Round1 選考会
第一話 バトルロイヤルパーティー
「うへぇ、こりゃあまた凄まじいな」
乾いたサバンナを模した大地を、何百と言う『ACE』と呼ばれる機体が飛び交う。
今まで最大でも5vs5だったから、今回のアップデートでいきなり最大1000体まで同時交戦が可能になったと聞いた時には驚いたもんだが、実際に体験してみると想像していたよりも遥かにとんでもなくて圧倒された。
ともかく辺り一面敵だらけ。あちこちで戦闘が起こり、墜落を告げる爆発がまるで香港あたりの爆竹祭りみたいな勢いでひっきりなしに発生している。
それでいて一切処理落ちせず、むしろブースターが巻き上げる砂埃やら、銃口から飛び散る火花やらのエフェクトは強化されているのだからたいしたもんだ。
しかし、アレだな。
バトルロイヤル形式を取った今回の選考会、あまりに参加者が多すぎるからしばらくは協力して戦わないかと誘われた時は悩んだが、その手を握り返して正解だった。
さすがにそう容易くやられるつもりはないが、こうも敵だらけだと一人では対処しきれないかもしれない。
普段は一匹狼を気取っている俺だが、勝つためにはそうも言ってられない時もある。
「いいか、
戦場の激しさに圧倒されていると、内蔵されたヘッドセットから、隊長を気取るヤツの命令が聞こえてきた。
今回手を組むことになったメンバーの中で一番の実績を誇っているから、自分が仕切らなければと張り切っているようだ。
「特にQB! お前、いつもの特攻精神は封印しろよ!」
おっと、いきなり名指しで釘を打たれてしまったぞ。
まぁ、仰る通り、俺のプレイスタイルは常に「ガンガン行こうぜ」だから不安になるのもわかるけど、さすがに今回は自重するさ。
「へいへい。了解」
「あのな、今度の大会はチーム戦なんだ。お前も代表に選ばれたいのなら、この予選会でチームプレイも出来るってところを見せておくべきだぞ」
お、確かに。
「というわけで、お前は囮役をやれ。お前が敵を引きつけて敵の隙を作り、そこを俺たちが仕留めていくから。いいな?」
「ちょ、おま!」
上手いこと言ってハメやがったなとこっちが文句を言う前に、他の連中から「うーす」って返事が聞こえてくる。
とても「嫌だ」なんて言える雰囲気じゃない。
やられた。囮役なんて損な役割を押し付けられちまった。
「よし。では、各自ダメージを最小限に抑えつつ、この雑魚たちの包囲網を突破するぞ」
自称・隊長が操る機体のブースターがぼっと炎を吹き出す。
次いで俺たちもエンジンに火を入れた。
さぁ、戦闘の始まりだ。
『エース・オブ・エース』(以下『AOA』)。
これがさっきから俺たちがプレイしているゲームの名称だ。
高校を卒業して数年経ち、今はもう2020年。とは言え、社会自体はそんなに変わってない。
だが、ゲームの世界は違う。
数年前にリリースされたVRマシンは幾つかのバージョンアップを経て格段に進化した。
特にこのマックロソフト社のXVRはヘッドマウントディスプレイだけでなく、両手両足に専用のデバイスを装着する事で臨場感溢れるバーチャル世界を楽しむことが出来る。
そして同じくマックロソフト会長であり、稀代の天才プログラマーであるヒル・ゲインツが手がけた『AOA』では、その性能が存分に発揮されるのだ。
デバイスを装着し、ソフトを立ち上げるやいなやそこはプレイヤーが乗り込む機体のコックピット。
足の体重のかけ方で前後左右に動き、その強さの具合でスピードを調整。ドンと踏み込めばジャンプ。さらに足の親指で機体の両足に取り付けられたバーニアを動かしてやれば、より細かな動きやキックだって可能だ。
手の方はグローブ型デバイスのモーションセンサーでプレイヤーの腕の動きを再現。さらにはグローブの中のプレイヤーの指の動きで、各種アクションを行えるようになっている。
例えば何かを握るようにすれば剣を持つし、人差し指を曲げれば銃器、手の甲を前にして握りこめば盾を持つ。もちろん素手で殴りつけたり、何かを掴むことだって出来るぞ。
さらに戦歴によって与えられるポイントと色々な部品の組み合わせで機体をカスタマイズするのは勿論、オリジナルの武器や装備だって作成が可能。
やろうと思えば可変型の機体にしたり、レールガンを作ったり、練習用に人工重力装置なんかまで作成が出来たりする。
まさに男の憧れであるロボット戦闘を、従来とは比べ物にならない臨場感で楽しめる夢のゲーム、それが『AOA』であった。
そんなリリースされるやいなやあっという間に世界中で大流行となった『AOA』。プロリーグが出来るのは当たり前のことだろう。
昔から格ゲー、FPS,RTS、MOBAなどのプロリーグはあるが、最近一番勢いがあるのがこの『AOA』である。
そこに俺も参加していた。
2020年3月現在、俺こと
そう、つまりはプロゲーマーだ。
高校生の時に冗談で言ったのに、まさか本当にプロゲーマーになれるとは……。これもひとえに良き友たちの支えと、そいつらのシゴキに耐え抜いた俺の努力の賜物である。
ただ、プロゲーマーになったとは言え、まだまだ下っ端。食っていくので精一杯な現状に満足するわけにはいかない。
プロゲーマーとして最高な人生を全うするためにも、今は少しでも上に行かなくちゃな。
そして今回、そんな俺の前におあつらえ向きな大舞台が開かれることになり、今はその選考会の真っ最中、というわけである。
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