Round2 逆境

第六話 貧乏プロゲーマー


 2020年東京ゴリンピック。


 五年に一度のスポーツの祭典に突如としてゲームスポーツ、すなわちテレビゲームが加わることになったのは半年前の事だった。


 確かにGスポーツはここ数年で爆発的にプレイヤー数が増え、俺たちプロゲーマーも他のスポーツ選手同様、立派な職業として認識されるようになった。

 とは言え、さすがにゴリンピックの正式種目に選ばれるとは思ってもいなかったな。

 小さな頃から家とか、ゲーセンとか、何故か駄菓子屋に置かれた筐体でゲームばっかりしていた俺からすれば、なんとも感慨深いものがある。


 そしてその記念すべき第一回目に、俺たちプロゲーマーたちは全員、是が非でも出たいと願っていた。


 ゴリンピックは他の大会とは違って賞金は出ない。

 ただし、注目度は断トツだ。

 全くの無名だった選手がゴリンピックで金メダルを取った途端、たちまち国民的人気者になるなんてこともよくある。


 その栄誉ももちろん誇らしい。

 が、それ以上に魅力的なのは、知名度が上がることによってもたされる恩恵……そう、大手メーカーとのスポンサー契約だ。

 

 普段の大会でも決して少なくない賞金が出るとは言え、それで生きていけるのはほんの一握りだけ。

 世界ランク31位程度では、生活はかなり苦しい。

 おかげでワールドサーキットで全世界を回っているのに、飯といえばいつも運営が用意してくれたホテルで自腹のカップラーメンとか。

 毎年六月には各種税金の通達に、目の前が真っ暗になったりとか。

 ましてやプロゲーマーなのに、資金が苦しくてガチャを回せず、ソシャゲでは素人の金持ちに負けたりなんかもする。


 全部、貧乏が悪いんだ……。

 

 だからプロゲーマーと言っても、他に仕事を持っている連中も少なくない。

 一年を通して世界中を転戦するワールドサーキットも、参加権利を持っているプロゲーマー全員が一堂に会するのは稀だ。そのあたりは歴史も浅いこともあり、他の競技と比べてまだまだ整備が行き届いていない。


 しかし、ゴリンピックの正式種目となり、競技自体に注目が集まっている今、この大会で活躍すればスポンサー契約を勝ち取って貧乏生活から脱却できる可能性がかなり高い。

 プロゲーマーたちが眼の色を変えて出場権を得ようとするのも当然だろう。


 そして俺もいつまでもメインスポンサーが「肉の九尾」(名前からも分かるように、俺の両親が営む街の肉屋さんだ)であっていいはずもなく、この千載一遇のチャンスに賭けたのだが……。

 


『島谷一馬、木羽英治、以上ふたりを日本代表とする』


 選考会終了後の審査発表で、海原アキラから俺の名が告げられることはなかった。


 まぁ、当たり前だ。だって俺のポイント、たった12だもん。アキラに撃墜されて元々もっていた250ポイントを失い、雑魚を倒したポイントしか残らなかった。


 代わりに名前を告げられたのは、まぁ言うまでもなく、ガッチャンとエイジのふたりだ。初めてふたりの本名を聞いたが、正直どーでもいい。明日どころか、この瞬間に忘れてしまおう。多分、この発表を聞いている他の連中だって同じはずだ。


 俺たちプロゲーマーに本名なんて知識はどうでもいい。

 大切なのはプレイヤーネームと、そのプレイスタイルを言い表している通り名だけだ。

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