疾風怒濤のナインテール！

第九話 再会

　戦闘形式は一対一（デュエル）だった。

　対戦相手は両手剣を握り締める、サムライのような格好をした機体。詳しくは分からないが、なかなかカスタムに力を入れた熟練者のようだ。

　対して美織は右手にビームセイバーを構えた、一見するとノーマルな機体。しかし、あの美織のことだ、きっと何かしらあっと驚くカスタムをしているに違いない。

　特に左腰につけたホルスターがなんか怪しいな……。

　ヴァンッ！

　先に仕掛けたのはサムライの方だった。

　ブースターを解放して一気に間合いを詰めると、鋭い突きを胸元へと放つ。

　それをすかさずサイドステップで躱した美織だったが、相手も回避されるのを予期していたのだろう、逃がさないとばかりに突き出した剣を横へと振るった。

　ブォン！

　相手の剣にビームセイバーで対抗する美織。が、まともに受け止めすぎた。相手の勢いに押されて、軽く吹き飛ばされる。

　美織の機体の姿勢が崩れた。

　ヒュン！　シャン！　ショオオオオオン！　

　袈裟切り。切り上げ。唐竹。逆風。

　好機と見たサムライがここぞとばかりに畳み掛けてくる。

　そのどれもを躱し、反らし、受け止める美織だが、さすがにこのままではいつか手痛い一発を喰らってしまうだろう。どこかで反撃の手を打つしかないのだが、敵もさるもの。一撃一撃をしっかり打ち込みながら、決して無理はせず、付け入れられる隙を作らない。

　さすがはゲーマーご用達ショップ・ぱらいその客だ、結構やりやがる。

　瞬発力を高めていたり、装甲厚めの機体ならこのラッシュから逃れることも出来るだろうが、ノーマル機体ならばなかなか難しい。ここは多少のダメージ覚悟で斬り合いに応じるしか手がないように思える。

　が。

　パンッ！

　突然一発の乾いた銃声が戦場に響いたので驚いた。

　勿論銃火器の使用もアリなゲームであるから、それ自体はまったく珍しいことなんかじゃない。

　しかし、いつ腰のホルスターから拳銃を抜いたのか分からないとなると話は別だ。

　しかもそんな早業でありながら、銃弾は恐ろしいことに相手が振り下ろそうとしている剣へと正確に命中し、わずかにだが弾き飛ばした。

　この神業とも言える所業に、一瞬だが怯む敵。

　その一瞬を逃す美織ではない。

　美織が操る機体は銃弾で弾き返した剣をさらにビームセイバーで払いのけ、がら空きとなった相手の喉もとへと突き立ててみせる。

　それまでずっと劣勢だった戦いをたった一発で逆転させる。憎らしいまでのこの戦いぶりはまさに美織の真骨頂と言え――。

「九尾君、九尾君。アレな、美織ちゃんとちゃうで」

「へ？」

　さすがは相変わらず魅せる試合をしてくれると唸っていると、久乃さんが後ろから声をかけてきた。

「美織、じゃない？　では、一体誰が？」

　あんな高等テクニックに裏づけされた、見る人を引きこむ試合が出来るというのだろう？

　俺は驚いて、再びモニターの方へと見やる。

　さっきまでは周りにいた連中もモニターに釘付けだったが、試合が終わり、ひとり、ふたりとその場を立ち去るところだった。

　中には俺に気付いた奴もいたみたいだったが、プロゲーマーと言っても所詮は日本で十位。「ＱＢだ……」「プロゲーマーだ……」と囁かれこそすれ、サインを強請られるようなことはなかった。

　ある意味、屈辱である。

　まぁ、それはともかく。

　集まっていた客が散り散りになってくれたおかげで、さっきの戦いを繰り広げたプレイヤーの姿が人混みの合間にチラリチラリと見え隠れする。

「久しぶりですね、九尾君」

　と、その件のプレイヤーから突然声をかけられた。

　垣間見える様子から、マウントディスプレイはまだ外していないように見えるし、そもそもこちらには背を向けている。

　それなのにどうして俺だと分かる？

「さすがはプロゲーマーです。身に纏っているオーラが昔とは違う」

　ま、まさか、姿を見ずともオーラを感じ取り、俺だと分かったというのか！？

「って久乃さん、店内のインカムか何かで俺が来てるって伝えたでしょ？」

「あ、バレた？」

「さすがに分かりますよ。で、俺が美織と勘違いしてるから、それっぽく戦ってみてと指示を出したんだ」

「あはは。当たりや。九尾君、なかなか鋭くなったなぁ」

「いつまでも昔の俺じゃねぇっスよ」

　と言いつつ、実は本気で騙されそうだったんだが。

　危ない危ない。プロゲーマー百カ条のひとつ『騙されたくなければ冷静になれ』が生きた。

「それにしてもいつの間にそんなプレイも出来るようになったんです？」

　俺は内心の冷や汗を誤魔化しながら、マウントディスプレイを外し、椅子から立ち上がってこちらを見つめるプレイヤーに問いかける。

「お久しぶりッス、黛（まゆずみ）さん」