寿ぎの禁忌

とある惑星に於いて。

来たるべき時を迎え終わるまでの間。

けして口にしてはならないという、まじないの言葉がある。


寿ぎであると同時に、滅びへと導くという、諸刃の剣の様な。


口に出した途端に、人人の油断を生み、ほころびを生み広げて。

絶望の底へ叩き落とされると伝えられてきた。



ある時の戦で、勝利を確信した時の支配者が鬨の声を上げると供に、その言葉を口にしてしまったことがあった。


神々の怒りを恐れた民衆は、やがて、彼を追い詰めていき。


適切な処断を下したという。


以来。


暗黙の了として。


誰ひとりとしてその言葉を寿ぎとして使うことは無かった。



だが。


近くその押し込められた沈黙の日々からようやく、開放の光が、見え始めてきていた。


間もなく、もどかしくも鬱屈した思いから、抜け出せるやも知れないと。


多くの人人が、密やかに胸躍らせながら耐え忍んでいるのだ。



そうして。


誰かが迂闊に口を滑らせないかとも、固唾を呑んで見守っている。





まばゆい夕映えは、きっと、もう、間もなく、我々を照らし出すだろうことを、信じながら。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る