おじじ様と羽衣天女




お爺様と一緒に庭園をゆっくりお散歩なう。


お爺様に抱えてこられたため履物が無い。

つまり現状お爺様の腕の中に収まっている私。



超絶気まずい。


でも、ま、強面だったけど性根はとてもおやさしいのがわかっているので、気まずいのもその辺めんどくさいから気にしないことにした。



「千鶴。

儂は良かったが、名をあまり言ってはならぬぞ。


千鶴は椿院つばきいんという氏がある。


字名あざな雛宮ひなみやだな。

他からは椿院つばきいんの姫君か、

今住んでいる屋敷の三条院さんじょういんの姫君とよばれるであろう。」



..............................。

なんかいっぱいあんなー..。



まって、字名ってあれよね、お友達とか、近い人に呼んでもらう名前よね。



「ひなですか..」



と少しムッとした私に


つるひなの時があるのだ。」


と笑っているお爺様。




「ただつねサマはおじいサマとお呼びしてもよろしいんですか?」と尋ねると、


「雛宮のおじじだからのう。雛宮だけの特別じゃ。」


とほくほくした笑顔でいわれた。




最初の強面はなんぞと考えながら、庭園をぼへっと眺めると、芝の上に綺麗な薄絹がおちている。



お爺様の腕をぽんぽんとしながら



「あれ.....。


おります!」



そのままお爺様の腕から飛び降りた。




「うぉおっと..」


という声が聞こえたが芝生の上をトコトコ歩き、薄絹を拾い上げた。




きれーな紫の薄絹だわぁ.......。

感触を確かめるようにサワサワと撫でていると、





”私の衣を返して頂けますか?”





という涼し気な声が目の前の柳の木の上から聞こえた。






上を向くと逆光で顔かたちは見えないが確かに木に座っている人がいる。


........。


天女様??



え、かか様が話してくれたおとぎ話ってマジで実在すんの??

なに、じゃあ河童とか傘子地蔵とかいんの??!めっちゃ興味あるんだけど。


なんて思っていると


スタッ....と天女様が地上に降り立った。


「愛らしい姫君。」




また涼しげな声が聞こえ、思わず見上げると、これはもうびっくり仰天息が止まりそうな程綺麗な方が私に声を掛ける。




.......。




「てんにょさま なのですか..??」


とぼへえと返すと、


後ろの方からお爺様の笑い声が響いた。


「はっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!」



そんな笑い声をものともせず、少し眉を動かし驚いた天女様は、私に微笑み語り掛けた。




「愛らしい姫君..。

その薄絹は私の物なのです。

それがないと天に帰ることが出来ませぬ....。



私に下さいますか?」


羽衣伝説キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!





あの話聞いてすごい思ったのよねえ、いかに天女を返したくないからって隠すのは無しだと思うし、正直、美人には弱い為あの男が憎たらしくて...。


なので、




「あい!!」



と満面の笑みで天女様へと羽衣を差し出す。






天女様は暫くぽかんとした顔になり、私から羽衣を受け取らないまま問いかけた。



「空に帰ってしまいますよ?


良いのですか..?」



それに続く様にいつのまにか横に来ていたお爺様も私に聞く。



「羽衣を返したら天女が空に帰ってしまうぞ?」



「よいのです!

かかさサマがおはなしくださった てんにょさまが おとこのワガママのせいで

かなしむひつようは ないのです!!




わたしがいなくなったら かかサマがないてしまうように、

てんにょさまにもダイジなかたがいらっしゃるでしょう?」


えっへんと胸を張って答えた。

こんなに美人な天女様が馬鹿な男のせいで悲しむ必要なんてない!!

まったく、あのクソ上司みたいなやつじゃねぇーか。





天女様とお爺様は

目を大きく広げ驚いた様な顔になった。


ただ、欲を言うと...ともじもじしながら目の前の天女様を見上げる。




「ただ、

てんにょさま、

おかえししますから、


おねがいがあるのです。」



願い?!と2人して驚き様子を伺ってくる。




「あの..、


その..、


わたしは てんにょさま にはじめて おあいしたのですが..



それで、...その...、



おててをつないでもよろしいでしょうか!!!」



よし!!言った!!!偉いぞ私!!!


ふう、一仕事終えたような爽快感。


シェイクハンド!!プリーズ!!とか言えないじゃん。握手って概念なさそうだもん。それにしても 握手って一種の手つなぎだし!うん。

ようやった!!わたし!!!


言い切った清々しさのまま、天女様を見上げようとしたら急に視界が高くなり身体に圧迫するような圧力を感じた。



ファアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!









---------------------------




どうしようっ!!!


どうしようっ!!!!!


わたし!!! 天女様に抱っこされてるーーっ!!!!!!






と内心乱心していると、

超至近距離から「申し訳ありませぬ、姫君。」


と囁かれた。



耳が死ぬ..

手繋がなくてもいい。耳が死んじゃう..。




と半泣きになってた。




が!!!



「私は天女ではないのです。


私は男なのです。



しかも生身の男でございます。」




はい?





ぎぎぎぎと音がなるように天女様だった人の方へと顔を向ける。




「申し訳ありませぬ。


愛らしい姫君が、とても可愛らしいことを仰るのでつい嬉しくなってしまいました。」



とはにかみながら謝られた。





どうしよう。


天女様じゃなかったけどもうそんなのどうでもいい。

遊ばれてもいい。

なんでこんなに麗しいのですかアアアアアアア!!!



男性に貢ぐ心理が分かる気がした3歳児であった。












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「まだ幼い雛宮をたぶらかすとは、恐ろしいのう。」


なんて笑いながら言うお爺様。



「おじいサマも、わたしのこと

もてあそんだ ではありませぬか...」


天女様...いや、この男性の中性的な麗しさと、涼やかな優しい声音を間近で聞き瀕死になりながらもゼイゼイと伝えるべきことは伝える。


そんな私にぎょっとするお爺様だったがすぐに


「むむ!!すまぬかった!」


と潔く謝った。

なんて清々しいんだろう。



耳元で息を飲む音がしたが、そのままにっこりと微笑んだ。


「おじいサマ、わたしと

ひなたぼっこしてくれるならゆるします。」



するとお爺様は強面ながら気持ちのいい笑顔で「そうしたら、芝の上で昼寝しようぞ。」と笑った。



それにつられにこにことしていると、


「父上...」という呟きが隣から聞こえた。


はううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!



だから、そこで話すと耳が死ぬんですってええええ!!!


瀕死よおおおおお!!!!もうあの3分間しか戦えない最強のヒーローの如くピコンピコン鳴ってるのよおおおお!!




.....。




え、?



父上?





お爺様がお父上?





つまり?




「おじうえ?!!!!!!!!!!!!!」






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