第十六話 負けてたまるかっ! 

「なんだこりゃあ!?」


 美織たちに遅れる事、十数秒。

 戦場に突入した俺は、そこで繰り広げられている凄まじい光景に思わず叫ばずにはいられなかった。

 

「なんなんだ一体!?」


「どこのチームの奴だ?」


「慌てるな。敵はひとりだ。みんなで連携して撃退しろ!」


 襲われた連中も悲鳴を上げながら、しかしなんとかチームとして連携を取ろうとしている。

 が、そんなのを嘲笑うかのように、


 ババババババババッ!!

 バババババババババッ!

 バババババババババババババババッッ!


 黛さんの二挺拳銃による攻撃は止まらない。

 チームとか関係なく、360度周りすべてが敵とばかりに腕を振るい、ポーズを変えて、拳銃をあらゆる方向へと向けて矢継ぎ早に撃ちまくる。

 反撃する隙などまるでない連射に、小気味良いリロード。しかもひとつひとつのアクションがとても様になっている。


「ふざけんな! 『AOA』でガン=カタって、そんなのありかよっ!」


 黛さんの猛攻に敵の一人が悲鳴をあげた。


 ガン=カタ。

 それはとあるハリウッド映画で作られた、拳銃による近接格闘術。

 まさかそのガン=カタを『AOA』の実戦でやってみせるとは、誰も思わなかったであろう。


 なぜなら拳銃は『AOA』では威力が小さく、またライフルなんかと比べると標的との距離がある程度近くないと当てるのが難しい武器だからだ。


 サブウェポンとして使用するユーザーはいるが、メイン武器としては威力も扱いも厳しい。

 ましてやガン=カタみたいにこうも連射が必要となると、相当な操作精度が必要とされるし、何より連射しているうちに指が痙攣を起こして、すぐに戦えなくなるのがオチだ。


 ババババババババッ!!

 バババババババババッ!


 にもかかわらず、黛さんの攻撃はいっこうに衰えるところを知らない。

 もはや拳銃ではなくガトリングガンを撃っているんじゃないかと疑うレベルだ。

 おまけにムチャクチャ撃ちまくっているように見えて、驚いたことに全ての弾丸を敵にヒットさせていた。一発一発のダメージは低かろうが、こう何発も攻撃を喰らっては大破する敵も続々と出てくる。

 

 そしてようやく攻撃が鳴り止んだ時。

 

 黛さんの周囲にいた連中は皆、ゲームを終了おわらされていた。 


 

「ふぅ。今のでスコアは20体ですか。思ったよりも時間がかかりましたね」


「いやいやいや! 一瞬で四チームを全滅させておいて何言ってるんスか!?」


 イマイチと呟く黛さんにツッコミを入れずにはいられない。


「ですが、きっと美織やレンはもっと凄まじいと思いますよ?」


「……マジで?」

 

 アレ以上に凄まじいってマジで言っているのか?


「まぁ私も初めて試したものですから、ちょっと敵が薄いところに突っ込みましたからね。これで具合が分かりましたから、今度はもっと敵が密集しているところで試してみるとします」


 そう言って更なる戦場を求め、ブースターを全開にして飛び去る黛さん。

 俺は呆然と見送ったものの、しばらくしてはっと我に帰った。


 マズい。

 マズいぞこれは。


 もし黛さんが言ったように他の連中もあんな滅茶苦茶なら、撃墜競争で俺がビリになる可能性があるじゃないかっ!?


 それはダメだ。

 プロゲーマーとしての沽券に関わる!


「負けてたまるかぁぁぁぁ!」


 呆然としている場合じゃねぇぞ。

 俺もどんどん倒していかないと。


 声が聞こえたのか、それともひとりぼっちでいる俺をいいカモと思ったのか、運よくこちらに砂煙をあげて向かってくる一団がいる。

 まずはこいつらを軽く倒させてもらおう。


 ブォン。


 俺は右手にビームセイバーが握ると、気合を入れて一振りした。

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