第5話レイロブール
歩くこと約四時間ほど。
ついに、城壁のすぐ目の前までくることができた。
来てる最中にも思っていたが、とても高い城壁だ。
四十メートル以上はあると思う。
なぜ、こんな高くする必要があるのか、と一瞬疑問に思うが、普通に考えて魔物か人間対策なのだろう。
まあ、そんなことはどうでもいい。
さっさと街に入って、情報収集をしなければ。
門に近づいていく。
ここでふと、思う。
言葉……通じるよな?
通じなかったらどうする……
ええい、ここで考えても結局行くんだから行く!
通じなかったらその時に考える!
門兵へと近づく。
門兵は真面目そうな顔をした男性だ。
通してもらえるか心配になる……
「ハ、ハロー」
とりあえず挨拶だ。挨拶は大事だからな。
「はい?」
「日本語かよッ!」
思わず、ツッコんでしまった。
「よくわかりませんが、街に入りたいのですか?」
「あっはい」
「身分証はお持ちですか?」
身分証?
学生証……は駄目だよな。
「持ってないです」
「どこの街の住人カードでも大丈夫ですよ。冒険者ギルドカードでも大丈夫ですし、商人ギルドカードでも大丈夫ですよ」
「どれも持ってないです。実はここに来る途中、魔物に襲われてしまいまして、逃げるために逃走の邪魔になりそうなものを置いて逃げてきたんです。多分その時に身分証も……」
フッフッフッ……どうだこの迫真の演技は。
「その、肩に背負ってるものはなんです?」
「これは、カバンですね」
「それは邪魔にはならなかったのですか?」
「チッ」
門兵の視線が鋭くなる。
やっちまった……
ヤバイな、門兵の視線が、完全に怪しい奴を見る目になっている。
「この街からかなり離れた場所でしたので、食料でも持っていかなければ、生きていけないと思いまして……」
「この街の周辺は、魔物が大量にいるんですがよくここまで辿り着けましたね」
そう言いながらニッコリと笑う門兵。
カマをかけてきているのだろう。
だが、もう先ほどのようなヘマはしない。
「はい。何度か魔物には遭遇しましたが、私自身、戦いには慣れていますし、相棒のおかげで、そこまで強い魔物とは遭遇しなかったんです」
そう言いながら、俺の後ろで暇そうにしているアセナの方を見る。
「これは、ウルフ? ……いや、ウルフにしては毛が白い……上位種……いや、変異種……?」
アセナの事を見つめながらなにやらブツブツと呟いている。
それより、ウルフ!?
アセナって犬じゃなかったのか!?
と、アセナの正体に驚いていると。
「魔物を従えているという事は、あなたはテイマー……冒険者の方ですか?」
「はい」
もちろん嘘だ。
だが、ここで本当の事を言うと振り出しに戻りかけない。必要な嘘だ。
ん……?
……魔物!?
またも、アセナの正体に驚く。
「はあ……まったく……冒険者って人たちは、なんでどいつもこいつも、身分証を無くのでしょうか……」
門兵が頭を抱えながらブツブツと文句を言っている。
きっと毎日、俺みたいな奴がたくさん来るのだろう。
「ははは……ちなみにこの街は身分証が無いと入れないのですか?」
「いや、入れますよ。この街への出入りは、住人は無料。この街以外の方が入る際には、銀貨三枚を支払ってもらっています。身分証自体が無い、または紛失した方には、仮の証明書を渡しますが、これは、三日以内に返却しないと罰金になりますね。罰金は大銀貨一枚です」
なるほど、仮の証明書を返却しないと大銀貨一枚か……大銀貨一枚って日本円でいうといくらくらいだ?
いやいや、今はそんな事どうでもいい。
問題は……
「ぎ、銀貨三枚……」
「もしかして、お金も置いてきたんですか?」
「逃げるためには仕方がなかったんだ……」
「そ、そうですか……なら、そのカバンの中身を見せてもらっても大丈夫ですか? 金になりそうなものがあれば、こっちで金に変えてきますよ」
「ありがたいけど、この果物しかもってないです。これ、金になるかね?」
カバンから、紫色の気味の悪い模様の入った果物を取り出し、門兵に見せる。
すると門兵の顔は、驚きの表情へと変わる。
「そ、それは! セウブの実じゃないですか! こんな高級な物どこで手に入れたんです!?」
「これ高級食材なの!?」
味は確かに美味しい。
だが、まさか高級食材だったとは……
見かけによらないとは正にこの事だな……
そんな事を考えていると。
「も、もしよければそれ譲ってくれませんか? もちろんお金は払います!」
さてどうしよう。
いや、悩むまでもないか。
ここで一つ渡しても、俺にはまだセウブの実が四つあるし、ここでこいつへの印象を良くしていると後々、身分証を無くした時に時間を取られない可能性もある。
それに、これを渡すしか俺には道がないしな……
「いいぞ、譲ってやる。金はいらない。だが、これを銀貨三枚として受け取って、俺を早く中へ入れてくれ。」
「いいんですか?」
金はいらないと言われ、驚きの表情を見せる。
「あぁ、俺は早く中へ入りたいし、それにお前とは仲良くやっていきたいからな」
そう言い満面の笑みを浮かべる。
「わかりました。ありがとうございます」
そう言い、門兵は腰についているたくさんの木の板のうちの、一つを取り。
「お名前は?」
「ユウヒだ」
ペンのようなもので木の板に何かを書き、俺に渡してきた。
「どうぞ」
「これが仮の証明書? ただの木の板にしか見えないんだけど」
「はいそれが、仮の証明書ですよ。ちゃんと三日以内に返しに来てくださいね。魔術で作られていますから、捨てても壊しても、バレますからね」
「そうなのか」
魔術……魔術って魔法のことだよな?
この世界は魔法のことを魔術と呼ぶのか。
いや、そんなことはどうでもいい。魔法も魔術も同じようなものだろうしな。
注目すべき点は、この世界に魔法がある。
そう魔法があるということなのだ。
「魔法……魔法……フフッ」
「ど、どうかなされましたか?」
「いや気にしないでくれ。もう街へは入っても大丈夫なのか?」
「はい大丈夫ですよ」
「そうか。あっ、そうだ、物を売れる場所とか知らないか? この街は初めてなものでな」
「それなら商人ギルドとかどうでしょう。場所は――」
「ありがとう。じゃあな、えっと〜」
「テオールです」
「じゃあな、テオール」
「はい、さよなあっ、言い忘れてた事がありました」
「ん? なんだ」
「城郭都市レイロブールへようこそ!」
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