第31話 アンナリーザはご立腹
「ギギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
大地に響く轟音のような鳴き声、そしてそれと共に吐き出される息が、辺り一面を氷つかせる。
一応防御魔法で凌げたけれど、これを毎回魔法で防いでいたら、魔力がいくらあっても足りない。
「クリス、今回は防げたけど、これからはあんまり魔法での防御は期待しないで。俊敏性を強化するから自力で避けて!」
「わかった!」
クリスに俊敏性を上げる強化魔法をかけながら私は言う。
そうしている間にも、ドラゴンの姿に戻ったニコラスの口元に、魔力が集まっている気配を感じる。
さっきはすぐに打ってきてあの威力だったけれど、今度は発動までに間がある分、更に威力が上がりそうだ。
私達はニコラスが次の攻撃を放ってくる直前、別方向に攻撃を避けた。
しかし、ニコラスが口から放った無数の光の玉は、逆方向に逃げた私達をそれぞれ二手に分かれて追ってきた。
「追尾魔法!?」
思ったよりも攻撃のバリエーションがあるらしい。
飛行魔法で逃げていた私は、木の隙間や岩陰を縫うように飛んで攻撃をかわしたけれど、クリスは大丈夫だろうか。
透明化魔法で一旦姿を消して、離れた場所からニコラスの周囲を観察してみれば、既にニコラスの身体に跳び乗って剣を振るっているクリスの姿があった。
ニコラスは飛び上がってクリスを落とそうとするけど、クリスは器用に振り落とされないようにしがみつきつつ攻撃をし続ける。
ドラゴンの身体では構造上どうしても小回りが利かず、接近されるとブレス系の攻撃も使えなくなる。
補助的に魔法を使って攻撃してくる場合もあるけれど、ただ飛び回ってクリスを振り落とそうとするだけのニコラスの様子を見ると、その手の魔法は使えないようだ。
これはもうクリスが攻撃を続けてニコラスの体力削りきるのも時間の問題かと思った瞬間、目の前からドラゴンの姿が消えた。
ニコラスが人の姿に化けたのだ。
ドラゴンの羽だけ残して人の姿に戻ったニコラスは、空中に残されたクリスを力強く蹴り飛ばして近くの岩山に叩きつける。
ニコラスが止めを刺そうとクリスの元へ飛んで行く。
私はニコラスの拳がクリスに到達する直前、クリスの装備をクリスの身体ごと転移魔法で私の側に移動させる。
ニコラスの拳はそのまま岩山へとぶつかり、そこには巨大なクレートが出来た。
直後、私は彼の背後から、最大火力の火属性魔法をぶつける。
衝撃で岩山には更に穴が開いて、周りの岩はドロドロと溶けたけれど、すぐにそれらは凍りつき、中から人に化けたニコラスが姿を現す。
まだ、人に化けている余力があるとは、中々タフなようだ。
今まで私やクリスが狩ってきたドラゴンで、ここまで持ちこたえた個体はそうはいない。
だけど、それももうここまでだ。
私は再びニコラスめがけて最大火力の火属性魔法を放つ。
ニコラスはしばらく持ちこたえるだろうけれど、岩の中の空洞の酸素を延々と燃やし続けてやる。
外側のこちらからはいくらでも酸素を送り込めるので火が消える事は無い。
だけど、閉じ込められたニコラスの側は違う。
ドラゴンの息がどれだけ続くのかは知らないけれど、じきに酸欠になるはずだ。
そうなれば彼にもう抵抗する術は無く、ドラゴンの丸焼きが出来上がる。
この魔法は元々の魔力消費も激しい上に、長時間高熱に晒された岩山は次第にまた溶けて穴は広がるので、ニコラスを押さえ続ける為には必要な魔力がどんどん大きくなっていくのだ。
けれど、途中で足りなくなれば最悪、家にある私の人工魔法石やジャックから貰った魔法石にも転移用の魔法陣が刻んであるので、それを持ってきて魔力を補充すればいい。
「ダメー!!!!!!」
私が勝利を確信した直後、すぐ耳元で甲高い叫び声が聞えた。
眠っていたので、ストルハウスに寝ていたソファーごと入れていたアンナリーザだった。
どうやら目を覚まして転移魔法で出て来たらしい。
「なんでニコをいじめるの!? クリスもボロボロだし、どうしてママはパパになってくれそうな人に毎回酷い事するの!?」
飛行魔法をかけた自分のロッドの上に立ったアンナリーザが、私に掴みかかりながら、耳元でキャンキャン叫ぶ。
クリスをボロボロにしたのは私じゃないけれど、さっきストルハウスから出てきて、私がクリスを自分の側に転移させた後辺りからしかアンナリーザは見ていないのだろう。
「今すぐニコのケガを治してあげて! クリスのケガも! 早く!」
アンナリーザは随分とご立腹なようで、私をニコラスのいる岩穴まで飛行魔法で引っ張っていくと、中で倒れているドラゴンに戻ったニコラスを見て、地団太を踏みながら言った。
治療自体はすぐに終った。
どちらのケガも、ヒールで治る程度だったから、ロッドや首飾りの魔法石に貯めた魔力を使うまでもなく、私自身の魔力でまかなえる。
「二人共大丈夫? ママにいじめられてたんでしょう? ごめんね、怒ってる?」
「「えっ……」」
目を覚まして早々、アンナリーザにそう心配された二人は固まった。
当然の反応だと思う。
「いえ、これは両者の合意の元で行われたけっ……力比べなんです!」
「そう! 力比べ! 僕達遊んでただけだよ! ちょっとヒートアップしてケガしちゃったけど、ちゃんと治してもらえてたし、全然怒ってなんかないよ!」
「そ、そうだです! 全く、全然、怒ってなんかないですよ!?」
焦ったように二人はアンナリーザに説明する。
「そうなの? いじめられてない?」
「いじめられてない! というか僕、レーナの側についてたからね!?」
「私だって勝負には負けましたが、一方的にやられていた訳ではないんですよ!」
不思議そうに首を傾げるアンナリーザに、二人は疑惑を否定するけれど、私の疑いを晴らそうというよりは、自分のプライドを守ろうとしているように見える。
「じゃあ、本当に三人は遊んでただけ?」
「そうだよ!」
「もちろん!」
クリスとニコラスの返事を聞くと、アンナリーザはなぜかぷくーっと頬を膨らませた。
「三人だけで楽しく遊んでるなんてずるい! 私も混ざる!」
どうやら、今度は自分が仲間はずれにされたと思ったらしい。
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