第四話 勝つのは俺だ!
「なっ! QB、俺を見捨てて逃げるつもりかっ!?」
とうの昔に戦域を離れ、ブースターを最大出力にして翔ける俺の耳に、カームの悲壮感溢れる声が聞こえてくる。
「悪いな、カーム。ガッチャンの相手はお前ひとりでやってくれ!」
「なんだと! ふざけるなぁぁぁぁぁ!」
そして。
ズキューーーン!
不意にレーザービームの音が聞こえたかと思うと、俺の機体を軽く震わせて掠めていった。
「くそっ! 外したっ!」
カームが悔しそうに喚く。
どうやらガッチャンに腕を押さえられながらも怒りの底力で振り切り、俺向けて攻撃をしたらしい。
あ、あぶねー。
さすがにこれは想定外。てっきりガッチャンに腕を捻じ曲げられると思っていた。
まさにカームの執念だ。直撃を避けられたのは本当にラッキーだった。
「QB! 貴様、覚えていろよっ!」
カームの怒声が聞こえてくる。
ちらりと後ろを振り向くと、無理して俺を攻撃した代償だろうか。カームの機体がガッチャンにがっちりと捕捉されていた。
「さっきは散々虚仮にしてくれやがったな、カーム。だが、これでお前もおしまいだ」
「くそ、放せ! 放せぇぇぇぇ!!」
必死の抵抗も虚しく、ガッチャンの胴体がぱっくりと縦に開くと、掴んでいたカームの機体にがぶりと齧りつく。
通り名『丸かじり堕天使』の由来である、ガッチャンならではの攻撃だ。
これを食らってはさすがに日本ランク6位のカームといえども、どうしようもない。
「く、くそっ! どうしてこうなってしまったんだああああああああ!」
その断末魔を最後にカームからの交信が途切れた。
「あははははは。最後には仲間にも見捨てられるとは、やっぱりカーム、君は代表には相応しくないよ」
代わりにエイジの声が聞こえてくる。
その機体の姿はもう完全に隠れて見えないが、交信できるという事はまだ近くにいるのだろう。
だったら――。
「そうさ、僕には最初から分かっていたんだ。こんな選考会なんて必要ないって、ね。残りの二席に相応しいのは、誰が見ても分かってる。そう、ランク4位のガッチャン、そして――」
「この俺、QB様だ!」
だから聞こえてくるエイジの声に被せて、この選考会の本当の勝者になる俺の名前を言ってやった。
「QB? 君、そんな全速力で逃げてるくせに何を言っているの?」
エイジの呆れた声が聞こえてくる。
だけど、俺は知っている。その声にどうしようもない苛立ちが隠されているのを。
まぁ格好良く勝利宣言をしようとしたところに突然割り込まれたのだから、分らないでもないけどな。
「逃げてる? 俺は逃げてなんかいねぇぜ?」
「はぁ? ホント、君、何を言って――」
「これが逃げているように見えるのなら、エイジ、お前もやっぱり代表には相応しくねぇな?」
俺はさらにブースト全開で、ターゲット目掛けて疾走する。
やがてピーピーピーと警告音が鳴り始めた。
このままではあと数十秒でオーバーヒート状態になり、動けなくなってしまうだろう。
が、長く乗りこなしてきたこいつの実力は俺が一番よく知っている。
――絶対、間に合うはずだ!
だから俺は構わずフルスロットルで翔ぶ。
「……どういう意味だい?」
「お前、さっきカームによく考えてみたら分かるって言ってたよな? だったらこれもよく考えてみたらどうだ?」
「……言わせてもらうけど、もし君が僕のステルスを見破って、今、僕に向かっているつもりなら、それは大間違いだよ。むしろ君は今、僕からどんどん離れて行ってる」
「そうか。じゃあ交信が出来なくなるのももうすぐだな。仕方ない、答えを言ってやるよ」
俺はすぅと息を吸い込むと、誰も見ていないコクピットの中でにやりと笑った。
「今回のポイントバトルロイヤル、日本ランク4位のガッチャンが12500ポイント、5位のエイジが6250、6位のカームが3125。つまり、最初に与えられるポイントはランクがひとつ上がる毎に倍になっているわけだ」
「それがどうしたって言うんだい?」
「鈍いな。よく考えてみろよ。どうしてガッチャンが12500なんて中途半端な数字なんだ?」
「……それはガッチャンが日本ランク4位だからだろ? 3位が25000、2位が50000、1位が100000ポイントっていうだけのことだ」
「そう。しかし、それはあくまで日本ランクの話。今回の選考会だけを考えれば、参加者の中でランクが一番上のガッチャンが100000ポイントであってもおかしくはない。でも、実際は違う。何故か? よく考えたら答えはひとつしかないよな?」
「それはどういう……あ、ま、まさか!?」
「ああ、つまりはあいつらも密かに参加してたんだよ、この選考会に!」
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