第三話 間抜け者たちの歌
「よっしゃー! イケる! イケるぞ!」
「墜ちろ、ガッチャン!」
対ガッチャン戦はこちらの想像以上に上手くいっていた。
バトルロイヤルと聞いて咄嗟に手を組んだ即席チームだったが、皆がそこそこの実力者揃いということもあって連携が取れており、一体が攻撃すればすぐに引き、代わりに別の機体が攻撃を仕掛けるという単純な戦術ながらも、ガッチャンを完全に翻弄していた。
「周りの雑魚どもに美味しいところを持っていかれないよう警戒しろよ」
「分かってるって。それよりもこの調子で行けば撃墜も近い……おっ?」
俺たちの攻撃に焦れたのか、ガッチャンが無理矢理反撃に転じようとして、逆に隙を作ってしまった。
その隙はあまりに大きく、いくら分厚い装甲を誇るガッチャンと言えども、ここで強烈な一撃を喰らえば撃墜も有り得る。
「キタァァァァァ!」
「もらったぜ!」
だからそれまでの作戦を忘れて、俺を除いたみんなが一斉に襲いかかるのも仕方がないとも言える。
が、なんというか、実に単純でおめでたい連中だ。
その瞬間まで、きっとこいつらは自分たちがワナにかかっているのではないかと疑うことすらしなかったのだろう。
ザクッ!
ザクッ!
ザクッザクッザクッザクッ!
絶好のチャンスへ一斉に襲い掛かる連中と同じタイミングで飛んできたソレが、ガッチャンの機体の周りをぐるりと半周する。
ただそれだけなのに、次の瞬間には連中の機体がまるで紙人形の如く、胴体を真っ二つに切り裂かれてしまった。
「な、なんだとっ!?」
さすがは日本ランク6位といったところか。
辛うじてこの凶刃から逃れたカームが驚きの声を上げる中、俺たちのチームをほぼ壊滅に追いやったそいつが周りの雑魚どもも同じように切り裂きながらシュルシュルと音を立てて、元の持ち主のもとへと帰っていく。
ガシっと得物を受け止めて、こちらを見つめる白銀の機体。
特殊武器のブーメランの威力と、身を隠すステルス機能に全てを注ぎ込み、機体そのものはランカーの中でも最低能力という極端なカスタマイズを施しているそいつは――。
「エイジ! くそっ、まさか、お前らが組んでいたとは!?」
カームが叫ぶ。
日本ランク5位、世界ランク15位の通り名『ブーメランエッジ』ことプレイヤーネーム・エイジ。
今回の選考会でまさしく当落線上ギリギリにいるプレイヤーであり、俺たちのターゲットのもうひとりがこいつだった。
とは言え、抜群のステルス能力を誇るこいつを見つけるのは極めて難しい。それに選考会が終わるまでじっと身を隠し、自分のポイントを保持したまま勝ち抜けをエイジが狙うとしたら、積極的にその身を周りに晒すようなことはしないだろう。
そうなったらますますお手上げだ。
だからプレイヤーの多くがこいつを討つのをほとんど諦めていたに違いない。
もっとも俺の狙いはまさにこいつを、半ば決まっている代表の座から引き摺り下ろすことなんだが。
「あっはっは、何を驚いているんだい? 代表に一番近い僕たちが手を組むなんて、よく考えたら当たり前のことだろう?」
突如として現れたエイジに、その近くにいた雑魚たちがここぞとばかりに襲い掛かる。
が、機体こそ弱いものの、ランカーである実力は伊達ではない。全方位から襲われながらもエイジは巧みに躱し、逆に撃墜しつつ、俺たちを嘲笑った。
「君たちが僕らを狙っているのは分かっていた。特にガッチャンはステルス能力も持たないし、君たちには格好の的になるだろう。いくら彼でもひとりで君らを相手にするのは厳しい」
「だったら放っておけばいいじゃないか。ガッチャンを助けて、お前に何の得がある?」
「得はあるさ。何故なら僕のポイントは6250しかないんだ。ランク六位であるキミが頑張れば追い抜けない数字じゃないだろ? 少しでもその可能性があるのなら、なんとかしなくてはいけない」
そう、だからランカーたちに狙われて困るガッチャンと、自分のポイントを追い抜く可能性のある連中をなんとかしたいエイジには、手を組むだけの理由があった。
孤立無援をよそおい、囮になったガッチャン。
そのガッチャンに襲い掛かる敵の一網打尽を狙ったエイジ。
まさに俺たちのチームはそんな彼らのワナにまんまとはまったというわけだ。
「まぁ、カームを倒し損ねたのは失敗だったけど、それでもさっきのでかなりポイントは稼いだはずだ。もうお前たちは僕のポイントを追い越すことなんて出来ない。そう、僕かガッチャンを倒さない限りは、ね」
と言いながら、エイジの白銀の機体が次第に周りの景色に溶け込んでいく。
お役御免とばかりに、ステルス機能を発動させたらしい。
「待て! エイジ!」
「あはは。ごめんね、カーム。僕はもう退場させてもらうよ。代わりに君の相手はほら、ガッチャンがしてあげるってさ」
逃げようとするエイジに、無駄だと分かっていてもビームライフルを放とうとするカーム。
しかし、いつの間にか近付いていたガッチャンがその腕をガシッと握り締め、あらぬ方向へと向けてしまった。
「くっ! ええい、こうなっては仕方ない。QB! 俺とお前でなんとかしてこいつを――」
慌てたカームは俺のいた方へと振り向いて叫ぶ。
が、悪いな、カーム。
ガッチャンの相手はお前一人でやってくれ。
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