落ちてきたこの世界で
@kumakame
第1話道の隅の穴
俺の名前は
親は俺に、強く、勇ましい人間になって欲しいと願い、この名前を付けたそうだ。
だが、俺はその願いを叶える事が出来ず、弱く、臆病な人間、要は腑抜け、腰抜けなどの言葉に当てはまるような人間になってしまった。
まあ、子供が名前通りに育つことなんて、ほとんど無いんだろうけどさ。
そんな俺は朝起き、学校に行き、適当に授業を受け、猛ダッシュで家に帰りネットゲームをやる。
毎日、そんな楽園の様な生活を送っていた。
そう、送っていたのだ。
高校生活も一年を切り、楽園は地獄と化した。
進学か就職かを迫られる毎日。
腹が立ち、進路希望調査用紙に何度か無職と書いてやったら、親に報告をされた。
関係無い者にまで、手を出すとは、これだから権力者は。
「あーあっ、つまんねー」
いつもの帰り道、殺風景な道、左右にはコンクリートの壁があり、その上にいる猫は大きなあくびをしている。
「あー。猫になりたい……」
そう呟きながら転がっていた石を蹴る。すると、石は数メートル飛び、コンクリートの壁にぶつかり、しばらく転がった後に止まった。
何が楽しいという訳ではないけど、石が転がっていると蹴っちゃうよね。
蹴らない?そう……
「なぜ、働かないといけない? なぜだ? 好きな事だけやって生きればいいじゃない。ユウヲ」
そう呟きながら、先ほどと同じ石を蹴る。
石は再び転がる。
さきほどより強く蹴ったからか、なかなか速い。
……因みに人に当たる心配は無いぜ。ここら辺は、あまり人が通らないんだ。
「そういえば、今日から新イベじゃん! こんな事してる場合じゃないなー」
今ハマっている、ゲームの新イベントの事を思い出す。
急いで帰らなければ。
「 フッ……これが貴様の最後だっ!」
決め台詞とポーズを華麗に決め、石を蹴る。
この石も災難なものだ。
この俺に目をつけられるとはな……
それは兎も角、石は勢い良く飛び、壁にぶつかる。
コロコロと音を立てながらしばらく転がり、道の隅にある穴に落ちた。
穴……?
「 あれ? こんなところに穴なんてあったけな? 結構デカイし、元からあったなら、気が付かないなんてことはないと思うんだけどな」
穴までは数メートルあるが、ハッキリ見える。結構でかい。直径三十センチぐらいはあると思う。
「危ねえなあ。誰かが落ちたらどうするんだよ」
ゲームの新イベントの事などもう忘れ、穴の近くまで来て、中を覗いてみると、驚く事に底が見えない。
底だけではない。
中が、全く見えないのだ。
「な、なんだこれ……落ちたら、怪我じゃすまないだろ……」
なんでこんなものがあるんだ?
少なくとも登校時は無かった筈だ。俺が登校して、下校するまでの間にこんな深い穴を誰かが掘った?
なんのために?
いや、そもそもこんな短時間で、底が見えないような穴を掘るなんて無理だろ。
じゃあ
――元から空いていた……?
「ハハッ、なわけないよなー」
笑いながら、手を穴の縁に置いた時。
「――ッ!?」
何かに手を掴まれた。
本能が警報を鳴らす。
「な、なんだ!? このッ! 離れろ!」
見えない何かを必死に振り解こうとする。
が、突然。
今まで掴んでいただけの何かが
――とてつもなく、強で力で穴の方へ引っ張ってきた。
――あっ。
落ちる。
意識が波の引くように遠退いていき、目の前が真っ暗になった。
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