第36話 再会とお誘い

 その日、私はアンナリーザの最終試験トーナメント初戦を観戦しに来ていた。

「上位八人以外の十二人は最終試験での戦いを見て合否が決まるんだっけ?」

「ええ、だから上位十六人に入っても落ちる事はあるし、初戦で負けても受かる事があるわ」

 アンナリーザの試合を見ながら、クリスの質問に私は頷く。


 最終試験のトーナメント戦は全部で七回戦まである。

 一回戦は試合数が多いので、一日十六試合で四日間、三回戦までは一日当たりの試合数はそのままに二日、一日と制限時間を設けて試合を行っていく。


 四回戦と五回戦は一日の試合数が少なくなるので制限時間も長くなり、六回戦と七回戦は時間制限無しで、勝負がつかない場合は翌日に持ち越される。

 ただし、五回戦以降は上位八名に絞られるので実質消化試合だ。


 なので四回戦までが終わった時点で魔術学院側は十二人の拾い上げ枠の生徒を選定する。

 だから、五回戦以降の試合で影響ある事と言えば、せいぜい入学時の成績の順位くらいだ。

 後は単純に受験者が自らの力を誇示したり、この祭りの一番の華という意味あいくらいしかない。


「ふと思ったのですが、それなら私がアンの召還獣として上位八名に入ればアンの合格は確定するのではないですか?」

 虎の魔物を召喚したアンナリーザの対戦相手を見て、ニコラスが神妙な顔で提案してきた。


「確かにそうだけど、こういうのは自分の力でその成績を勝ち取る事に意味があるのよ」

 ため息混じりに私は答える。

 ルール上は問題ないだろうけれど、それではアンナリーザのためにならない。

 それに、アンナリーザは既に自分の力で上位八人に入るだけの実力を持っていると思うし、魔法を使った対人戦闘なんてしたこと無いはずだから、いい経験になるだろう。


「なるほど。しかし、ドラゴンである私に協力させたいと思わせる事もアンの力では?」

 ニコラスは納得したようなポーズを見せつつ、更に屁理屈をこねてくる。

「そうかもしれないけど、この戦いを見てると、別にニコラスの協力がなくてもアンは勝ち上がれそうじゃない?」

 言いながら私はアンナリーザに目を移す。


 アンナリーザは隙を突いて風魔法で召還獣もろとも相手を場外へと放り出して見事勝利を収めていた。

「……そう、かもしれません」

 ニコラスはそんなアンナリーザの様子を見て、少し寂しそうに頷いた。


「ママー! 私勝ったよ~!」

「よしよし、頑張ったわね」

 しばらくすると、私のもとにアンナリーザがさあ褒めろとばかりに突撃してきた。

 ひとしきり私が撫でて褒めると、アンナリーザは母やニコラス、クリスへ順番になでなでを要求していく。


 アンナリーザが落ち着いてきた所で、私は席を立ち、母やリア、デボラちゃんにもう帰ると伝える。

「あら、もう帰るの? この後ダリアちゃんの試合もあるのに」

「今日はこの後約束があるのよ。アンナリーザは今後の参考になると思うから、試合は見ておいた方がいいわ」

 当たり前のように無言で私についてこようとするアンナリーザを止めながら私は言う。


「えー、一人でママ行っちゃうの?」

「どうしても外せない用事なのよ。ニコラスとクリスはアンの事お願いね」

 不満そうなアンナリーザに弁解しつつ、私は二人にアンナリーザの事を頼む。


「うん、行ってらっしゃい」

「任せてください!」

 クリスはともかく、ニコラスが明らかに嬉しそうだ。

 ……まあ、手は出せないはずだし、クリスもいて二人きりじゃないから大丈夫だろう。


「なんで母さんはお願いされないのよ」

 母も不満そうにむくれるが、いくら見た目が若くても六十過ぎのむくれ顔は可愛くない。


「母さんはアンを甘やかすのも程々にしてね。それじゃあリアもデボラちゃんもこの孫に甘すぎるおばあちゃんをよろしくね」

 私は母をスルーしてリアとデボラちゃんに母の事をお願いする。


「わかった~」

「もう、お姉ちゃんったら私にばっかり面倒押し付けて……」

「今、実の母親の事を面倒って言わなかった!?」

 二人共既に母の扱いは心得ているようなので、安心して私はスタジアムを後にする。


 今日は獣人化の希望者が十二人もいるのだ。

 とりあえず、値段を上げても希望者を減らす効果はあまり期待できないし、連日希望者がやってきても私が予定を立てられないので、次回以降は完全予約制にしよう。


 家に戻れば、約束の時間はまだだというのに、待ちきれないのか、既に希望者が四人私の家の前で待っていた。


 ジャックの残した研究資料によると、どの動物の獣人になるかによって、能力が大きく変わってくるらしい。

 ジャック本人が実際に色んな動物の獣人になってみた時のレポートが残っている。


 熊は力が特に強く、スタミナもそこそこあるけれど、俊敏性はいまいちだとか、犬と狼の獣人になった時の違い等、事細かに記されていた。

 この獣人になるにはどの配列の遺伝子をどういじればいいかという事も、丁寧に記されている。

 私はこの研究資料を元に、希望者と事前に獣人の特徴を説明して目的に合わせてどの獣人になりたいかを決める。


 そして施術の前に一応念のため、獣人化は自分の自己責任と自己判断で希望したもので、獣人化した事に関する一切の不利益に対しての責任は私に求めないという内容の念書を書いてサインしてもらい、料金もその時にもらう。


 リザレクションの応用による獣人化は一瞬にして終わり、後は人間に化ける魔法を使う事が出来ない人には魔法を使えない人でも簡単に人間に化けられる魔法道具をセットで販売しておく。


 希望者が十二人いても、一人当たりにかかる時間はそこまででもないので、昼過ぎには全員の施術が終わった。

 一応ジャックに貰った魔法石にはまだ多くの魔力が蓄えられているので、私自身の魔力消費はないのだけれど、短時間にこれだけの人間の相手をすると疲れる。


 しかし、このままの調子でずっと獣人化を希望する人が来るのなら、もうこれを専業しても家族四人で十分裕福な暮らしが出来そうだ。


 なんて事を考えつつ、もうお昼は作るのが面倒なのでどこか店で食べようと思いながら玄関のドアを開ければ、突然私の目の前に転移術式の魔法陣が浮かんだ。

 直後、私の目の前には随分と懐かしい人物が現れる。


「久しいですわね、レーナ」

「ほんと久しぶりね、ローレッタ。十年ぶりくらい?」

 ミルクティー色の巻髪を軽く揺らしながら、十年前とほとんど変わらない姿の彼女、ローレッタ・ナタリア・アッシュベリーは笑う。

 彼女は、私の魔術学院時代の同期生だ。


「今日は娘さんや二人の旦那様はいませんの?」

「三人ともスタジアムで試合観戦してるわ……獣人化の希望なら予約制よ」

「間に合ってますわ……レーナ少し時間をいいかしら?」


 妙に真剣な顔でローレッタが言う。

 どうやら彼女にもすっかり私の悪評が伝わってしまっているようだ。

 早々に誤解を正さなくては。

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