《√4/ともだち100人できるかな》

 小学校の頃におともだち帳なるプロフィールを書きこむ文具が流行ったことはなかっただろうか。あるいは学年が変わったときにクラスで書かされた自己紹介。その中にはある程度の確立でチャームポイントを書く欄があった。当時から私はものは言い様だと感じていて自己申告する特徴など殆ど意味がないと思っている。だって実際に特徴があったらそれは確実にイジメの対象になっていたからだ――


「ねぇねぇ、ノビノにはキバある?」

「ないよ。私は元から草食動物だから」

 キッチンテーブルで書類仕事をしていると無邪気な子オオカミはジョーズのごとく口を開いて「ぼくとちがうー ぼくはキバいっぱーい」と見せてくる。

「そうだね。フゥ君はオオカミさんだからその牙を大切にしなきゃ駄目よ」

 開けっ放しの口にオヤツにと買ってきていたミニ鯛焼きを置くとバクンと音をたてて閉まった。そこに指が残っていたらと少し背筋が寒くなったがそんな恐怖を感じた自分を今更オオカミの牙に怯えるなんてと戒める。子オオカミは口をもごもごとさせ、ゴクリと鯛焼きを飲み込んだ。

「ぼくにはツノないけど、ノビノにはツノがあるー」

 今度は角に触りたいのか、膝に乗ろうとするので私の方から頭を下げて角を触らせてやる。

「おもってたよりかたーい。でもぼくのツメのほうがかたい? キバはね、もっとかたい!」

 撫でまわすように角に触りながら子オオカミは子供らしい中身の感じ取れない感想をいう。けれど、私にとってこの状況と台詞はどこかデジャブだった。カレ、この子の父親も出会ったころに同じように触って、同じような感想を言って心の中で私に「コイツ馬鹿なんだなー」と言われていたのだ。


「……っ!!」


 唐突に頭を肉球で触られ私は反射的に頭をあげて触れられた部分を抑えた。子オオカミは驚きつつも不安そうな顔をして「ツメあたっちゃった? いたかった?」と不安の言葉を口にする。私は慌てて熱くなりそうな顔をごまかし、子オオカミの手を握った。

「私の手は冷たい。でもフゥ君の手は暖かい」

 肉球を人差し指でくすぐると子オオカミは悶えるように体をよじって顔を赤らめる。

「フゥ君の手は本当に可愛いね」

 笑顔を見せると子オオカミは隠しきれない戸惑いと共に「えっと、えっと、ノビノはしろいかみキレイ!」と叫ぶ。笑顔が張り付いたことに子オオカミは気が付いてないだろう。「ありがとう」とお礼を言い、子オオカミを遠ざけるようにミニ鯛焼きを渡した。

 この髪が綺麗ね……この色を抜いた髪が……無邪気というのは本当に罪深い。でもきっとアノ子オオカミは私の髪が何色をしていても綺麗だと言っただろう。子供、なのだから。

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