「待ち続けるもの」

重責を解かれ、ようやく穏やかな日々を過ごせるはずだった。


―また、あの少年か・・・


あの夢を見続けたしばらく後で、丁度、任期を終える間際に立ち寄ったとある惑星で、彼はひとりの少女と出会った。


その後、彼の見る夢から、“顔の見えない謎の少女”は現れなくなった。


―彼女は、彼女の役目を果たした―ということなのだろうか・・・


「・・・まぁ、確かに、メッセージは受け取った・・・と、思っておくよ―」


目の前ある机の引き出しをゆっくりと開けると、その“メッセージ”を確認する。




だが。




相変わらず、もうひとりの“顔の見えない少年”は、夢枕に時折現れては彼に何かを伝えたがっているようだった。




天と地を指し、まばゆい光と共に、消え去る。




「―何を、言いたいのだろうな、彼は」


男は、机の上にある箱からタバコを取り出すと、しみじみ味わいながら。




「・・・来い、ということか、私に?」




国家元首として、連邦代表としての役目は既に後任へと引き継いでいる。


今の彼には、星を背負う権限はない。




―もしかすると、私自身のルーツにまつわることなのかも知れないな・・・




まだ長いタバコの火を灰皿に押し付けると、おもむろに通話機へと手を延ばす。


そして、登録されたIDのひとつに掛けると、直ちに応答があった。




『あら、あなた。こんな時分にどうなさったの?』


 少し戸惑うような低めの、聞き慣れた女性の声だった。


「すまない、そっちの時刻をすっかり失念していたよ。ちょっとした提案があってね―」


『提案?・・・楽しいことなら大歓迎よ?』


「ああ、きっと思いでに残る楽しい旅になるよ・・・詳しくは、戻ってからゆっくり話そう」


『まぁ、素敵ね!楽しみに待っていますわ―』


 通話を終えると、まだ残るタバコの薫りの余韻に浸る間もなく、彼は部屋を後にした。








※少女との出会いの詳細は未収録です。

※2017年3月3日ブログ先出分再録

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夕映えの騎士シリーズ 青谷因 @chinamu-aotani

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