門からどんだけ離れているんだよ!!!と突っ込みたい程の距離。かか様と輿に乗りゆらゆらゆられる中、白魚のような手で私の小さな手を優しく包むとかか様が優しく囁いた。





「姫や、ここはわらわの生まれ育った屋敷ですよ。」



ひょえ!!!

まじかよ!!




と目が飛び出そうになったが、


「...かかサマはココでおうまれになったんですか?」




と口にすると、


かか様は輿にある小さな窓から、とても懐かしそうに庭園を見つめる。



「そうですよ。


かか様はこの屋敷で育ったのです。」






「かかサマはおさみしいのですか?」


あまりにも切なそうに懐かしそうに庭園を見つめるかか様にそう聞くと、




「あら、そんなことないですわ。

かか様には姫がいますもの。」


とクラッとくる笑顔で返された。



「ただ...。」



そのまま口を閉ざし、ごまかすように微笑んだかか様は寂しそうで、やっぱり綺麗だった。白魚のように綺麗な手を小さな手でぎゅっと包み返し、


「チヅルがいますよ。」


と微笑んだ。



かか様は嬉しそうに微笑んでくれたけれど、やはりあの寂しそうな笑顔がどこか心に刺さった。









暫くして輿の揺れが無くなり、

<お待たせ致しました。>

と声を掛けられる。




案内されるままかか様の後ろをトタトタとついて行くと、この大きなお屋敷に仕えているだろう者たちからの視線が強くなった。


振り向き、にこぉ。と微笑んで見せると

歓声とともに微笑まれた。




子どもって凄いな。


なんて内心思いながら、かか様の後ろをついて行く。



ある部屋の前に行くと、案内をしていた者が突然振り向き、「椿院の女君はこちらにお通しするように申しつかっております。」




とかか様に言った。



すると怪訝な顔をしたかか様は

「姫は?」


とその者に笑みのない冷たい顔で尋ねていた。



その表情、初めて見たんですけれど、、と焦っていると


「姫様は別室にてお待ち頂くそうです。」




と面を下げて言う案内役に対し、かか様は氷の様に冷たい声音で、


「...別室じゃと..?


妾の姫が妾と別室じゃと..?




誰がその様なことを申したのじゃ!!」





驚きのあまり案内役のひと顔上げてますやん!

かか様、落ち着いて!!

私なら大丈夫だから!!と焦りつつ



かか様の上衣をクイクイとそっと引っ張ると



「かかサマ、

ヒメはよいこにして、かかサマのだいじなおはなしがオワルのをおまちしております。」



とはにかんだ。




かか様は私の目線に合わせ、潤んだ瞳で


「姫、なんて優しい子なんでしょう..。


お話が終わるまで待っていてくださいますか?」



と案内役の人がかか様の変わり様に驚く程、うるうると潤ませた瞳でそっと囁く様に話した。





先ほどの氷の様な見たことのないかか様の様子に驚きつつも


笑顔で「あい!!」と伝えると名残惜しそうに私の手を包み



「すぐ向かいますからね、

知らない人について行ってはなりませぬよ。」


と何度も何度も言い聞かせた。





その都度はにかみながら、

「あい、かかサマ。」と返事を返した。








----------------------------------------------






さて、獅子落としのかこーん!と言う音が鳴り響くとても綺麗な庭園を眺め、畳の部屋で1人静かに待っている。





なにこれ、凄い雅な屋敷だなぁ。


とほげーっとしていると、


障子の開く音がする。


かか様もうお話終わったのかな?案外早かったなぁ。


そのままそちらに顔を向けると知らない強面の中年男性。





....................。





....................。




沈黙が2人の間を過ぎ去って行く。






え、何これ。


ちょっと笑いそうなんだけど。




するとその強面中年男性はとても綺麗にこちらへと進んできた。



なんだろ。歩くだけで<綺麗>なんて初めて思ったんですけれど。


なんて考えていると目の前にどかっと座った。




再びの沈黙。





ま。いいや、


かこーん!という獅子落としの響きにつられて外を見る。



あー。やっぱり綺麗だなぁ。





なんて、またほげー。っとしそうになっていると、低く澄み切った声が響いた。




「名は。」






はい?



と男性の方を思わず見つめ、見つめられ見つめ返しという視線が絡み合う中気付いた。


この人強面だけど、顔のパーツかなり綺麗だ。




そのまま顔のパーツをじっと観察していると、強面が更に怖い顔になって


「名は。」



と聞いてきた。




............。




ああ。ガンつけられると、気分は良くないよねぇ。



この感じ久々ですわ。

ほー。そーきますか、


こちらとら綺麗な絵が入っている強面のクレイジーな患者相手に外科手術してきてたんだよ!

本当は上司が主治医になるべきところをな!!

先輩も同僚もこっちにまわしやがって!!

病人は誰でもしんどいんだよ!ってキレたことはいい思い出だよ!!

強面の兄ちゃんに「ぁあ?!!やんのかゴルァ!!!」って言われて「もちろんやりますよ!!!」って完璧に手術して、綺麗に縫合したりましたよ!!

最後には仲良くなって困ったら連絡してくれぇ!って名刺くれましたよ!



...........。



強面をじっと見つめ返していると、かこーん!と小気味良い獅子落としの音が響く。






ああ、そういえば。と、

また庭園を眺める。


いいなぁ。綺麗だなぁ。ほげーとしていると、


「名を名乗らんかと申しておる!!」



ムスッ!!とした強面さんが怒鳴るよう言った。



はぁ。


もう、仕方ないなぁ。



「.....、


しらぬヒトに

名をなのってはならぬと、かかサマとやくそくしているのです。」





そう答えると、ムッとした顔になり


わしは良いのじゃ。」


と言う男性。




「やくそくは、やくそくです。」



と目を見て言い返すと、男性はムムッとした。



「でも、

なをオシエテくだされば、

オシエテあげます。」



と付け加えると、眉をこれでもかと上げ驚いた表情で「良いのか?」と零すように話した。




「このうつくしい おにわは、

あなたサマがおつくりになったのでしょう?


わたし、とてもスキです。


これほどうつくしい おにわを おつくりになるかたに わるいひとはいません。


かかサマもきっと

わかってくれますから。 」



そのままなぜがあんぐりと口を開けている男性に微笑んだ。


「どうして儂が庭院を作ったと思ったのだ?」



「さきほど、 はっぱのよいカオリがしました。

あなたサマのゆびさきが はっぱと おなじイロにぬれています。」




そこまで告げると

男性は静かにわたしに聞いた。



「この庭院でそちはどの草木が好きか?」




その言葉に庭園をじっと眺める。


「わたしは

このおにわの シバがスキです。」


庭園を眺めながらほっこりと言った。


つかの間息をのむ音が聞こえた。


「そこにある花や木でもなく芝なのか?」


と微かに震える声で男性は尋ねた。



「あい。


おはなも くさも どれもみんなうつくしいけれど、このおていれのいきとどいた シバがスキです。


おひさまがでてきて あたたかくなったら

ねころんで おひるねしたいくらい...。


あなたサマはどれがスキですか?」



と告げ、男性に目をやると

くしゃくしゃとした顔でわたしを見つめていた。



「...そうか、



そうか..。」




と呟き、目を手で覆い俯いた。






え、、私何かしちゃったかな?!



え、どうしよう!!



と内心あたふたする私に男性は、すっと手を外し座り直すと最初の強面の顔に戻っていた。



「儂の名は


神宮じんぐうの忠恒ただつねと申す。」



あ!


「わたしのなは、

ツバキインのチヅルともうします!」


とにっこり微笑んだ。



そのままにこにこと、忠恒様の顔を見つめていると、「儂の顔は怖くないのか?」と聞かれた。


「コワイかコワくないかだと、コワイとおもいますが、


ただつねサマはおやさしいヒトだとしっているので、こわくないです。」



そのままどや!!ばかりに微笑んだ。


「忠恒ではない。」


はい?



でもさっき..


「儂は千鶴のおじじ じゃ。」




はいー?!!!!!!!





驚愕に溢れた見事な顔になっていたと後のお爺様は笑って言っていた。







おじいちゃんってこんな若いの?!!



まって、おじいちゃん?!!




と混乱している私だったが、今度は私が座り直して手をつき頭を下げた。



「もうしわけありません。


ごあいさつです。



チヅルといいます。

さんさいになりました。

これからもどうぞよろしくおねがいします!!」



「うむ!」と低く響く声で返事を頂いたのと同時に視界が急に高くなった。




「よし、外に行くぞ。」




え。





ひょええええええええええええええ!!!!






内心混乱している私をよそに、お爺様は私を抱えそのまま縁側から外へとスタスタ歩き出して行った。


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