第五話 虚ろなる選考会

 エイジと話しているうちに、あいつらのいる丘に到着した。

 あとはここを一気に駆け上り、上で待っているやつらをぶっ飛ばすだけだ。


「ランク1位のアキラが100000、2位のヒョードーが50000、3位のサロが25000。こいつらのうちの誰か一機でも倒せば、エイジ、お前のポイントを俺は超える!」


「は、ははは。なるほどなるほど。確かにそうかもしれないね。だけど、笑わせるのはやめてくれないか。たかだがランク10位の君があの3人を倒す? それこそまだガッチャンと戦った方が……」

 

 そこでエイジがはっと息を飲む声が聞こえてきた。


「その様子だと思い出したみたいだいな? そう、サロのヤツはサボってこの選考会には来ていない。つまりサロの機体は今なら俺はおろか雑魚ノーランカーにだって簡単に撃墜できるってことさ」


「な、なんだって……!?」


「そしてサロはすでに代表権を獲得している。ここで俺がヤツを倒しても、サロの代表が覆ることはない。サロを倒し、俺は代表へ駆け上がる。代わりに滑り落ちるのはエイジ、お前だよ」


「やめろぉぉぉぉぉぉ!」


 エイジの叫び声とともに、俺は丘の頂上に辿り着いた。

 そこに日本を代表する三人の機体が揃って俺を待ち受けていた。

 俺から見て左にヒョードー、真ん中にアキラ、そして右にサロ。

 俺はブースターに最後のひと蹴りを入れて、右手のビームセイバーをサロに伸ばして突っ込む。

 が。


 ぴーーーーーーーーーーー!

 

 突然、オーバーヒートの警告音がコクピットに鳴り響いた。

 次いで。


 ぷすんっ。


 げっ! こんな時にブースターが急停止しやがった!!


 何故だ!? この距離ならギリギリ間に合ったはず!

 それなのに何故!?


 慌てて機体の状況を確認する俺の眼が、ある一箇所に釘付けになる。

 機体の各部ダメージを表示するパネル。その左脇部分がいつの間にか真っ赤になっていて『ダメージ』と表示されていた。


 馬鹿な。そんなところにダメージを受けた記憶なんてない……あ、いや、あの時か!

 

 俺の脳裏にカームが苦し紛れに放った一撃が浮かぶ。

 確かにあの時、かすかに振動を感じたが、まさかそれがよりもよってこんなところを掠めていやがったとは。

 俺の機体の左脇の内部にはエンジンを冷やす為の冷却装置がある。そこにダメージを食らっては、いつもより早くオーバーヒートするのは当たり前だ。


 おいおい、なんてこったい! ここまで来てそれはないだろうっ!?

 確かに機体には無理させたけれど、ここで死ぬなんてお前は根性なしかっ! 俺様の相棒ならば、最後に根性があるところを見せやがれっ!


 俺は熱い念を込めて、再度ブースターの点火スイッチを押す。

 が、悲しいかな。これ、ドラマチックな映画でもなければ、たまにそういう奇跡が起きる現実でもなく、とってもリアルなバーチャル世界なんだよね。

 俺の願いも虚しく、ブースターは「ぶおん」も「ぷすん」も言わず、無言を貫いた。


 と、その時だった。


 俺の機体が突然後ろから激しい衝撃に襲われた


 その瞬間には何事が起きたのか、俺には全く分からなかった。

 後で知ったのだが、俺の攻撃を止めようとエイジがブーメランを投げつけ、それが見事に俺の機体を上下真っ二つにしたらしい。

 なんだかんだで俺の行動に不安を感じたエイジは、ステルスのままかなりの距離がありながらも追走し、真意を知って「もう間に合わない」と思いつつも、ブーメランを放ってきたのだそうだ。


 そこへ俺の機体がオーバーヒートを起こし急停止。

 本来間に合わなかったはずのブーメランが俺の機体を直撃したということだ。


 が、それ自体はどうでもいい。

 大切なのはこの攻撃で俺の機体の腹から上部分が吹き飛ばされ、ちょうどサロに向かって飛んで行ったということだ。


 いや、びっくりしたよ。

 諦めていたところに、いきなり吹き飛ばされてサロの機体がどんどん目の前に迫ってくるんだから。

 エイジのヤツに真っ二つにされた状態でサロを倒しても、果たしてポイントが手に入るのかどうかは分からない。が、これは神様がくれた最後のチャンス。俺は必死にビームセイバーをサロ目掛けて伸ばす。


 でも。


「……」


 俺のビームセイバーを伸ばした右手は、あと一歩でサロの機体を貫くというところでヒョードーの左手に阻まれ。


「残念だったな、QB。いや、」


 俺の耳に聞こえてきたのは、神様の声ではなく。


「こういう時こそ通り名で呼ぶべきか。疾風怒濤のナインテール!」


 まるでゾンビみたいに上半身だけでサロに襲い掛かった俺を一瞬のうちに迎撃した、海原アキラの声であった。



 こうして俺の、2020年東京ゴリンピックGスポーツ出場への挑戦は終わったのだった。

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