Round3 結成

第十二話 タイムリミット

『ゴリンピックで金メダルを取れるメンバーが集められそうなら力を貸す』


 黛さんはそう約束してくれた。


「……と言われてもなぁ」


 あの時はなんかその場の雰囲気で「よしやってやるぞ!」と気合が入ったものの、よくよく考えてみたらとんでもなく難しい話じゃないか、これ。

 そもそも他にそんなプレイヤーの心当たりがないからぱらいそに行ったわけで、しかも主力と考えていた美織が行方不明な今、メンバー集めはますます窮地に陥っている。


『おかけになった電話番号は電波を切っているか――』


「ちっ! まだ繋がらないのかよっ!」


 おまけにあれから三日経ち、その間に百回以上電話を掛けているにも関わらず、かずさは出る気配すらない。

 平行してなんとか美織の居場所を突き止められないだろうかと、あちらこちらへと聞いて回ったがこっちも収穫はゼロ。

 このままでは金メダルはおろか、選考会にすら出られないかもしれない。


 こうなってはまだ見ぬ強豪の存在に賭けるしかないか。


 思い立った俺はネットで「プロゲーマーのQBが今度の選考会でのメンバーを募集している」と宣伝し、自分の『AOA』サブアカウントを晒してみた。

 対戦モード時にこのプレイヤーコードを打ち込めば、誰であろうと俺と戦うことが出来るわけだ。


 おかげでうじゃうじゃと対戦希望者は集まってくれたのだが……うん、疲れるだけで何の成果も得られませんでしたっ!


 たまに「お、こいつ、なかなかやるじゃないか」ってヤツがいたものの、プレイヤーネームを見たら冷やかしで対戦しにきたプロ仲間ばかり。こいつらはもうとっくにチームを組んでいやがるから、こちらからすれば嫌がらせの何ものでもない。


 それでも選考会までの一週間、俺はあれやこれやと手を尽くし、しまいには海原アキラに「なぁ、選考会だけあんたらと手を組むってことは出来ねぇかな?」なんて無茶なお願いまで敢行してみたのだが(結果は言うまでもない)。


「……ちくしょう。他に何か手はないのかよ……」


 結局誰一人として有力な仲間を得られないまま、第二回選考会当日を迎えてしまった。





『一本背負いが鮮やかに決まったーっ! この瞬間、嵐山選手のゴリンピック出場が決定―っ!』

『福本選手、危なげなく快勝! これで三大会連続ゴリンピックの出場権を手に入れました!』

『まさかのアクシデント! このまま大村選手のゴリンピック出場の夢は断たれてしまうのかっ!?』


 受け付けロビーに設置された何十と言うテレビモニターから他会場のゴリンピック予選会の結果がリアルタイムで流れてくるのを、俺はぼんやりと眺めていた。


 今日は他の競技でも東京ゴリンピックの最終選考会が開かれている。夜から始まるGスポーツと違って他の競技は午前中から試合が行われており、こちらの受け付け終了五分前の今は、まさにどこもクライマックスの真っ最中だった。


 モニターに映るのは両手を天に突き上げて歓喜の涙を流したり、逆に地面に頭をつけて咽び泣く選手たちの姿。

 勝っても負けても、全力を尽くして感極まる選手たちの姿はいつだって感動的だ。


 なのに、さっきからちっとも心を揺さぶられないどころか、その内容すらまともに頭に入ってこないほどに、俺はロビーの片隅でひとり放心していた。



 メンバーを集められないまま、会場入りした俺。

 こうなってはいまだ俺みたいにいまだチームを組めない連中とつるむしかない、と思ってやってきた。


 事実、そういう輩は結構いた。

 基本的にはみんなノーランカーだが、中にはランク持ちが一人入っているものの、いまだ五人集められていないチームだってあった。

 そいつらに俺から「チームに入れてくれ」と頼めばよかったのかもしれない。

 あるいは声を掛けてくれた奴らに「おう、よろしく頼むわ」と、その手を握り返す機会だって何度もあったんだ。

 

 だけど俺はそのどちらも選ばなかった。

 理由は簡単だ。


 悪いけれど、そいつらとでは世界の頂点に立てない。


 もし、今日の俺が冴えに冴え渡っていれば、この予選会はなんとかなるかもしれなかった。

 けれどあの時、黛さんに言われて俺は自分の目指すべきものが何なのか分かったんだ。そこに至れないのであれば、例え本戦に出場できたとしても、もはや俺にとって何の意味もなかった。


「……でも、やっぱり出たかったよな、東京ゴリンピック……」


 思わず呟いてから、俺ははっとなって周りを見渡した。


 あぶないあぶない。いくら放心状態だからと言って、今の発言はあまりに格好悪すぎる。

 誰かに聞かれでもしたらが最後、一生このことでからかわれるかもしれない。

 特に今、ニヤけた顔で俺に近づいてくるカームに聞かれでもしていたらと思うと、ぞっとした。


「よう、QB! 選手控え室にいないと思ったら、こんなところにいたのか」


 カームが白々しいことを言う。

 試合直前のミーティングとかあるだろうに俺の様子を見にわざわざ来るとは、こいつどれだけこの前のことを根に持ってやがるんだっ。


「まぁな。俺のチームの奴らがなかなか来なくてよ」


 そんな奴らはいないけど、俺はカームにそう答えてやった。

 白々しいヤツには、こちらも白々しい話で対抗してやるのだ。


「は? チーム? お前、何言ってやがるんだ?」


「何って、どうした、しばらく会わないうちに日本語まで理解出来ないようになったのか? まだアラサーなのに呆けるとはかわいそうに」


「……ふん、見え透いたウソは止めろよ、QB」


 俺の挑発にカームの顔からニヤけが消えた。

 こいつ、Calm穏やかってプレイヤーネームの癖して、メンタルの波が分かりすぎやしないか?


「結局お前は勝てるチームを組めなかったんだろう? 色々と足掻き、ついにはチームが組めないままここまでやっては来たものの、やっぱり俺たちに勝てる見込みのある連中はいなかった。だから」


「はっ。カーム、笑わせるなよ」


 まったくもって、とんでもなくウゼい。

 それにこんなヤツが俺たちの代表になるのかと思うと、苛立たしくなって話を途中でぶち切ってやった。


「お前たちに勝つなんざ、どんなヤツと手を組んでも俺なら可能さ」


「なっ!? 俺たちよりランクが低いお前が何を――」


「ランクっつても、お前たちのは自分より弱い奴らをたくさん倒してきただけの話。強い奴らと戦って、ここまで来た俺と一緒にするなよ」


「な、なんだと!?」


「それによ、お前は勘違いしてるぜ? 俺が倒したいのはお前たちじゃねぇ。俺の獲物は海原アキラたち、そして世界だ!」


 俺はぐいっと親指を立てて、自分に向ける。


「なんせ目指しているのは頂点。金メダルなんだからな!」


 俺の宣言にカームが一瞬呆気に取られたような表情を見せた。

 が、すぐにニヤニヤと厭らしい笑顔に変わる。


 まぁな。偉そうなことを言ってみても、所詮俺はメンバーを集められず、選考会にも出られないんだ。カームが一瞬痛いところを突かれて怯んだものの、すぐに現状を思い出して自分が変わらず優位であることを思い出すのも当然だろう。


 まぁいいや。とりあえずこちらは言いたいことを言った。

 次はカームが言いたいことを言う番だろう。

 もっとも俺は聞く耳なんて持たないけどさ。


「QB、何を偉そうな――」


「あははっ! 九尾、よく言ったぜ!」


 その時、カームの言葉を誰かが遮った。

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