第11話 アンナリーザは得意気

「さて、どうしたものかしらね……」

 新しく魔物寄せの魔法陣を出現させて魔物を引き寄せながら私は考える。

 アンナリーザの言った通り卵も全て孵化させて成長させた状態なのなら、今いる魔物を全て焼き払うだけでいいのだろうけれど……。


「スペースが無いのよねえ……」

 辺り一面に蠢く魔物達を見て私は呟く。

 魔法陣の方を見れば、前より少し上の位置にずらして出現させたのに、もう魔物達によって埋まって見えなくなってしまっている。


「……ん?」

 ふと私は妙に魔物達が密集して積みあがっている事に気が付いて、魔法陣の上に少し間隔を空けて、もう一つ同じ魔法陣を出現させてみる。


 するとどうだろう。

 より高い位置の魔法陣に蛾の魔物が群がり、それを足場にしようとイナゴの魔物がそれに飛びつき、その上をムカデが這うように下から上って間隔を埋める。

 更に下にいる虫達がその虫でできた塔を上って魔法陣に群がる。


 ……これは使えるかもしれない。


 私は更に上に三つほど魔法陣を展開した。

 魔物達は森の中でひしめき合っていた魔物達は、まだ手付かずの魔法陣を目指して、上へ上へと群がる。


 集めた魔物を一回一回焼いていたらいくら魔力があっても足りないけれど、これならなんとかなるかもしれない。


 それから私は下の魔法陣が魔物で埋まる度に新たに魔物寄せの魔法陣を展開して魔物を上へ上へとおびき寄せた。

 おかげで空が白む頃には森の魔物が全て集まる頃にはこの森のどの木よりも高くそびえ立つ、悪夢のような見た目の虫の塔が完成した。


 最後にこの虫の塔を焼き払って仕事は終わりだ。

 地面に降り立った私は、ロッドを振り上げ、残りの魔力を使ってありったけの火力で虫の塔を焼き払う。


「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 目の前で蠢く魔物達が青白い炎に包まれて音とも悲鳴ともつかない鳴き声を上げる。

 炎の眩い光と結界を通してもなお、じりじりと伝わる熱で私は目を細める。


 やがて全て燃え尽き目の前に残った炭になった虫の塔を見つめ、やっと終わったと安心した私は、魔力を使い過ぎた疲労でその場に倒れた。

 もう指一本だって動かせる気がしない。


 同じく地面に転がっているアンナリーザを横目で確認しつつ、微かに明るくなった空を見上げる。

 アンナリーザが起きたら言いたい事は色々あるけれど、不思議と清々しい気分だった。

 そして私の意識はいつの間にか途切れていた。




 次に私が目を覚ますと、なぜか知らない部屋のベッドで寝ていた。

 話し声が聞えたのでそちらに目を向けると、アンナリーザとミーナちゃんが仲良くしゃべっている。

「レティシアさん! 気づいたんですね!」

 ミーナちゃんが安心したようにかけ寄って来る。


「昨日の夜から今朝にかけて、森の方で大きな爆発音や魔法が使われてる様子があって、朝になったら村からでも見えるくらい高い黒い塔みたいなものが立ってて、近くにいた動ける人間だけで様子を見に行ったんです……そしたら二人が倒れていて……」

 私とアンナリーザを交互に見ながらミーナちゃんが言う。


「アンちゃんはすぐに目を覚まして、家のクローゼットから今滞在してる町の施設に繋がってると言うので、そこから何人かで二人を町の冒険者ギルドまで運んで、ここはその一室です」

「あっ、はい……」


 とても丁寧にミーナちゃんは状況を説明してくれた。

 そして、私は自分の置かれている状況を理解して、呆然としてる。

「私、今からギルドの人を呼んできます!」

 ミーナちゃんはそう言って部屋を走って出て行ってしまった。


「ママおはよう! あのね、私ちゃんと言い訳もしておいたよ! 褒めて褒めて!」

「んん!?」

 ミーナちゃんが部屋から出て行った後すぐにアンナリーザはその猫みたいな目をキラキラと輝かせながら抱きついてきたけれど、今、この子なんて言った……?


「アン、言い訳って……?」

「ふふん、本当の事を話したら私が魔法を使えるってばれちゃうから、私が夜中に攫われて、森に連れて行かれそうになるのをママが助けてくれたって言っておいた!」

 恐る恐る私がたずねれば、アンナリーザは胸を張ってどうだすごいだろうと言わんばかりに答える。


「なっ……」

「黒いローブ被った人が森に魔法かけて魔物を卵のやつも含めて全部成長して強くして襲わせてきたけど、全部ママがやっつけてくれたって事にしたんだ!」

「なんでそんな……」

 なんでそんな適当な事を言ってくれちゃってるの!?


「だってママがあの後全部魔物やっつけてくれたんでしょ? 私達を運んでくれた人が森の前に黒焦げになった魔物の死骸が塔みたいに積み重なってたって言ってたよ!」

「だからって……」

 色々とつっこみ所が多すぎてどこから話したものかと私が考えていると、ドアがノックされてミーナちゃんがひょっこりと顔を出した。


「レティシアさん! ここのギルドの局長さんと、国から調査官の人が今朝の事についてお話をうかがいたいそうなんですが、もう入ってもらっちゃって大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫……」


 大丈夫とは答えたけれど、正直私としては今すぐ逃げ出したい。

 やっぱり事情聞きに来ますよねー……っていうか、多分ミーナちゃん達もそのために私達をここに運んだんだろうなぁ……。


 そんな事を考えて軽く現実逃避をしていると、以前、今泊まっている施設を貸し出してもらう事になった時に会った局長さんと、以前報奨金と直々の協力要請の書類を届けに来てくれたお姉さんが部屋に入ってきた。


「失礼します、気分はいかがですかな?」

「あ、大丈夫です。おかげさまで……」

「それは良かった。それでは昨日の夜から今朝にかけて、何があったのかお聞かせいただけますか」

 二人はベッドの前に椅子を用意して座ると、早速私に今朝までの出来事についての説明を求めてきた。


「ええっと……」

「私が黒いローブのおじさんにさらわれそうになったのをママが助けてくれたんだよ!」

 何当たり前のように話に入ってきてるの!?

 私が言いよどんでいると、アンナリーザが話に割って入ってきた。


 それを叱ろうとしたら、局長さんが小さく手を上げて大丈夫だからと合図をする。

 違うんです。

 その子思い付きででたらめな言い訳をしようとしてるんです。

 ボロ出されるくらいなら黙らせたいんです!


 ……とはさすがに言えない。

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