疾風怒濤のナインテール!
タカテン
プロローグ どこまでも青い空の下で
それは高校二年の初夏のこと。
「俺、プロのゲーマーになろうかなぁ……」
雲ひとつなく、まるで世間知らずな俺たちの青臭さを象徴するような空の下。
校庭にシートを広げ、みんなと昼飯を食べていた俺はぽつりと呟いた。
別に本気で言ったわけじゃなかった。
ゲームは大好きだけど、俺の腕前でプロゲーマーになんてなれるわけがない。
ただ、将来の夢とか、何になりたいのかさっぱり分からないのに、担任の先生は今週中に進路希望の紙を提出しろとか言ってくるし。
それでみんなはそういうのどう考えているんだろうと思って、ちょっとした笑い話から切り出してみたわけだ。
「え? 健太、プロゲーマーを目指してるの?」
弁当の出汁巻き卵を箸で摘みながら、驚いたように俺を見つめてくるのは親友の
おお、さすがは親友。ちゃんと話に食いついてきたな。
よし、じゃあ盛大に笑い飛ばしてくれたまえ。
「プロゲーマーかぁ……うん、健太ならなれるよ、きっと」
だああ! そうじゃねぇ、そうじゃねぇよ、香住!
そこは「健太の腕でなれるわけないじゃん!」って笑い飛ばすところだろ?
お前はいいヤツだけど、ホント、いいヤツすぎるぜ、心の友よ! お前が女の子だったら絶対にホレてた!
「へぇ、九尾がプロゲーマーねぇ」
そこへジロジロと俺の顔をガン見する、ちんまい生き物がいた。
体つきは中学生か、下手したら小学生に見える。顔つきも童顔で、そっちの人にはウケそうな要素がてんこもり。
が、その外見に騙されてはいけない。こう見えてこいつは現役高校生ながら近くのゲームショップ『ぱらいそ』の店長でもあり、大人顔負けの経営手腕でお店を見事に立て直した実力者だ。
おまけにアホみたいにゲームが上手い。俺は『ぱらいそ』の常連なのだが、その常連様に一度も勝ちを譲らないって、こいつの辞書に「接客」って言葉はないのだろうか?
まぁ、いいや。
さぁ、笑い飛ばしてくれ。
そして「じゃあみんなは将来何になるつもりだよ?」って、こっ恥ずかしい話題を振るからよ。
「まぁいいんじゃない。あんた、どれだけ負け続けても懲りもせず勝負を挑んでくるし、その負けず嫌いな性格だけは向いてると思うわ」
「性格だけってどういう意味だよっ!?」
「どうもこうも、そういう意味よ。それ以外の要素はまだまだプロには程遠い。でも、そこはこれからの頑張り次第でどうにでもなるわ。死ぬ気でやりなさい」
おおう、こっちは冗談で言ったつもりが、死ぬ気でやるように言われてしまったぞ。
「オレはむしろ九尾の性格にこそ難があると思うけどな」
思ってもいなかった成り行きに呆然としているところへ、話に割り込んできたのは同級生の霧島レン。
話し方同様、男みたいなさばさばした性格をしているが、それ以外は腰まである長い黒髪といい、美織とは違ってたわわに育った胸の膨らみといい、そしてちょっとキツめの印象を与えるものの美しく整った顔付きからして立派に女の子している。
そんなレンは有名な空手道場の一人娘で、空手は勿論の事、格闘ゲームもハンパなく強い。
俺は彼女にもこれまで勝てたことはなかった。
「こいつ腕はあるんだよ。攻める時の思い切りもいい。だけど一度キツい反撃を食らうと、一気にそこからガタガタになる。メンタル弱すぎだろ」
うっ、褒められたかと思ったら、メンタル弱いとかズキっとすることを言われてしまった。
やめて、気にしてるんだから、そういう繊細なところには触れないで←ホントにメンタル弱いな。
「でも、メンタル弱い人が何度も勝負を挑んだりするかな?」
「司、それとこれとは話が別なんだよ。九尾は豆腐メンタルだけど、同時に図々しいんだ」
「あー、それは言えてるわね。その図々しさや大胆さがプレイにも活かせれば面白いんだけど」
「プロになるにはまずその精神面の弱さを克服しなきゃな。それから――」
そして当の本人を放ったらかしにして、三人はあーだこーだと俺のプロゲーマー育成計画を熱心に議論し始めた。
あはは、なんなんだおまえら。俺がプロゲーマーになるなんて冗談に決まってるじゃん。
それなのにやれ判断スピードの強化だの、無我の極地だの、神経をプログラムに同化させるだの、なんかムチャクチャ盛り上がりやがって。
「てことで、九尾、今日から早速特訓よ」
「仕方ねぇ、オレも付き合ってやるか」
「あはは。頑張ってね、健太」
ついにはプロゲーマーに向けての特訓内容まで決まってしまったようだ。
ちっ、まったく、もう!
そこまで本気に受け止められたら、こっちだってその気になってしまうじゃないかよっ!
こうして俺、
すぐに担任から呼び出しを喰らって、急遽親も交えての三者面談が開かれたのは言うまでもないだろう。
だけど、俺は決めたんだ。
俺を信じてくれるヤツがいる。
だったらそれに全力で応えてみせるべきだって。
それはたった一度きりの人生を賭けるには相応しい理由のように俺には思えるんだ。
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