第8章 みんな大好きなレーナさん♪
第78話 お祭り騒ぎ
虫達の襲撃を退けた翌日、私は前日に怪我人の治療を一通り済ませた事もあって、ネフィーが生産した魔力を一時的に誰でも引き出せるようにした。
薬の副作用もあり、他の人がネフィーの魔力を引き出せるようになったのを見届けた後、私は泥のように眠った。
目が覚めると、私はネフィーの中で倒れたはずなのに、知らない家の天蓋つきベッドで眠っていた。
部屋は木の香りに包まれていて、一人で寝るには広いベッドもふかふかだ。
身体を起こして辺りを見回せば、そこは殺風景だけれど随分と綺麗な真新しい部屋で、窓から見える景色は、建物は変わっていても配置や町並みに妙な既視感がある。
「おはようママ! 目が覚めたんだね! 今ね、町の人達がお祭りの準備してて、後はママとネフィーが広場に行くだけなんだよ! ネフィーは町外れで待ってるから、早く迎えに行こっ!」
私が首を傾げていると、部屋に入ってきたアンナリーザが私に抱きついてきて、おはようの挨拶もそこそこに、町のはずれで待機しているというネフィーを迎えに行こうと腕を引っ張ってくる。
なんでも、ここは新しく立て直された私達の家で、私はあの後丸二日眠りっぱなしだったらしい。
「丸二日……丸二日!?」
驚いて私は窓の外を見る。
辺りには新しい建物が立ち並び、すっかり再建されている。
いくらなんでも町の復興が早すぎじゃないだろうか。
「いや、でもネフィーの魔力を好きに使えて、足りなければ光合成を手伝って新たに魔力を生成できるのだから、やりようによっては可能……なのかしら?」
「もー、いいから早くネフィーを迎えに行こうよー」
あまりの町の復興の早さに私が驚いていると、アンナリーザがむくれた顔で私の服の裾を引っ張ってくる。
とりあえず私は簡単な身支度を済ませると、催促されるがままにアンナリーザと飛行魔法でネフィーのもとへと向かった。
家にはクリスもニコラスもいなかったので、軽く結界を張ってから家を出る。
窓から飛び立てば、すぐに巨大なネフィーの姿が見えたので、どこにいるのかはすぐわかった。
遠目から見たネフィーはなにやら枝をわさわさと揺らして歌を歌っているようだった。
「レーナ! もう元気になったのー?」
近くまで飛んで行くと、私に気づいたらしいネフィーが話しかけてきた。
「ええ、おかげさまでね。ネフィーは何してたの?」
「町の人がネフィーの歌を作ってくれてね、今、皆で歌ってたのー!」
元気いっぱいにネフィーが答える。
「あ、レーナさんだ!」
「ホントだ、レーナさんだ~!」
ネフィーの身体にある窓から、アンナリーザと同じ位の子供達がひょっこり顔を出す。
中を見れば、楽器を持った大人達もいて、笑ってこちらに手を振ってくる。
「私達を救ってくれたネフィーへのお礼に、曲を作って演奏していたのです」
と、大きな弦楽器を持ったお爺さんが言う。
お爺さんと楽団の仲間達との演奏が終ると、今度はネフィーやその場に居合わせた人達も一緒に歌いだして今に至るらしい。
「そうだったの、それにしても、すっかりネフィーは人気者になったわね」
「だって、ネフィーはママじゃないと小さくできないし、ママが起きるまでは町を元通りにするのに邪魔にならない場所でずっと待ってなきゃいけないでしょ? だから、皆ネフィーが寂しくないようにって、できるだけ遊びに来てくれる事になったの」
随分人が集まるようになったものだと思っていたら、アンナリーザが横から意外な説明をしてきた。
「え、そうなの?」
「ネフィー、レーナを待ってる間も毎日ずっと誰かが遊びに来てくれてたから、寂しくなかったよ!」
私が尋ねれば、ネフィーは嬉しそうに答える。
町の人には随分と気を使ってもらったようだ。
「それは……皆さんうちのネフィーに随分と良くしていただいているようで……」
「いえいえ、私達は皆、好きでネフィーのところへ遊びに来ているだけですから」
お礼を言おうとすれば、お爺さんはコロコロと笑う。
「ママ、早くネフィーを小さくして、広場に行こうよ! 今朝から皆ずっと待ってるんだよ!」
お爺さんと話していると、隣でアンナリーザが早く行こうと私を急かす。
「そうですな、今日はお祭りだ。主役も目を覚まされた事ですし、我々も楽しむとしますか」
「え? 主役?」
お爺さんの言葉に私は首を傾げたけれど、アンナリーザが早く早くと言うので、とりあえずネフィーの中にいる人達には全員外に出てもらって、再びネフィーに縮小魔術をかける。
縮小魔術自体は一般的な魔法だけれど、その維持にかかる魔力をネフィーの魔力でまかなえるようにする所でつまづいて皆出来なかったのだろう。
理論を知ってコツさえ掴めば誰でも出来るようにはなるけれど、それをアンが知るとまたろくな事にはならなそうなので、ここは黙っておく事にする。
アンナリーザに案内され、ネフィーを連れて飛行魔法で町の中心の広場に行けば、なぜか到着した瞬間にわっと歓声が上がった。
「レーナさん、回復おめでとうございます!」
「レーナ、今日は楽しんでっておくれよ」
知らない人も知ってる人も口々に私にニコニコと声をかけてくる。
辺りを見回せば、華やかな飾りつけや、出店なんかもあって、すっかりお祭り状態だった。
そして、なぜか私はそのお祭りの中心にいる。
周りの人達に促されるままに特設の妙に豪華な日除けつきの周囲より一段高い席に座らせれ、町を救った英雄ネフィーと同格の扱いで祭りに参加させられている。
「わーい! お祭りー!」
「な、なんでこんな事になってるの……?」
大きめのソファーに腰を降ろした私は、膝の上ではしゃぐネフィーを
「皆ママの目が覚めるの待ってたんだよっ! ネフィーのおかげですぐに町も元通りになったし、皆でお祝いしたいねって言ってたの!」
「それはわかったけれど、なんで私がこんなに祭り上げられてるの……?」
元気にアンナリーザは説明してくれるけれど、だとしてなんで私までこんな扱いを受けているのか。
「皆レーナに感謝してるからだよ」
「クリス」
すぐ横から声がして、振り向けばすぐそばにクリスが来ていた。
「ネフィーの魔力を誰でも使えるようにしたおかげで、元々魔術師が多い町だったし、皆、資材調達から建物の建設まで魔術をフル活用して各々格安で家屋を再建できたんだ。国からの復興補助金ももらえるから、むしろ黒字になる家も多いみたい」
壊滅的だった町がわずか三日でほぼ元通りになったのは、資材の運搬や物資の加工、組み立て、塗装、それら全てに惜しみなく魔力を使って大幅に費用や時間を節約できた事が大きいらしい。
中には材料調達から加工、建設まで全て魔法を駆使して一人で行い、ほぼ無料で家を建てた猛者もいたという。
まあ、一から魔術だけで家を建てるには様々な技術や知識が必要なので、魔術学院でも簡単な家屋を製作するというのは入学一年目でやる基礎的な授業だ。
魔力さえ惜しみなく使えるのなら、短時間で全て出来る人間も一定数はいるだろう。
更に後から国からの補助金が出る事になったらしく、自力で家を再建するだけでなく、他人の家を建てて手間賃を貰い、更に国から補助金をもらうというコンボを決めて一儲けした人もいるらしい。
……なんとも
「僕達の家も、ネフィーのおかげでほぼタダで家を再建できたって人がお礼にって建ててくれたんだ。レーナの活躍に感謝してる人は多くて、レーナが寝てたベッドや他の家具とかも全部色んな人がお礼にってくれたものなんだ」
「そう、だったの」
私が寝ている間になんだかエライ事になっている。
クリスにはニコニコしながら話してくるけれど、なんでそんなに平然としていられるのか。
……とりあえず、これで賠償金問題は解決したようだけれど、私の株が上がりすぎている気がする。
「今回は皆それぞれ事件解決に尽力してたけど、レーナが真っ先に結界の種類を特定して魔法を使えるようにしたり、前もってネフィーの力を強化をしてなかったら、こうはならなかったよ」
「たまたまよ」
確かにそういう意味では私の功績もそれなりにはあるだろうけれど、責任追及を逃れたい一心の行動が、まさかこんな評価されるとは思わなかった。
「それだけではありませんよ、レーナ!」
「ニコラス」
今度は後ろから声がして、振り向けばなぜか得意気な顔をしたニコラスが立っていた。
「レーナが事前に獣人化魔術で多くの人間を獣人化していた事により、非常時に魔法が使えなくてもすぐに救助に向かえる程の身体能力を持った人間が多くいた事が、今回奇跡的に一人として死者を出さなかった事に繋がったのです」
「それは、良かったけど……それこそ本当に偶然よ」
妙に私を持ち上げようとする言葉を否定したかったけれど、それ以上にアレで死人が出なかった事に私は驚きを隠せない。
まあ、確かにそれは奇跡的ではあるけれど……。
「偶然でも、レーナが町を救う事に大きく貢献した事は間違いありません」
「……ありがとう」
まあ、確かにそれなりに私も身体を張ったので、いくらかの賞賛は受けても良いかもしれない。
しかし……。
「モフモフになっていたおかげで魔物から無傷で逃げ切れました!」
「モフモフになったおかげで家族を全員無事に避難させることができました」
「モフモフ教万歳!」
なんだか、コレはもう色々と逃げられない感じになっていないだろうか。
「……フ……は……い……!」
私が心の中で頭を抱えていると、ふと聞き覚えのある声が聞えた気がした。
誰かの声に似ているような気がしたけれど、誰の声だったか、そんな事をぼんやり思っていると、隣にいたアンナリーザが急に広場へと駆け出した。
「きゃー! ジャックだー!」
アンナリーザの言葉に顔を上げれば、すこし先に白衣を着た狼男が立っていた。
変身魔法を解いて、白猫姿になったアンナリーザが狼男に飛びつく。
「ジャック……!?」
驚いた私は膝の上のネフィーをソファーに降ろして、慌ててそちらへ駆け寄る。
こちらに気づいたジャックはアンナリーザを抱きかかえながら私の方へやってきて、感極まった様子でアンナリーザごと私に抱きついてきた。
「レーナ! 君は素晴らしい!」
直後、賑やかだった広場が時が止まったかのごとく、急に静まり返った。
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