金木犀

歩いている。


乾いた日差しは、肌を焼くほどではない。道端の草花は、葉の先を茶色く変色させ、勢いが衰えている。ひと足先に紅葉を終えた山野草は、質量を感じさせぬ音をたてながら、己の根から離れまいと風に抗う。


物悲しい季節だ。

終わりに向かっている。


だが、何が終わりになるというのだろう。何も終わりはしない。

僕が終わりと決めるまでは。

得体の知れない多くのものに、嬲られながら生きているように感じるけれど、それは大したことではない。

僕が大変だと決めるまでは。


ふと気が付くと、強い香りに覆われていた。

何歩前から囚われていたのか解らないが、進む度に強くなるようだ。


道端に、山吹色の服を着た女が立っていた。

小柄な女で、幼なさを感じさせる。


「遊ぼう、遊ぼう」


山吹色の女が、無邪気に笑う。

まったく子供じみた言いようは、僕の心を軽くした。それでも、遊ぶ気分にはなれない。自分の内に、何モノも入れたくはない時があるものだ。


「遊ぼう、遊ぼう」


山吹色の女は誘う。

共に遊ぶことは出来ないが、ここで見ているのはどうだろう。無邪気な様子で、僕をいつまでも誘ってはくれまいか。きっと、僕の気分は晴れるに違いない。


長いこと見つめていた。

女は嫌な顔一つせずに、ずっと無邪気に僕を誘うのだった。


戯れに、ひとつ撫でてやろうと手を伸ばす。触れる。

山吹色の女は、ぽろりと落ちて動かなくなった。


都合の良いものなど、ありはしない。それを忘れ、間違えた。

これだから僕は、何も決めたくはないのだ。

しかし、胸に広がるこの虚しさもまた、不快ではないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る