第30話 ワクワク四者面談
「見て見てママ! この姿、ドラゴンっていうんでしょ? ニコはドラゴンなんだよ! かっこいいでしょ?」
突然現れたドラゴンに固まる私を他所に、アンナリーザは目の前のドラゴンの周りをくるくると周ったり、身体によじ登ったりしながらはしゃいでいる。
この様子だとアンナリーザはニコラスさんの正体を既に知っていたらしい。
「彼女の言う通り、私はドラゴンです」
アンナリーザが頭の上に登ったところでニコラスさんは再び人間の姿になると、肩車状態になったアンナリーザをそっと足元に下す。
……一応、敵意は無いようだ。
「驚かしてしまって申し訳ありません。しかし、ここでは人間のフリをする必要は無いと伝えるにはこれが一番手っ取り早いと思ったのです」
困ったように微笑みながら、ニコラスさんは言う。
そして、好きな席に座るようにと言われたので、とりあえず私達は三人掛けのソファーに並んで座る事にした。
するとニコラスさんは私達が座ったソファーの隣の木の椅子に腰掛ける。
丸テーブルや他の席は無視して私達に向き合うように座るあたり、あまり席順だとか作法だとかには頓着していないようだ。
「森で彼女を見つけた時は驚きました。まさか、人間とのハーフでもない純血統の獣人がまだいたなんて。猫の獣人は特に魔力が高い種族でしたが、なる程、人間にまぎれて今まで生活していたのですね」
どうやら私とアンナリーザを昔絶滅した獣人の親子と勘違いしているらしい。
そもそも、七百年前までは獣人が本当に存在したというのも驚きだけれど。
どっかのモフモフ大好きな魔術師が聞いたら喜びそうだ。
「そこで相談なのですが、娘さんを私の嫁にしたいのですがよろしいでしょうか?」
「よろしくありませんけど!?」
爽やかな笑顔でいきなり何を言ってるんだこの人は、いや、このドラゴンは!
「話がいきなり飛びすぎじゃありません……?」
「そうですね、つい気持ちが急いてしまいました」
気恥ずかしそうに彼は言う。
なんなの?
そういう趣味なの?
私は今からこのドラゴンを抹殺すればいいの?
「彼女は実に素晴らしい! 元気で素直で、私の正体を知っても笑顔で受け入れてくれて、しかも人間社会に溶け込んで暮らしている! 彼女こそ私の理想の花嫁なのです!」
とても生き生きした様子でニコラスは話を続ける。
「私は人の織り成す文化にとても惹かれているのですが、同族の中では変わり者扱いでした……。私がドラゴンであると承知した上で、一緒に町で暮らそう、家族になろうと言ってくれる存在なんて他にいません!」
ごめん、それ多分ちょっとでも気に入った相手には結構な頻度でアンナリーザは言ってる……。
熱く語る彼に、私はなんとも言えない気持ちになる。
「とにかく、本人はまだ子供で、そういった事はわかりませんので、後十年程待ってもらって、その時にアンナリーザが望むなら、私も考えましょう」
遠まわしに私が断れば、ニコラスはいいやと首を横に振った。
「それでは遅すぎます。獣人の成長は早い。十年も待っていたら他の男に彼女がとられてしまう」
力強く彼は言うけれど、そんな事は知った事じゃない。
「誰を選ぶか、選ばないのかは本人の自由です。十年経つまでの間、あなたがアンナリーザに選ばれる為の努力をする事は健全な範囲内なら認めます。けれど、最終的にそれを決めるのはアンナリーザです」
「私は今すぐ彼女の家族になりたいのです。待つのはかまいませんが、それは確実な約束がある事が前提です」
「保護者として、そんな事を認められません」
そうしてしばらく私達は話し合ったけれど、お互いの主張は平行線のままだった。
「なる程、ではここは魔物同士、決闘で決着を付けようではありませんか。弱い者は強い者に従う。この世界の摂理です」
「良いでしょう。受けて立ちます」
いい加減堂々巡りの議論に疲れた私は、彼の提案を受け入れる。
そっちの方が手っ取り早い。
「ただし、私一人でドラゴンのあなたと戦うには分が悪過ぎる。ここにいるクリスが私と共に戦う事が条件です」
「わかりました。その程度のハンデは甘んじて受けましょう。それに、その方が私としても一人ずつ倒す手間が省けて都合がいい」
ニコラスは、私の提案をあっさりと受け入れる。
よほど自分の力に自信があるらしい。
「二人で勝っても、ちゃんと約束は守ってくださいね」
一方クリスも、やる気満々だ。
竜殺しの異名を持つクリスだからこそ、やっぱりここは彼の実力を確かめておきたいのだろう。
何しろ、クリスの理想の相手は『自分よりも強くてかっこいい人』なのだから。
ちなみに、アンナリーザは私達の話に退屈したのかさっきからずっと私の膝で寝ている。
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