第37話 腑に落ちない

「とりあえず、私お腹すいたから、何か食べながらがいいわ」

「わかりました。希望はありまして?」

「美味しいお茶菓子が食べたいわ」

「いいでしょう」


 ちょっとおどけながら私が言えば、ローレッタはあっさりと私の希望を聞いて、そのまま私を転移魔法でお高そうなレストランまで連れて行く。

 ローレッタの後について行けば、当然のように豪奢な個室へと案内された。


「それで、どういう事ですの?」

「何が?」

 注文はローレッタのおすすめの物を選んで一息つくと、ギロリと睨まれながら尋ねられた。

 けれど、何に対して聞かれているのかわからない。


「あなたの、二人の旦那様についてですわ」

「アレは誤解よ。クリスはともかく、ニコラスの方はドラゴンで私の使い魔だもの」

 慌てて私は弁解する。


「だからそれがどういう事かと聞いてるんですわ! 家紋にもなっているドラゴンを従える事が我がアッシュベリー家の悲願と知っての事ですの!?」

 けれど、どうやらローレッタの目的は、私に世間一般の道徳を説く事ではないらしい。


「ああ、そういえばそうだったわね」

 そこで私はアッシュベリー家について思い出す。

 アッシュベリー家は魔物使いの家系で、召喚術や、合成獣キメラの製作等に長け、現代の使役魔法の基礎を築いてきた家系だ。


「野生のドラゴンを手懐けようとしても懐かない、卵を入手しても孵らない、ドラゴンに近い合成獣を作ろうとしたけれど全くの別物……どうやって使い魔にしたんですの!?」

 そういえば、以前新聞で読んだドラゴンを使い魔にするも、ドラゴンが命令を無視して自害しただとかいうニュースも、アッシュベリー家の傍系にあたる家系だったはずだ。


「いや、あれは使い魔にしようとしたというよりは、流れで一緒に住む事になったので安全の確保の為に使い魔にしただけだから……」

 正確には、アンナリーザに手を出さないようにするためだったのだけれど、さすがにそれは言えない。


「そもそも、ドラゴンと一緒に住むようになる流れってなんですのよ……やはり色仕掛けですの!?」

「やはりって何よ」

 運ばれてきた軽食をつまみながら、思わず私はつっこむ。


「町中で噂になってますわ。あなたがドラゴンを色仕掛けで落として主従契約を結ばせ、都合よく操縦していると」

「酷い言われようね」

 もはや、完全に悪女である。


「けれど、相手を心酔させて言う事を聞かせるというのは確かに理にかなっていますわ。ドラゴンは元々気位が高く、力も強いので拘束力のある命令術式でさえ、相手の了承が得られないと使う事が出来ませんもの」

 ローレッタは、真面目にニコラスについて考察しているようだ。

 でも、大事なのはお互いにコミュニケーションを取る事で、そんなに堅苦しく考える必要は無いんじゃないか、と紅茶を飲みながら私は考える。


「まあ、確かにその辺は協力的ではあるわね……」

「レーナ、今後の参考に、どうやってそのドラゴンを篭絡したのか教えて欲しいのですわ」

「うーん、でも多分参考にならないと思うわよ? うちの場合、ドラゴン自身が最初から人間の文化に興味があって人間の真似事とかしてたから」


 そのせいで正体を知っても懐いてきたアンナリーザに心奪われたらしいとか、ニコラスがアンナリーザを嫁にしたがっているだとか、そういう部分は伏せて、話しても良さそうな事だけ話す。


「つまり、ドラゴンを使い魔にする為には、人間の真似事をするほど人間に興味のあるドラゴンに恋をさせればいい、という事ですの?」

「……いや、でもニコラス、うちのドラゴンが私のいう事を聞くようになったきっかけは決闘で負かしたからかしら。弱い者は強い者に従うのが道理だとか言ってたし」


 確かにニコラスが協力的なのは元々人間の文化に興味があったり、アンナリーザに惚れているのもあるのかもしれないけれど、それでも初め、彼は説得が無理とわかると私達を力で従わせようとした。

 結局、彼が大人しく私のいう事を聞いているのは、あの時私が彼を負かした事が大きい気がする。


「ドラゴンと決闘……でも、複数人で相手した場合、ドラゴンはこちらを対等の相手とすら見ないという研究資料がありますわ」

 けれど、ローレッタは私の言葉に懐疑的な反応をした。


「ああ、多分それは決闘は私とクリスで挑んだんだけど、クリスが途中でやられちゃって、その後は実質私が一人でニコラスを倒したからかも」

「…………は?」

 私が答えた直後、なぜか部屋の中にしばらくの沈黙が流れて、ローレッタが信じられないものを見るような目で私を見る。


「そういえば、一緒に住むなら使い魔になれって言ってあっさり受け入れられた時も、一人でも自分を倒せただろう、みたいな事言われたわ。実際多分一人でも出来たけど、魔力消費が馬鹿にならないのよね」

 何か言葉が足りないところでもあっただろうかと、スコーンを半分に割りながら補足説明を入れる。


「……大体の理由はわかりました。さすがレーナといったところですわね」

「それどういう意味?」

 なるほど、というようにローレッタは頷いたけれど、それ、全く褒めてないよね?


「恐らくドラゴンは、あなたの色気ではなく、その戦闘力に惚れたのでしょう。ドラゴンを手懐けるには、単独でそれに勝ちうる戦闘力が必要という事ですわね! 貴重な情報、感謝しますわ」

 すっかり満足したようにローレッタは言うけれど、私の方は色々と腑に落ちない。

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