第2話森の中での出会い

 「うっ……あれ……」


 目が覚めた。風が心地良い。

 鳥たちの歌声が、湧き出る泉のように聞こえる。

 視界いっぱいに広がる緑。

 顔を上げてみると、青い空。

 果てしなくほど青い。


 「ここはどこだ……」


 樹、樹、樹、森だな。見ればわかる。

 それよりも

 なぜ、俺はこんなところにいるんだ?

 記憶を辿る。

 

 ――ああ、そうだ。

 確か俺はあの時、何かに穴の中に引きずり込まれた。

 ならここは、穴の中?

 地下世界ってやつ?

 いやいや、それなら空があるのはおかしいよな。

 おかしいよな?

 ならここは、いったいどこだ?


 ――しばらく考えてみたが答えは見つからなかった。


 「よし! とりあえず明るい内に森を抜け、食料と安全な寝所の確保だーっ」


 拳を天高く突き上げる。

 考えるよりまずは、行動だ。そう誰かが言っていた……まあ、数十分考え込んでたんだけどね。

 それは兎も角、さて、まずは……歩くか。

 自分と共に落ちてきた、学生カバンを拾い上げ歩きだす。


 ――少し歩いてみたが、樹樹樹、樹の上に登ってみたが、見えるのは、樹樹樹。


 「あれ、もしかして、しばらくこの森で暮らす事になりそう?」


 返事がない。そりゃそうだ!1人だもの!

 森を抜けるには、時間がかかりそうだ。

 食料を探そう。

 

 「食料食料食料。って、今思ったら俺、食べ物の知識あんまり無いんだよな。ここが、どこだかわからないし、変な物には手、出さないようにしないとな」


 そう呟きながら、周りを見回しながら歩く――。


 ――な、なにもない……

 嘗めていた。数十分程度で、何かしらの食料が見つかり、水も確保できるものだと……

 こんな事なら、サバイバル本も読み漁っておけば良かったと、後悔するも、遅い。

 

 二時間程だろうか、森の中を歩き回ったが、見つかったものは、樹につけられた無数の傷ぐらいだ。

 なぜか、この森の木には異常に傷がある。

 この森には、熊か、相棒の切れ味を手当たり次第に試す、イカれた男がいるのかと、少し怖くなる。


 森も抜けれず、食料もなく、そして水もない、極め付けは、安全な寝所もない。

 幸運な事に、太陽はまだまだ大地を暖めてくれている。

 細かくはわからないが、恐らく十四時ぐらいだと思う。

 まだ、太陽が落ちるまでは時間があるはずだ。

 

 だが、腹が減った。

 

 そりゃそうだ、穴に落ちたのは、午後五時時ぐらい、その後長時間気を失い、目が覚めてからは、歩きっぱなし。

 減らない方がおかしい。


 まだ、大丈夫だ。

 だけど、しばらくこの状況が続くとマズイな。なるべく早く、食料と水を確保しなきゃ。

 歩く速度をあげる。


 それか数時間後、周りに注意を払いながら歩き続けていると、水の音が聞こえてきた。


 「おっ! おっ!」


 つい、小走りになってしまう。

 水の流れる音が近くなり、忌々しい樹木しか映らなかった視界に、ついに、楽園が映る。

 思わず、ガッツポーズをしてしまった。

 

 楽園へと近づき、乾ききった喉を潤すために、水をすくい、唇へと近づける。

 腹壊したりしないよな?と、一瞬思うが、腹を壊すぐらいのこと、大して気にしない。

 なにより俺は、喉が渇ききっている。

 雑念を打ち消し、再び唇へと近づけ、まるで吸い取り紙みたいに水を吸う。


 あぁ……美味しい……

 水をこんなにも、美味しく感じる時が来るなんて……

 ここへ導いてくれた神に感謝しながら、辺りを見渡す。


 すると、自分がいる場所より少し離れた場所に、果物のようなものがぶら下がっている、樹木が見えた。

 

 「あぁ……神よ。やっと私の努力を認めてくれたのですね……」


 水と食料が同時に確保出来たことに、心から感謝しながら、果実へと近く。


 果実が実っている樹木の下まで来た。

 樹木はそこまで高くはなく、ジャンプでは届かないが、少し登れば、取れる位置にある、が、果実が見るからに危険そうだ。

 大きさは林檎ほど、色は紫色、そして妙な模様がある。

 とある海賊漫画で出てくる、悪魔の◯のような見た目だ。

 沢山実っている。これが食べられれば、今の空腹問題は解決するだろう。

 

 「大丈夫……大丈夫だよな?」


 毒とかありませんように、そう心で念じながら果実を手に取る。

 匂いは……特にしない。

 勇気を出して、一口……


 ――お、おいしい。


 見た目こそ悪いが、食感は林檎のようにシャキシャキで、味はバナナのようなほんのりした甘さだ。

 

 「よかった」


 そう呟きながら座り込む。

 謎の果実を口に運びながら、考える。

 食料問題は解決した。

 だが、寝所はどうするか、空は赤く染まり始めている。

 夕陽の光が水面に反射する。とても綺麗だ……

 そんなことを考えていると樹の裏側から、ガサッガサッ、ガサッ、という音が聞こえてきた。


 その時、道中樹についた無数の傷が脳裏をよぎる。

 ま、まさかクレイジー?

 恐る恐る、樹の陰からそっと覗く、するとそこには雪のように白い、純白の毛をした犬がいた。

 大きさは中型犬より一回り大きいくらいだ。

 その犬は、じっと頭上にある、謎果実を眺めている。

 なぜ、こんなところに犬がいるのか、飼い主と離れたのだろうか。もし、そうなら近くに人間が……?

 そんな事を考えていると、ピョンと表現できるような可愛いジャンプをした。が、果実には届かず、呆気なく着地。

 だが、白い犬は諦めず何度も何度も跳んでは着地を繰り返している。可愛い。


 「くぅーん」


 おっ、どうやら諦めたようだ。

 ふふっ、しょうがない、優しいお兄さんが取ってあげよう。

 俺は立ち上がる。すると、白い犬はこちらに気が付き警戒の表情を浮かべる。


 「ガルルルゥッ!」

 「うっ……驚かせて、ご、ごめん……なさい。はい、これ」


 中型犬ぐらいって言っても、こう近くでみると迫力あるし、普通に怖い。

 俺は犬の威嚇に少しビビりながら、樹へ登り、果実を一つ取り、ゆっくりと犬の方へ転がす。


 が、警戒は解いてはくれず、じっとこちらを睨みつけている。

 お邪魔かな。

 心の中でそう呟き元いた樹の裏へ戻っていく。

 すると、クチャクチャと果実を食べる音が聞こえてくる。


 「犬も果物とか食べるんだな。」


 そう呟きながら、手にしていた食べかけの果実を再び、口へ運ぶ。

 

 果実が食べ終わる。

 新しい果実を取るために立ち上がると、先ほどの白い犬が隣に立っていた。

 

 「うわっ! え、えっとー、もう一個欲しいのか?」

 「ウォン」


 返事を返してくれた。ずっと一人で、独り言を言っていたから少し嬉しい。

 果実を二つ取り、一つは隣にいる白い犬のところへと置いてあげる。


 「お前はなんでこんなところにいるんだ? 飼い主とはぐれたのか?」

 

 返答など求めてはいない。独り言のようなものだ。

 だが、驚く事に白い犬は食べるのを中断し、首を横に振る。


 「お、お前、俺の言葉がわかるのか?」

 「ウォンッ」


 首を縦にふる、驚く事にこの白い犬は相当頭がいいらしい。

 

 「す、すごいな……」


 言葉が理解できる白い犬に感激しながら、果実を一口、また一口と口へ運ぶ。

 

 ――果実をいくつか食べ終わった。

 満腹で幸せだ。

 だが、辺りは少し暗くなってきている。

 他にあてもないので、ダメ元で白い犬に質問してみる。


 「なあ、どこか安全な場所をしらないか? なるべく安全な場所で身体を休めたいんだ。もし、知っているなら教えてくれないか?」

 「ウォン」


 そう短く鳴き、白い犬は立ち上がり歩き出した。

 恐らく「ついて来い」と言ったのだと思う。

 聞いてるもんだね!

 心の中でガッツポーズを決め、白い犬の後ろをついていく。


 ――しばらく歩くと、洞窟の入り口に辿り着いた。


 「ここは安全なのか?」

 「ウォン」


 そう鳴き、洞窟の中へと歩きだした。

 俺も後を追い、洞窟へ中へ入っていく。

 洞窟の中は意外と広く、そして、驚く事に明るかった。

 紅い水晶が、そこらじゅうにあり、その一つ一つが灯りを発している。とても美しい、

 まるで、ファンタジーの世界のよう……

 ふと、不思議な国のアリスを思い出す。

 フッ……もしこの世界が不思議の国だったら、俺がアリスで、この白い犬がウサギなのかな。

 

 そんなことを考えながら、紅い水晶へと近づき触れてみる。少し、温かい。

 熱を発しているのだろうか?

 

 ここでふと、白い犬のことを思い出し、周り見渡す、犬は洞窟の一番奥にある、石の祭壇のような場所で横になっている。

 俺は白い犬の目の前まで行き。


 「こんな素晴らしいところに連れてこられるなんて、思いもしなかったよ。……ありがとう」

 そう、心からの礼を言った。


 「ウォーン」


 なんて言ったのかわからないが、恐らく「気にするな」みたいなことを、言ったのだと思う。


 「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は、ムカサ ユウヒ」

 「お前に名前はあるか?」


 白い犬が首を横に振る。


 「そうか、名前はないのか。フフフっ……なら俺が素晴らしい名前をくれてやろう! そうだなあ……俺の飼ってた犬はクロベエだったし、お前の名前はシロベ――」

 「ガルルルゥッ」

 「は、やめておこう」


 名前か……素晴らしい名前をやると言ったが、実は名前を考えるのは大の苦手だ。

 昔、オンラインゲームでキャラクターの名前を考えるが、まるで思いつかず、本名の熊羆をそのまま付けた事もあったほどだ。


 「ポチ(ボソッ」

 「ガルルゥゥウウ」

 「は、ないよな」

 

 どうするか……そうだ!

 ネットで知り合った人のハンドルネームをそのまま使うか。自分のセンスで変な名前をつけるよりかは、ずっとマシだろう。

 記憶を辿り、フレンドの名前を一人一人思い浮かべていく。


 「そうだな……アセナ……とかどうだ?」

 俺の、数少ないフレンドの中でも、特に仲の良かった一人の名前をあげてみた。

 由来は知らない。


 「ウォン……」


 「もう、それでいいよ」そんな感じの返事だった。

 悪いな、センス無くて。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る