第二話 見敵必殺

 ブォン!


 襲い掛かってくる敵の攻撃をサイドステップで巧みに躱し、脇をすり抜けながらビームセイバーを相手の腰めがけて一閃。

 クリティカルな一撃に敵機が火花を撒き散らして爆発するのを見届けることなく、すかさずブースターを開けて空へと跳ぶ。

 間髪容れず俺が元いた場所に二体の機体が上から、あるいは横から斬りつけ、遠距離からの狙撃が着弾した。


 さすがはバトルロイヤル。油断も隙もあったもんじゃない。


 とは言え、そんなのはこちらもお見通しで、攻撃を空ぶった二機は仲間がすかさず撃退し、遠距離から攻撃してきた機体も逆に狙撃して撃ち落してやった。


「QB、あまり上に回避するな。そこを狙い撃ちされるぞ」


「言われなくても分かってるよ。それよりも見つけたぜ。ここから北西の方向にガッチャンがいる!」


 自称隊長様のありがたい忠告を一蹴すると、俺は言った方向を指差した。


 プレイヤーネーム・ガッチャン。通り名『丸かじり堕天使』を持つこいつは日本ランク4位、世界ランク12位の実力者であり、俺たちのターゲットであるふたりのうちのひとりだった。


 しかし、独特の大きくて丸い機体だからすぐに見つかるだろうと思っていたが、これだけうじゃうじゃ参加者がいるとなかなか難しい。思ったよりも時間がかかってしまった。


「さて、どうするよ?」


「倒すに決まってるだろ! あいつを倒せば代表の座がぐっと近付くんだ!」


 チームの誰かが吠えた。


 代表……そう、今回の大会は国別対抗の国際試合である。

 各国を代表する、五人一組によるチームバトル。すでに我が日本チームは、実力が飛びぬけているランク上位の三人が内定している。

 残りの代表の席はふたつ。

 それをこの選考会で決めようというのだ。

 

 選考の戦闘形式はバトルロイヤル。

 ただし、普通のバトルロイヤルではない。実はポイント制だ。

 この戦場にいる各プレイヤーは、ゲーマーランクに応じたポイントをゲーム開始時に貰い、それを守り、かつ奪い合う。そして予選会終了時に所持しているポイントで代表者二名が決められるという仕組みである。

 

 日本ランク四位であるガッチャンのポイントは12500。

 五位のエイジは6250、六位であり、このチームの隊長を気取るカームが3125で、以下七位が2000、八位が1000、九位が500、そんでもって十位の俺が250だから、如何に上位陣を叩かないと意味がないか分かるだろう。


 雑魚ノーランカーなんて、倒してもたったの一ポイントしか貰えない。


 つまりこれはランク下位の者は上位のヤツを倒してポイントを奪い、上位の者は下位の輩を返り討ちにして自分のポイントを守る、という戦いなわけである。

 

 ちなみにこの参加者全員にチャンスを与えながらも、これまでのランキングも考慮した実に絶妙なシステムを考え出したのは、日本ランク1位、世界でも2位という日本の絶対的エースであり、カリスマでもある海原アキラ。

 プレイヤーネーム・アキラ、通り名は『古神エンシェント・ゴッド』だ。

 日本人初のプロゲーマーであり、黎明期から業界を支えたこの偉人は、そのゲームに対するストイックな姿勢からも多くのゲーマーから尊敬を集めている。


 勿論、俺も尊敬してるぞ。

 が、いつか絶対倒してやろうとも思っている。


 そしてその海原アキラは今も戦場全体を見下ろせる丘にて俺たちの戦う様をご視察中だった。

 両隣には同じく代表入りが内定している日本ランク二位のヒョードー、同三位のサロを従えている。

 もっとも堅物のヒョードーはちゃんと参加したのだが、若くて威勢のいいサロは視察なんてかったるくてやってられないらしく、この選考会が始まる前に欠席が発表された。

 だから今アキラの左に立っているサロの機体は、もぬけの空だ。



 ま、それはともかく。


「よし。おいQB、ガッチャンの様子はどんなだった?」


「俺たちと同じさ。ノーランカーたちを蹴散らしていた」


「チームを組んでいる様子はあったか?」


「さぁな。そこまでは分かんねぇよ。が、ガッチャンを倒せばまず間違いなく代表入り出来るんだ。そんなのと手を組もうとするヤツがいるか?」


 自称隊長のカームの質問には答えられなかったが、代わりに問いかけてみる。

 

「QBの言う通りだぜ。倒さなきゃいけない相手と仲間になるヤツなんかいるわけねぇよ」


「仮に仲間になると言ってきても、この状況だしな。いつ裏切られて背後からバッサリやられるかと思ったら、そう簡単に手を組めるもんじゃない」


「それもそうだな。よし、向こうがひとりだけならば、俺たち五人でも十分に勝つチャンスがある!」


「やるか? しかし、もう少し他の連中をけしかけて消耗させてからでも遅くはないと思うが」


「馬鹿かよ、お前は! そんなことしてる間に俺たちみたく連携を組んでいるヤツにやられるかもしれねーじゃねぇか!」


「うん。今がチャンスだ!」


 俺の問い掛けをきっかけに、周りの奴らが俄然色めき立つ。


「……よし。やるか」


 そしてカームがしばし考え込んだ後、アタックの決断を下した。


「ヒャッハー! ガッチャンの首は俺が貰ったー!」


「功を焦りすぎて自滅すんなよ?」


「ああ、各自攻撃しながらも陣形は崩すな! ただし最後の一撃は早い者勝ちだぞ」


 カームのゴーサインに一斉に皆がブースターを噴かして、ガッチャン目指して移動を始めた。

 もちろん、俺も陣形を守りながら付いていく。

 その時、ちらりと小高い丘の上で構えている三体の機体が見えた。


(お前ら、よく見えてやがれよ!)


 俺は心の中でそう呟くと、考えておいた作戦を改めてもう一度頭の中で繰り返した。

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