんな勝手なことをするんだお前は!? チームのキャプテンは俺だぞ!」


「キャプテンって言っても、たかがジャンケンで決めただけじゃない!」


「それでもキャプテンはキャプテンだろうが!」


 そう、チーム唯一のプロゲーマーとしてキャプテンの座は譲れない。

 だからあの死闘ジャンケンに俺は全身全霊を込めたというのに、美織、お前と言うヤツは!


 おまけに美織がマーカーを灯したところ、そこは……。


「よりによってフィールドど真ん中にフラッグ設置って、なんの罰ゲームだよっ!?」


 なお、この俺の悲壮感たっぷりな叫び声は後に某テレビ局の『本日のゴリンピックハイライト』で使われることになるのだが、勿論この時の俺が知るよしもなかった。

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