目が覚めたら会社に行く
そうおもってたよ。
おとーさん。おかーさん。
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私。
研究者である父と、医師の母のもとに生まれてきた。
超多忙な両親がどこで知り合ったのか知らないが、幼少時は田舎にある父方の祖母の家に預けられ、コンビニもなく、隣の家は裏山にあり、隣の家へと続く道も軽トラックギリギリの幅を進まねばならず、尚、その道は都会にいるカラス集団の如く、こちらではリスが多大に出てくるが、運が良ければ可愛らしいウリ坊やさらに熊が出るとてもクレイジーデンジャラスな道だ。
ちなみにその隣家にはみっちゃんという可愛らしい子が住んでいる。
距離もそうだが、デンジャラスな道なため1人で遊びにいくことも出来なかったが。
それでも退屈はしなかった。
日がな祖母とやる遊びに夢中になっていたからだ。
それがどんな遊びだったのか、大人になった今だから普通じゃないと気付いた。
日本に住んでいても英語だけでなく、オランダ語、ロシア語は日常会話くらいなら話せると思っていたし、雪が降れば雪遊びと称し雪玉を作るのではなく、どれだけ多くその年に降ったいろんな雪の結晶の姿を見つけることができるのか、その中で祖母から教えて貰い結晶の形から今季の雪の傾向を知るというもの。田植えをすれば幼いながらも腰痛になり歩くのがしんどくなった時に、
それでだけでなく田んぼではあめんぼやおたまじゃくしの成長やカエルを捕まえ、カエルの解剖や、小川にいるフナのエラ呼吸についても学んだ。
もちろん、解剖の際は生き物に手を合わせ、終わった後も庭に埋め、手を合わせ線香をあげる。
生きるという事。食べるという事。活かすということ。生と死、命について祖母から教えてもらった。
また、月に一回ある祖母のテストというものにはその月に学んだものの総集編として、祖母からお題が出る。
それを家の横にある小川や田んぼ、畑や、その折々の四季の中で探し出し祖母の教えてくれた事だけでなく自分の考えや意見を述べて祖母に渡す。というもので、これに不正解だとひどい。
月に一回ある、大好きなきな粉のおはぎが、
あまーいこしあんのおはぎになるのだ。
私はこの世で1番こしあんの小豆が苦手なのだ。
生きているのは動物だけじゃない。
草や木だって同じなのだ。
という教えのもと、育てられているため、
こしあんのおはぎを断るすべを持っていない。
きな粉のおはぎの時はつぶあんのおはぎなのだ。
もっというならいつもは小豆の入っているものはつぶあんなのだ。
こしあんは、、
口がぬあああああああ!!!!ってするんだ...
初めて祖母の回答に間違えた時、
ニッコリ顔の祖母におやつだよ。
と渡されたこしあんのおはぎ。
泣いた。
今でも思い出すと涙が出そうになる。
小さい頃からこしあん以外の甘い物にがめつい性格だったんです。ええ。
それ以来好奇心だけでやってきたものに、
知恵をつけるようになった。
楽しい気持ちと、つぶあんの入りのきな粉のおはぎが出たときの喜びを糧にがむしゃらに取り組みつづけ私は7歳になった。
ある時祖母が言った。
”誰もが時計を持っているんだよ。
長短それぞれある時計を誰もが1つ持っている。
それを捻じ曲げることはできないんよ。
それができるのは神様くらいだべさ。
いつか時計の針が止まるその時までずっと時計を持って生きているのさ。”
《ばあちゃん、私時計なんて持ってないよ?》
そう言った私に、祖母は胸に手を当てて
”ほら、今も時計が鳴ってるよ。”
と笑った。
《でも、ばあちゃん、これは心臓でしょう?》
そう言うと、
ばあちゃんはにやっと笑って付け加えた。
”うんにゃ。生物学上わな。
だが、私達はこの時計で毎日を刻むんじゃよ。”
”このばあちゃんの時計にはな、ばあちゃんがじいちゃんと会えたこと、薫のお父さんが生まれて薫のお母さんと結婚したこと。薫が生まれたこと。
嬉しいや楽しいや幸せや笑いを時計の針が全部胸に刻んでくれるんでさ。
その時計が止まるまでな。”
《時計が?》
と怪訝そうに聞いた私に、
とても楽しそうに笑い声をあげるばあちゃん。
”時計は実は粋な計らいをするもんでなあ。
しっかりそれを感じれるんさ。
ばあちゃんの時計が止まって死んじまってもな、薫たちは寂しくなんかないんよ。”
《いやだよ。ばあちゃん死んじゃったら、私は寂しいよ。
ばあちゃん、じいちゃんの時計は止まっちゃったけど、
ばあちゃんは寂しくないの?》
そう聞いた私に、
少し悲しそうに笑ったばあちゃんは
”ばあちゃんはまだまだだから、じいちゃんに会えなくて寂しくなる時もあるさ。
でも、たっぷりの幸せをくれたじいちゃんがばあちゃんの此処にいるからな。”
と自分の胸にそっと優しく触れた。
”じいちゃんがくれた幸せをばあちゃんは噛み締めて時計を刻むことが出来るからな。
薫はこれからもっとたくさんいろんな思いを刻んでいくんや。”
そういって私の胸にそっと手を当てて大好きな笑顔でほほえんだ。
大好きなばあちゃんと、写真の中のじいちゃんと、遠い空の下にいる両親を思って此処にみんな刻まれていくんだと知ったら、胸が熱くなるような気がした。
《ばあちゃん!!すごい!!!
なんでも知ってるんだね!》
そう言った私に、ばあちゃんは笑っていた。
優しいばあちゃんはあくる日に亡くなった。
お父さんとお母さんが駆けつけた時にはもう棺桶の中で眠っていた。
あの時の様にばあちゃんの胸に手を当てても時計は鳴らなかった。
物知りの優しいばあちゃんの時計はその日に止まってしまった。
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それから海外に拠点を置いていた両親は国内に帰って来て、私が義務教育を終えるまではなるべく拠点を都内に置いてくれていた。
父もこの日は一緒に夕食をとれることになった為、家族3人で食卓を囲んでいた。
ここしばらく都心の学校に通うようになって気づいたことを父に問いかけてみた。
"ねえ、お父さん。
学校でやったことを運動会のリレーに例えると、学校でやった事がスタートラインだとすると、ばあちゃんと遊んだ事って運動会のリレーをもう走り切って運動会自体の片付けもして家に帰ってお布団に入って寝るくらいの差があるんだけど、
学校ってそういう感じなの?"
と不思議に聞いた私に
横にいたお母さんがお茶を吹き出し、
目の前のお父さんが新聞紙片手にケタケタと笑い転げていた。
ひと通り笑い転げたお父さんから
”ばあちゃん好きか?"
と聞かれた私は
《うん、大好き。
きな粉のおはぎも大好き。》
と答えるとお母さんはまたお茶を吹き出し今度は笑っていた。
"俺がいうのもあれだけど、ばあちゃん結構凄いからなぁ。"
"お義母さんはほんと凄いわよねぇ"
と微笑ましく笑っていた。
お父さんとお母さんは
寂しくないの?
と聞くと、2人はお互いの顔を合わせて
ふふっと笑うと、
"時計があるからね"
と声を揃えて微笑んだ。
《薫も!!!私もそのことばあちゃんに教えてもらったよ!!》
と嬉しくて言うと、
嬉しそうに2人は微笑んでいた。
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拝啓天国のばあちゃん、
私、神様に時計を捻じ曲げられてるみたいです。
そう思って遠い目をする私は、先ほどの回想の中で人様の乳を飲み人前でゲップをすると言う、もう穴があったら入りたいではなく、もはや羞恥の限界を超えたレベルで自分自身を微分したい気持ちになった。
もうこのまま、二次元となり積分で戻ってこれなくていいから、微分でそのまま二次元へと連れ出してくれないかと、もはや何を考えているのか頭がおかしくなっていた。
薫、もとい、此処ではチヅルだが。
遠い目をしているとふと柔らかな笑顔の女性が映る。
この人はいわゆるチヅルのかか様にあたる人らしい。
「姫や...。」
そういってにこにこと私を見るかか様。
「たぁ..。」(なぁに?)
無気力ながらも返事をすればまた、嬉しそうに明るくなる笑顔。
「姫や。」
嬉しそうに私の頬を指で優しくさすりながら何度も名を呼ばれる。
「たぁ.ぃ..。」(はーいぃ。)
無気力すぎてげんなりしている表情になってしまう。
何度目か名前を呼ばれたところで
「たあ。」と、かか様の指を掴んだ。
すると目をこぼさんばかりに大きくしたかと思うと
ぎゅっとつむりそのままぷるぷると震えだした。
天国のばあちゃん、おとーさん、おかーさん。
薫はとんでもないところに来たみたいです。
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