金木犀
歩いている。
乾いた日差しは、肌を焼くほどではない。道端の草花は、葉の先を茶色く変色させ、勢いが衰えている。ひと足先に紅葉を終えた山野草は、質量を感じさせぬ音をたてながら、己の根から離れまいと風に抗う。
物悲しい季節だ。
終わりに向かっている。
だが、何が終わりになるというのだろう。何も終わりはしない。
僕が終わりと決めるまでは。
得体の知れない多くのものに、嬲られながら生きているように感じるけれど、それは大したことではない。
僕が大変だと決めるまでは。
ふと気が付くと、強い香りに覆われていた。
何歩前から囚われていたのか解らないが、進む度に強くなるようだ。
道端に、山吹色の服を着た女が立っていた。
小柄な女で、幼なさを感じさせる。
「遊ぼう、遊ぼう」
山吹色の女が、無邪気に笑う。
まったく子供じみた言いようは、僕の心を軽くした。それでも、遊ぶ気分にはなれない。自分の内に、何モノも入れたくはない時があるものだ。
「遊ぼう、遊ぼう」
山吹色の女は誘う。
共に遊ぶことは出来ないが、ここで見ているのはどうだろう。無邪気な様子で、僕をいつまでも誘ってはくれまいか。きっと、僕の気分は晴れるに違いない。
長いこと見つめていた。
女は嫌な顔一つせずに、ずっと無邪気に僕を誘うのだった。
戯れに、ひとつ撫でてやろうと手を伸ばす。触れる。
山吹色の女は、ぽろりと落ちて動かなくなった。
都合の良いものなど、ありはしない。それを忘れ、間違えた。
これだから僕は、何も決めたくはないのだ。
しかし、胸に広がるこの虚しさもまた、不快ではないのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます