第3話森の外の世界へ

 「んっ……」


 目が覚めた。

 身体が石のように重い。

 まるで、見えない鎖にでも繋がれているかのようだ。


 筋肉痛か……

 心の中でそう呟く。


 「なんだかこの感じ久しぶりだな……」

 

 日頃から体育の授業をサボり、部活にも入らず、休日は一切、外出せずゴロゴロしながら、ゲーム。

 そんな自堕落な生活ばかり送っていた。

 

 筋肉痛になって当然だよな。

 と、心の中で呟く。


 「こんなことになるとわかってたなら、少しは鍛えたんだけどなー」


 まあ、こんな状況になることがわかるなんて、無理な話だよな。

 帰宅途中に、穴を見つけ、触れたら引きづりこまれ、気がついたら森の中、なんて普通はありえないじゃん?

 まるで、漫画や小説の中の出来事のようだよな。


 「……っと」


 このまま寝ていても仕方がないので、ゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡してみる。

 四方八方に広がる、紅い水晶。俺が立ち上がった事を祝福するかのように、紅く、紅く、輝いている。

 足元には、葉っぱを集めて作られた寝床あり、その上には、白い犬が横たわっている。

 見とれてしまうような白の、純白の犬だ。

 大きさは中型犬より一回り大きいくらいだ。

 その犬は、眠っているようにも見えるが、目はしっかり開いており、こちらを捉えている。


 「アセナ、おはよう」


 俺は、純白の犬、アセナに朝の挨拶をする。


 「ウォォン」


 返事を返してくれる。

 アセナは人間の言葉を理解できるとても利口な犬だ。


 それは兎も角、なぜ俺とアセナが葉っぱのベットの上で寝てるかというと、昨日アセナに名前をつけた後、俺がアセナに頼み、洞窟の外にあった葉を集めるのを協力してもらったのだ。

 十八年間柔らかいベットで寝てきたのだ、いきなり硬い石の上で寝ろと言われたらやはり抵抗が出る。

 まだ外は少し明るく、少しぐらい外に出ても大丈夫そうだったので、協力してもらった。

 

 葉のベットが完成した瞬間、俺は葉っぱの中に飛び込んだ。

 すると、ドッと疲れが押し寄せてきて、意識が飛んだ。

 自分でも驚くほど疲労が溜まっていたみたいだ。


 あっそうだ。


 「ちょっと、外の様子見てくるな」


 自分の状況を思い出し、アセナに一言かけ、洞窟の外へと歩き出す。

 

 洞窟の入り口に近づくにつれ、外の明かりが見えてくるが、少し薄暗い。

 よかった、まだ、夜明け間もないようだ。

 今日こそ森を抜け、人里に下り保護してもらおう。

 一人息子の俺が行方不明なのだ。親もきっと心配しているだろう。

 親の心配そうな顔が頭をよぎる。

 早く安心させてあげなければ。

 外の状況を確認できたので、洞窟の中へ戻る。


 洞窟の中に入り、奥へ向かうと、紅い光が出迎えてくれる。

 神秘的な空間に真ん中で、アセナが俺を待っていた。


 「アセナ、俺は今日中にこの森を抜けたい。道案内を頼めないか?」

 「ウォン!」


 首を縦に振っている、どうやら了承してくれたようだ。

 よかった。

 アセナがいると、本当に心強い。


 とりあえず森を抜けるための準備だ。

 カバンを持ち、楽園へと向かった。


 準備と言っても、する事はそんなにない。

 まず、カバンの中に楽園で見つけた果実を七個ほど入れる。

 なぜ七個かって?そんなのラッキーセブン、というのはもちろん冗談で、単純にスペースが足りなかったからだ。

 その後、洞窟に戻り、紅い水晶の塊を一つ取り、果実を傷つけないように、カバンの中へと入れる。

 果物と熱を発する水晶を同じカバンに入れるのは、少し不安だが、カバンはこれ一つしかないので、仕方がない。

 因みに、紅い水晶を持って行く理由は、この水晶は熱を発する、用途はまだ決まってはいないが、熱を発するというだけで様々なものに使えそうだからだ。

 水も持って行きたかったのだが、器が無く諦めた。


 「よし! 行くか!」

 「ウォン!」


 準備が完了し、洞窟を出発する。

 俺は道がわからないのでアセナについて行く。



――――――――――――――――――



 森の中を歩いて行きながら、周りの樹を見て、ふと、思う。


 この森は何かおかしい。


 樹には異常に傷があり、倒れているものまである。

 そして動物がほとんどいない。

 鳥はたまに見るが、それ以外の動物がまったく見当たらないのだ。


 「なあ、アセナ。この森の樹ってなんで、あれもこれも傷だらけなんだ? 狂暴な熊でもいるのか?」


 アセナはなにも答えない。そりゃそうだ。

 逆にここで、理由を説明しはじめても、俺には犬語はわからないしな。

 そんな無意味だとわかりきった事、利口なアセナはしないだろう。

 きっと、地球温暖化や、密猟、人間の身勝手な行動のせいだろうと、勝手に納得する。




 特に、何もなく歩くこと三時間ほど、ついに森を抜けた。


 「やったぁあああ! これで帰れるぅ……?」


 目の前の光景に目を疑う。

 森を抜けた先、そこには、広大な大地、そして、現実ではありえないような世界が広がっていた。


 一番最初に俺の視界に映ったものは、果てしなく遠くに見える天高くそびえる山。

 ただの山ではない。

 その山頂からは、棒のようなものが伸びている。

 塔だろうか?

 塔のようなものは頂上が見えない、どこまでも、どこまでも、伸びている。

 

 「な、なんだあれは……」


 「ここは日本じゃ……ない? ならここは……どこだ?」


 頭が真っ白になる。


 森を抜ければ、そこには人里があり、そこにいる人に交番の場所を聞き、駆け込む。

 あとは大人が勝手に話を進めてくれ、何もしなくても、家に帰れるものだとばかり思っていた。

 なのに現実は違う。

 

 森を抜けた先は、人里などなく、見たことのない大地。


 「ど、どうすればいいんだ……?」


 思わず頭を抱えうずくまってしまう。


 「クゥーん」


 アセナが心配そうに近づいてくる。


 「アセナ……俺はどうすればいい?」


 「ワン!ワン!」


 アセナが吠えている。なんて言っているのかはわからない。

 だが、なんとなく、そう、なんとなくだが「まだ諦めるな」と、言ってる気がする。


 「ついてきてくれるか?」


 「ワンッ!」


 「当然!」とばかりにアセナは短く、大きく鳴き、森と反対方向に歩き出した。


 その姿を見て、俺も立ち上がり、アセナが歩いている方向へ歩きだした。

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