第6話商人ギルド
「おぉぉ……」
俺は今、街……レイロブールの大通りを歩いている。
たくさんの人々が行きかう大通りは、石畳で舗装された通路に沿うように、たくさんの店れが立ち並んでおり、果物を売ってるいる店もあれば、何かの液体を売っている店もある。
大通りは、前方に見える巨大な城へと真っ直ぐに伸びており、すれ違う人たちは、防具を付けた冒険者のような人たちもいれば、芸のようなものを披露してる人たちもいる。
「異世界って感じするなぁ……」
そう小さく呟く。
「ア、アセナ、迷子になるんじゃないぞ。ちゃんとついてくるんだぞ」
声をかけるが返事がない。
人とぶつからないように気をつけながら、アセナの方を振り向くと、こちらを心配そうな目で見ながら歩いていた。
「なんだ? 俺は大丈夫だぞ? 人混みは慣れているからな」
「ウォーン」
「嘘なんてついてないぞ! 本当だからな!」
俺はこう見えて、東京に住んでいたのだ。
ほとんど、外には出なかったが……
親に「せっかく東京に住んでるのだから、もっと外出しなさい」と、口を酸っぱく言われた思い出が蘇る。
――――――――――――――――――
「おっ? ここかな?」
テオールから教わった通りに歩いてくると、大きな建物についた。
大きな看板には、『商人ギルド』と書かれており、その周りには金貨らしき絵がたくさん描かれている。
建物へは、たくさんの人が出入りしており、その人たちは皆、服装が漫画やアニメなどに出てくる、ザ・中世の商人、という格好をしている。
ふと思う、この世界では言葉だけではなく、文字まで日本語なのか……
こちらとしてはありがたいが、都合が良すぎやしないか?
まあ、今気にすることでもないか、それよりも。
「よし、入るか。っと、アセナはここで待っていてくれ」
「クゥーン」
「入っちゃ駄目なの?」と言いたげにこちらを見てくる。
俺だってもちろん連れて行きたい。
こんな可愛いうちの子を置いていくのだ。
心配で心配で堪らないし、人攫いならぬ、魔物攫いに遭う可能性だってある。
だが許可も貰ってないのに、勝手に入れるわけにはいかない。
「ごめんな、でも、そんな時間かからないと思うから」
そう言い俺は商人ギルドへと入っていく。
商人ギルドへと入り、受付のお姉さんの元へと向かう。
お姉さんは、金髪でかなりの美人さんだ。
さすが、異世界の受付嬢。
そんなことを考えていると。
「商人ギルドへ、ようこそ! ご用件はなんでしょうか?」
満面の笑みで、出迎えられた。
「えっとー、ここでは、買取をやっておられると聞いてきたのですが、できますか?」
「買取ですか? ものによっては、お断りさせてもらうものなどありますが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。えっと、ここに置いても大丈夫ですか?」
「はい」
カバンを開け、中からセウブの実を四つ取り出し、カウンターに並べていく。
紅い水晶はどうしようか悩んだが、ここは異世界、俺は一文無し、武器もなく、頼るべき人もいない。
セウブの実は高級食材らしいが、そこまでの大金にはならないだろう。
なら、少しでも資金を増やさなければいけない。
これが売れるかはわからないが、売らなければ生きてはいけないだろう。
そんなことを考えながら、紅い水晶も取り出し、セウブの実の横に置く。
「これはセウブの実ですね。こちらは……」
そういいながら、お姉さんは紅い水晶を手に取り、しばらく見つめた後、ゆっくりと置き。
「少々失礼します」
お姉さんは席を立ち、奥の部屋に行ってしまった。
もしかしてこの紅い水晶は、何か……マズイものなのだろうか……?
もし、そうなら……
しばらくするとお姉さんが戻ってきて、別の部屋へと案内するというのでついていく。
あぁぁ……この状況、前にテレビで見たことがある。
連れて行かれた部屋の中には、厳ついお兄さん方がおり、これを何処で手に入れたかと、しつこく聞かれ、本当の事を言っても聞く耳を持たれず、ブタ箱へぶち込まれるのだ。
逃げるという選択肢が浮かぶが、やめた。
金もなく、街の構造もわからないのだ。
逃げ切れるわけがない。
そんなことを考えていると。
「こちらの部屋の中へとお入りください」
あぁ、遂についてしまった。
扉開け、中へと入る。
中には、四十代くらいの、恰幅のいいおじさんが座っていた。
とても優しそうな顔をしているが、恐らく尋問のプロなのだろう。
「どうぞこちらにお座りください。私は、当ギルドの副ギルドマスターをしております、バルノと申します。どうぞお見知り置きを」
副ギルドマスター?
このギルドは、副ギルドマスターが尋問官なのか?
「話は聞いております。炎輝水晶をお持ちいただいたと」
炎輝水晶?あの紅い水晶だろうが?
「お見せいただいてもよろしいでしょうか?」
「あっはい」
カバンから炎輝水晶を取り出し、渡す。
炎輝水晶を受け取ったバルノは、ジッと炎輝水晶を見つめ、しばらくすると角度を変え、またジッと見つめる。
俺もヒヤヒヤしながらバルノを見つめる。
バルノはそんな行為を十分ほど繰り返し
「私は、長年商売にかかわってきましたが、これほどの純度の高い炎輝水晶を見たのは初めてです。濁りのなく透き通る水晶。周囲の魔力を吸い取り、ここまでの熱を発生させる。素晴らしいとしか言いようがありません」
あれ……?
「これほどの炎輝水晶であれば、高性能な炎の魔剣が二本……いや三本は作れるでしょう」
魔剣……なんと心をくすぐる響きなんだろうか。
いやそれよりも、変な物じゃなくてよかった……
心から安堵する
「一つ質問があるのですが、これほどの炎輝水晶、どちらで、手に入れられたのでしょうか?」
どこで手に入れた?
「近くの森で、ですよ」
「森……? も、もしかして森というのはアビザの森ですか……?」
いや知らんがな。
「森の名前はちょっとわからないですね〜」
「この近くの森というと、アビザの森しかありません! ま、まさかあの森で一夜を過ごし、生きて帰ってこれるほどの冒険者様だったとは……」
「あの森はそんな凄いところなんですか?」
「アビザの森は、死の森と言われているほど、凶暴な魔物がうじゃうじゃいるんですよ!? しかも数日ほど前には、グラトニーレッドウルフとその嫁が森に入っていったという報告も入っていますし!」
凶暴な魔物にグラトニーレッドウルフ?
それにうじゃうじゃ?見てきた限りだと、魔物なんていなかったぞ?
こいつと俺の言ってる森は恐らく違うのだろう。
だけどここで訂正するのめんどくさいし、勘違いさせたままでいいか。
「もう俺の話はいいから、炎輝水晶の話、しましょうや」
「そ、そうですね。すみません。私としたことが、少々取り乱してしまいました。」
バルノはそう言いながら、ポケットからハンカチを取り出し額の汗を拭き始める。
「それで、こちらの炎輝水晶とセウブの実の金額の方なのですが、セウブの実を一つ銀貨八枚で、炎輝水晶を金貨十二枚でどうでしょうか?」
いや、どうでしょうも何も、そもそも金銭の価値がわからないんだって……
OKするか?いや、相手はベテランの商人。
商人とは自分の利益を考え動く者、決して信用するなと誰かが言っていた。
だが俺は、炎輝水晶の相場もわからないし、金の価値もわからないのだ。
下手なことを言えば、足元をすくわれる。
そう悩んでいると
「やはり……低すぎますか……なら! 十四枚でどうでしょう!」
おぉ……なんか増えたぞ。
と、驚くが、なるべく表情には出さないようにする。もしかしたら既に出てるかもだけどね。
「まだ……足りませんか……ならば、十五枚で」
一体何を勘違いして上げてるのかはわからないが、バルノの額には無数の汗が浮かんでいる。
価値はわからないが、おそらく、赤字か黒字になるかのギリギリのところなの……か?
もしかすると、これが演技だって事もありえるな。
「もいちょい」
人差し指と親指を合わせ、ウィンクしながら小さく呟く。
「十、十六枚で……。これ以上は上げられません」
「よし、じゃあ十六枚で!」
交渉成立だ。
俺には、金の価値がわからないがバルノの様子を見る限り、できる限り高く売れたのだと思う。
いや、そう思いたい。
交渉を終えた後金貨十六枚、大銀貨三枚、銀貨二枚を受け取り、従魔がいてと泊まれそうな宿を聞き、商人ギルドを後にした。
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